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タイパとスクリーンタイム

ここ一年ほどで急速に「タイパ」という言葉を目にする機会が増えた。「タイパ」はタイムパフォーマンスのこと。Z世代の特徴として日経で取り上げられることが出てきて、いまでは世代に関わらず、そして時には単に「コスパ」や「時短」の言い換えにも感じるような形での使用例もあちこちで見るようになった。

動画の倍速視聴が好例とされる。他にも歌のイントロが短くなっていることやファスト映画、文字から動画への情報摂取手段の移行(特にショート動画)もよく例として挙げられる。何もかもファストになっているわけではなく、メリハリをつけているのだ、と論じられることもある。メリハリについては一定の納得感があるが、果たして「タイパ」は本当に消費者トレンドなのだろうか?

僕は区分けするならミレニアル世代だが、自分の事例で考えてみる。特に家事周りに時短を求める割に、ボケーッとSNS閲覧に時間を溶かしてしまうことは頻繁にある。ほぼ毎日といってもいい。ツツーッと縦にスクロールをし、時にリンク先に飛び、時に連続スレッドに浸る。時にアカウントページへ飛んでやはり縦スクロールに従事し、時にレスを覗く。10分、20分なんて単位ではない。油断していると平気で1時間、2時間が飛んでいく。これはタイパの極地にある行為ではないか? 有益な時間とはとても思えない。自分で集めて厳選したフォロー先ばかりではあるが、1時間後に残るのは目と脳と右前腕裏の筋肉、この三か所のボヤッとした疲労だけである。同僚に共有したいようなニュースや素敵なブログ記事、好きなアイドルの舞台の裏話や友達の近況、吹き出してしまうようなエピソードや引き込まれるようなマンガなどが次々と出ては来るが、切れ端ばかりだ。いずれConnecting the Dotsされるかもしれない「点」を集めているといえば格好がついていなくもない気がしなくもないが、概ね無駄話と言われても反論はできない。少なくとも自分の場合、ここにタイパはない。

SNSに身を投じている時間が一日1時間であれば、Z世代も含めた人間の中で短い方の部類かもしれない。SNSは「ながら」利用のハードルが低く、倍速動画視聴と同時に行っている人も多かろう。さすればこれはタイパなのだろうか? 二つのコンテンツを、一つはスピードまで速めて同時摂取する。軽ーく薄ーく、大規模なビュッフェのようにつまみ食いを重ねる。数の上ではコンテンツの摂取「数」が稼げているかもしれないが、それが本当に満足の行く選択なのだろうか。家電を買い揃えてまでしたかったことなのだろうか。ガツンと肉の塊を食わなくていいのか。

あるいは、僕がこの文化に乗ることが下手なだけかもしれない。駅から自宅までの帰り道や、自宅勤務の合間の洗濯や食器洗いの際(家電を揃えてもマニュアルの家事は残るのだ)に聞くようになったPodcastの内容は確かに興味深いし面白いが、脳がオートモードで考えを巡らすような時間が減ったことも実感する。もちろん何かを得るには何かを捨てないといけない。特に時間は有限なので、新しいコンテンツ摂取には、新しく摂取しなくなるコンテンツがセットだ。それを「ながら」や「倍速」で行うというのは、最大容量の「枠を広げる」、旧来の法則を覆す大した発明である。でも、タイパを手段としてタイパでないことを行っている気がしてならない。少なくとも自分に必要なのは、情報の波から離れて頭を意識的にボーッとさせたり、逆に意識的にクルクルと回してみることであるように思えてならない。さ、二年半ぶりに大幅なアプリ管理をするか…。前回はTwitterをアンインストールしたが、あれはやややり過ぎだったかもしれない。

Z世代ではないが、確かに「タイパ」には、比較的無意識的ながら足を突っ込んでいた。「ながらPodcast」には、リッチな時間の使い方をしていた感覚すらあった。一方でタイパもコスパも極めて悪い、SNSへの過剰としか思えない時間の費やし方もしていた。生活の中でこれはメリハリのようにも見えるが、自ら眺めてみればシンプルに怠惰の結果であり、結果として矛盾である。SNSを減らして、何かもう少し満足度の高いアクティビティに費やすべきなように思える。SNSの凄まじさの一つは、端切れの時間でも摂取できるし、連続的に何十分も浸ることもできてしまう懐の広さだ。Twitterがなくなってほしくはない(ここでTikTokの名が出てこないあたりミレニアル世代である)が、少なくともスクリーンタイムを設けるべきだろう。と思ったが、手持ちの古いスマホではGoogle純正の「Digital Wellbeing」はインストールできないのであった…。

「スクリーンタイムの管理」(Control the Scroll)は、ユーロモニター(Euromonitor)社が出した2023年の世界の消費者トレンドTOP10の一つである。これを日本のZ世代でのトレンドとされている「タイパ」と絡めて考えてみた。


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