読書メモ「事業創成」小林敏男著

本書コンテンツの面白いと思った箇所の備忘録

筆者の論調・・クスマノ流プラットフォームリーダシップ論にサプライチェーンマネジメントの視点を取り入れたエコロジカルニッチという概念。

エコロジカルニッチ戦略・・事業創成において市場におけるニッチセグメントを橋頭堡とし、そこから効果的なSCMを展開してサードパーティ等の参加を促し、その輪を広げていくことによって形成される「商流プラットフォーム」を元にメインストリーム市場での競争ルールの転換を狙うという戦略

#「カテゴリーキング」という米国の著名な本にも類似したことが書かれて#いた。新しいカテゴリー(市場)を生み出し、そこでトップになり、カテ#ゴリーを広げていく。近年爆発的に成長した米系サービスも、ほとんどが#それまで存在しないようなニッチ市場から始めて、徐々に市場を形成して#キングになっている。

第1章 古典的戦略論

修正RAPモデル・・・ボトム主導で戦略行動(1)が取られる。なぜなら技術や市場に関する情報資源はボトムのオペレーション層が有しているから。ボトムを組織化する組織能力資源はミドル層にあるので、ミドル層が「戦略的コンテクスト」の観点から行動を精査し、トップ層に上申する。トップ層は全社戦略のコンセプトを定め、場合によっては、トップ主導の戦略行動を惹起する。戦略行動は、既存の構造的コンテクスト(2)を通じて実行されるが、場合によっては、構造的コンテクストの見直しが発生する。

#1・・例えば現場主導の新規開発や営業・マーケティング活動 

#2・・既存の意思決定プロセス、企業文化、活用できる人、モノ、金といった資源。時に既存事業に最適化された構造的コンテクストがイノベーションを阻害する(イノベーションのジレンマ)。

SWOT分析のコツ・・・競合対象となる会社を念頭において分析するのが良い。なぜなら、強み弱みというのは、相対的なモノであり、比較対象がいた方がより正確な分析となる。

第2章 イノベーションのジレンマ


・バリューネットワーク:バリューネットワークとは、既存顧客と自社、サプライヤ、流通事業者などからなるネットワークであり、いわば企業にとっての生存環境、あるいは生態系である。企業は生き残りをかけ、この環境に適合すべく、能力・組織・プロセス・コスト構造・企業文化・価値基準を確立する。同業と見なされている企業でも、高級品と普及品というように異なるバリューネットワークに属する場合、そこで通用している価値基準も違ったものとなる

・クリステンセンは優良企業が破壊的イノベーションに着手できない理由を5つの原則にまとめている

原則1:既存顧客と投資家に資源を依存している

メインストリーム顧客や投資家が欲しがらない市場が出来上がる前のプロダクト開発には投資できない

原則2:小規模市場では大企業の成長ニーズを満たせない

会社規模に応じた収益が求められるので、これから成長が見込まれる新興市場には手を出せず、既存の大規模市場しか手をつけられない状況が発生する

原則3:存在しない市場は分析できない

投資計画を立てる時、これまで存在しなかった市場は定量化したデータが取れず投資判断ができない。

原則4:組織能力が無能力となる(帰って邪魔をする)

プロセスや価値基準に柔軟性はない。既存事業に最適化されたプロセス、価値基準で新事業を進めることが足かせとなる

原則5:技術の供給が市場の需要と乖離する

メインストリーム市場で長らくインクリメンタルイノベーション(漸次的改善)を繰り返していると、オーバースペック状況に陥ったりして、顧客の需要との乖離が発生する、破壊的技術は当初は小規模市場でしか扱われないが、力をつかてやがてメインストリーム市場に進出し、市場の顧客を奪っていく。これまでの主流製品は帰路に立たされ、コモディティ化によるハイパーコンペティション状態に陥り、コスト競争力のある後発企業が優位となる。

・コスト構造とビジネスモデル

ひとたび違う商流、バリューネットワークのもとで薄利多売のビジネスモデルとコスト構造を身に付けると、その上位にあるメインストリーム市場が粗利の高い有望市場に見えてくる。後発ゆえのブランド劣位はあっても、製品における新規性と低価格によって回収できると考え、破壊的企業は上位市場に進出するようになる。

失敗事例:アップルのPDAであるニュートンと、ヒューレットパッカードの1.3インチHDDドライブ。綿密な市場調査にも関わらず失敗。市場の読み誤り。HPの方は、他に市場があった(需要があった)にも関わらず見落とした。

まだ、見えていない市場に破壊的技術を投入する場合、その用途を顧客とともに学習するプロセスとスラック(余裕)資源が必要となる。アップルもHPも既存のプロセスと価値基準で新規事業を行ったのが失敗の原因。本当の市場が見えていなかった。つまり、既存のマーケティングプロセスで市場を想定し、想定市場での仮想ニーズから製品開発を行ってしまった。もしくは開発を見合わせてしまった。==>用途探索の学習プロセスが必要。時間もコストもここでは要する。そのため小規模組織に探索を委ね、組織の自主性にかけなければならない。試行錯誤の連続が必要。

#上述の用途探索 、小規模で実行、試行錯誤の繰り返しは、Amazonが新規#事業開発で行っている。ジェフベゾスは、2ピザチームと名付けて、ピザ#2枚以上必要なメンバでの会議を禁止し、かつ、現場に権限委譲して、実#験を繰り返して、新規ビジネスを起こしている


イノベーションのジレンマの回避方法

クリステンセンは以下の3つを掲げている

1)異なる資源依存、プロセス、価値基準を有する企業を買収し、そこの組織能力を活用する。その際、決して本社のプロセス、価値基準を押し付けてはいけない。

2)スピンアウト組織を作り、そこには、既存の資源依存、プロセス、価値基準を押し付けてはいけない

3)既存の資源依存、プロセス、価値基準を抜本的に改める

3)はCEOが死ぬ気で取り組まないと実現せず、実際に成功した事例は少ない(会社存続の危機になった場合にて成功事例があり、ジョブズが返り咲いて大幅な事業リストラを繰り返して、iMacの市場投入で息を吹き返したアップルなど)

第3章 オープンイノベーションへの展開

イノベーションのジレンマ問題に対して、オープンイノベーションによる解決策を提唱しているのがチェスブロー。2006年にOpen business model、2011年にOpen services Innovationを発表。

事例:シスコシステムズのスピンインという手法

イノベーションのジレンマ解決策としてのベンチャーの買収:自社製品が属するメインストリーム市場の近傍にあるニッチ分野でのベンチャー企業を発見することができれば、その企業の動向をモニタし、評価が高まれば、少額のエクイテイ投資を行えば良い。そのモニタの結果、本当に期待できるとなれば、買収すれば良い。

本体とその事業部門は、投資決定について、CVCと密に連携を取るべき。CVCの使命は、じぎょうぶもんの技術課題の克服、開発アウトソーシング、技術提携、買収など多岐に渡る。CVCは専業VC 、ベンチャー企業、大学、研究所等との連携を密にし様々なビジネスモデルを学習する。この学習を既存のじぎょうぶもんに新たなアイデアや技術の可能性を吹き込むことに繋がる。

第4章 プラットフォームリーダーシップ

エコシステム:インテルの事例

CPUの性能が上がっても物理的な部品間のバスの速度が遅く、HDD、グラフィックス、その他バスに接続される全ての処理が遅いという問題が80年代に正じ、インテルは高速化する次世代のバス規格としてPCIバスというものを開発する。このPCIバスを使った次世代マザーホードの開発をマザーボードベンダに要請するが、受け入れられず、結局時インテル自身が内製してマザーボード開発をすることになる。同時にIBM,コンパックら5社と戦略的利害関係Grを形成する。このGr形成に際し、PCIバス規格をオープンにかつ知財実施料を無料にすることとし、かつPCベンダーからの様々な要求への対応を実施した。CPUの部品メーカーのインテルが各種バスとの互換性確保のみならず、機種いぞんにも対応したCPU、チップセット、マザーボードを開発することになったのである。他のチップセット、マザーボードベンダーの参入を促し他のは、PC産業を発展させることで、自社を成長させるという信念があったから。その後、US B規格の標準化とその推進もインテルは実施している。USB規格については、API,SDK,DDKといった開発ツールを提供するだけでなく、動作確認、互換性確認の研究会を3ヶ月ごとに行っていた。(実装面ではインテルが有償サポートでベンダーを支援)さらに、インテルインサイドというマーケティングキャンペーンにより、エンドユーザ認知を高め、ブランディングを強化した。

プラットフォーム形成とプラットフォームリーダーシップ戦略を実行する仕組みにおける4つの観点(ガワーとクスマノ)

1)企業の範囲

何を社内で行い、何を外部企業にさせるべきか

2)製品化技術

システムアーキテクチャのモジュール化度合い、インタフェースの解放度合い、知的財産(プラットフォームとインタフェースに関する情報の外部企業への開示程度)に関する意思決定。例えばインテルはPCIやUSBといった接続に関わる伝送経路(バス)のアーキテクチャ規格をオープンにしたが、CPUの演算処理技術はクローズドのままにしている。

3)外部の補完業者との関係

補完業者とどの程度協働的であり、競争的であるべきか。どのように合意形成し、利害対立はどう処理されるか

4)内部組織

上記1から3を補完するためにどのように内部を組織化すべきか

オープンということと、インタフェースの標準化がプラットフォームの規定要件であり、ここにモジュラー数とその種類が豊富になればなるほどプラットフォームの標準化が進み、社会的価値が高まる。

第5章 キャズムの発見

1991年、ジェフリームーアはキャズムを発見・提唱する。初期市場からメインストリーム市場へ移行するときに大きな溝があ利、新規事業はここに落ち込んで成長しないことが多い。

キャズムを超えるための準備

初期市場で受け入れられたものを実利主義者のメインストリーム市場でも受け入れられるために、ムーアはニッチ市場でまずは成功せよとのこと。実利主義者全般といった曖昧なターゲットのもとので市場展開は経営資源のないベンチャーやタスクフォースにとっては自殺行為。

ニッチ市場の得性:顧客は同業者が多い。口コミで噂が伝わりやすく、信用を得やすい。また、市場規模が小さいためマーケットリーダーになりやすい。業界紙に取り上げられてブランド化しやすい。

ニッチ市場をどう特定するか・・・ムーア曰く、顧客の数ではなく、顧客が感じている痛みの大きさでターゲット市場を決めるべし。

事例:自転車部品メーカーのシマノ。 ニッチ市場として、自転車が盛んではなかったアメリカのマウンテンバイク市場を選び、オフロード使用に耐えうるコンポーネント作りを目指してマウンテンバイク市場を席巻。そこからスポーツレジャー、ツーリング、ロードレースへと市場を拡大。

顧客へのブランドイメージづくり、販売ディーラー、部品ベンダー、組み立て販売業者へのサポートとったものは拡張プロダクト。顧客、販売ディーラー、部品ベンダー、志摩を繋ぐ商流こそが、シマノのサービスプラットフォーム。

第6章 エコロジカルニッチの薦め

エコロジカルニッチ戦略・・・ニーズよりもウォンツを探る。ニーズは顧客が意識、半意識している望みであり、利便性の向上につながる。ウォンツは、顧客の苦痛、悩み、課題であり、これが解決されたならば、プライスレスと感じるという状況が待ち受けている。

そして、サードパーティを巻き込んだ積極的なサプライチェーンマネジメント、それに基づく商流プラットフォームの構築。




       


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