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未来の建設業を考える:「建設業のビジネスモデル」

PBR(株価純資産倍率)

 昨今、M&A(企業の合併・買収)に注目が集まっている。その過程において企業価値を判断する指標としてのPBR(株価純資産倍率)が議論の一つとして持ち上がっている。株価純資産倍率とは、単純に言えば会社の資産額と株の時価総額を比較したとき、1株当たりの純資産(株主資本または自己資本)に対し、株価が何倍まで買われているかを表わしたものだ。この観点から、買収対象となった企業の株価が企業活動に比べて安価であり、今後の上昇が見込めることから買収を実施した事例が注目を集めている。

大手建設会社のPBRは

 この聞きなれない指標を建設業に当てはめてみると、各大手建設会社のPBRは1.4〜2倍程度となっている。確かに、あるIT(情報技術)企業の4.2倍には届かないものの、自動車大手などと同様の水準になっていて、ひと安心というところだろうか。しかし、この機会に、PER(株価収益率)、ROA(総資本利益率)、ROE(株主資本利益率)など、他の指標を見てみると、他産業との違いが見えてくる。
 建設業は、とくにROAが1%未満と少なく、資本に対する利益率が小さい。IT企業が6%を達成したり、自動車産業が5%を超えたりするのに比べて、かなり小さい。ROAを高めることは、利益率の改善である。費用やコストの削減や売上高の増加によって実現できる。
 そのため、安易に次のような結論が得られる。
 「建設市場規模(売上高)に飛躍的な拡大が見えないことから、当然ながら費用・コストの削減が必要不可欠である」

「建設市場は縮小化・コスト削減不可欠論」的な前提

 しかし、この「建設市場は縮小化・コスト削減不可欠論」的な前提は、建設市場を形成する者の考え方によって、大きく変えることが可能であると考える。
 第1に、建設産業が求める建設市場は建設目的の市場形成を前提とした規模を想定しているのであって、PFIや不動産証券化ビジネスに見られるような業務拡大による新たな市場の創造が可能であること。
 第2に、最も利益率の高いと思われる建設産業におけるフィービジネス、たとえばデュー・デリジェンス(資産の精査)、PM/CMや研究開発分野などの拡大など、建設市場におけるサービスの扱いが変化しつつあること。
 第3に、専門工事業者の管理能力の向上により、ピラミッド型の産業構造に変化が生じつつあり、重層化による利益配分構造からフラット化による儲かる構造への変化など、いくつかの環境変化のきざしが建設市場の規模に大きな影響を及ぼすと考える。
 建設経済研究所の調査によれば、大手・中堅建設業者59社を対象に、不動産証券化への取り組みを聞いたところ、全体の75%の企業が不動産開発を展開または検討することとしており、不動産の証券化についても27%が活用したい、59%が検討していくと回答している。このようなところからも、建設産業のビジネスが建設をコアビジネスとしつつも、サービスの幅を広げるような動きが始まっていると言えよう。

建設産業に関するビジネスモデル研究の重要性

 以上のようなことを考えたとき、重要産業である建設産業に関するビジネスモデルや経営戦略論を研究している大学機関が欧米に比べると圧倒的にすくないことに気がつく。
 市場が従来型から脱皮しようとしているいまこそ、新たな建設経営モデルに関する研究者の立ち上がりに期待したい。

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