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未来の建設業を考える:建設論評「技術伝承」(2012年5月21日)

ローマ帝国を支えたコンクリート技術

 土木工学の小林一輔先生は著書「コンクリートの文明誌(2004)」によれば、コンクリート技術は、すでに2千年前のローマ帝国において完成しており、コンクリート技術があればこそ、道路や水道施設、建築における大規模な社会インフラを構築することに成功し、繁栄をもたらした。
 しかし一方で、建造物の修理・修復事業が歴代皇帝の重要な仕事となるに至って、その社会インフラの補修費が膨大となり、ローマからコンスタンティノープルへと首都機能を移転し、それを契機にローマ帝国の滅亡につながった。それとともに、コンクリート技術も失われ、1500年後のドイツでコンクリート技術が復活するまで、コンクリート技術は伝承されることがなかった。
 どうして、コンクリート技術が失われたのか?
 それは、ローマ帝国以降、コンクリート技術を応用するような建設プロジェクトが無くなり、教会建築に見られるような石造りに大きく建設プロジェクトが変化したからだ。

減り続ける建設業就業者数

 一方、現在の建設産業を見てみると、建設業就業者数は1997年の685万人から2010年の498万人まで、約200万人も減少した。年齢階層別の就業者数でも55歳以上が33%と、かなりの高齢化が進んでいる。
 建設業における技術者、熟練労働者のリタイア問題は、他の産業に比べてより深刻な問題となっている。特に、昨今の品質低下が人の技術力に左右される建設産業の特徴として、技術力を持った「担い手」の高齢化は、今後の品質確保として産業構造を根幹から揺るがす大きな問題となってきている。

 (社)日建連の「建設技能者の人材確保・育成に関する提言(2009)」では、建設技能者の減少、高齢化、新規入植者の減少、高い離職率等の原因として、年収の低さ、職場環境の悪さ、退職後の生活への不安等により、ものづくりの達成感を実感できるという建設業本来の魅力が感じられなくなってきているということが大きいことを指摘している。更に、後世に残る建設遺産を生み続けるためには、優れた技能と技術を持つ「人」が必要であることを強調している。

 (社)建設産業専門団体連合会の「建設産業における技能承継に関する調査報告書(2006)」によれば、基幹技能者の適正な評価、活用、人材育成システムが必要であることを強く指摘している。また、次世代人材育成策を早急に構築する具体的な検討も行っている。

技術を持った「人」をいかに育て、技術の伝承を図るか

 ここで重要なのは、品質確保のために何を承継すべきか?であろう。それは技術を持った「人」をいかに育て、技術の伝承を図るかではないか。
 伊勢神宮の式年遷宮では、20年毎に遷宮を行うことで、代々の技術を伝承することに成功している。技術が伝承できる建設プロジェクトがあってこそ、人の技術が伝承される道ができる。小林先生は、コンクリートの品質の問題は、人であることを指摘しているが、建設業全体として技術の伝承が可能となるような「人」を育てるような建設プロジェクトの創造が、今まさに求められていよう。
 改めて、ローマ時代のコンクリート技術とならないためにも。

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