未来の建設業を考える:「期待が膨らむインフラシェアリング事業」(2022年6月28日)
第5世代移動通信システム
デジタルトランスフォーメーション時代に求められる超高速・大容量、多数同時接続を支える情報基盤となる5G(第5世代移動通信システム)。自動運転や遠隔地操作などに、大いに活用が期待されている。2時間の映画もわずか3秒でダウンロード可能だ。この5Gネットワークを実現するためには、大容量のデータ転送によってトラフィック量も増大するため、今よりも細かく、多数の基地局が必要となる。
日本の通信キャリアが人口カバー率90%達成などと宣伝しているが、実は地図上で見ると、まだまだスカスカの空き地状態。政府のめざすデジタル田園都市国家構想の全国99%のカバー率を達成するためには、現在の基地局28万局の約2倍の60万局が必要とも言われている。
携帯電話基地局タワーの設置にかかる費用
携帯電話基地局タワーの設置にかかる費用の過半はタワーの建設工事費、それに加えてRAN(Radio Access Network)と呼ばれる無線設備機器が30%、コアシステム機器他が20%で、建設工事費の負担が大きい。
基地局タワー建設投資が通信キャリアにとっても重い負担となるため、海外、特に欧米、中国、インドでは通信キャリアが基地局タワー部分を共有化する、いわゆる「インフラシェアリング事業」で先行し、ビジネスが急拡大している。
インフラシェアリング事業
英国ボーダフォンでは「バンテージタワー社」というインフラシェアリング事業会社を設立し、英国西半分の基地局事業を担うとともに、ドイツやフランスなど欧州各国にも進出し、一定の事業シェアの獲得に成功している。
スペインの「セルネックス社」は、スペインだけでなく、イタリアでも1万を超える基地局タワーを所有し、海外展開している。
中国は国策としてインフラシェアリング事業会社「チャイナタワー」を設立し、通信キャリアが共有して利用できる仕組みを整えている。さらに、5Gへの投資も2020年時点で2.8兆円と大きな投資になっている。
米国では、ATTとベライゾンという対立してきた大手キャリア同士が基地局タワーを共有化するなど、協業の動きもみられる。
日本でも、Jタワー、住友商事、東急などが事業参入を目指したり、携帯基地局建設に携わってきた「豪レンドリース日本法人」が、インフラシェアリング事業への進出を発表したりしている。
基地局タワービジネス
基地局タワービジネスは、市場の信用力が高い大手キャリアが10年から20年の長期契約を行うこと、また利用するキャリアが増えれば増えるほど投資回収効率が高まること、キャリア自身も過大な投資負担を回避できるなど、「三方良し」のビジネスとなっている。
それがまさに、5G時代となれば、当然、インフラシェアリング事業ニーズは高まるはず。
ただし、日本において共有化が進まない大きな理由は、キャリアごとにシステムが異なるため配置ニーズが違うこと、キャリア自身の差別化のため、いまだにエリアカバー率競争を進めていることが原因と言われている。ただし、これまで以上に5Gニーズが大きくなれば、キャリア自らの投資負担も大きくなるため、共有化のためのインフラシェアリング事業が進む可能性は大きい。
こう考えてくると、建設業としても、工事を請け負うだけでなくサブスクリプション型モデルとしてのインフラシェアリング事業への参画は、今後の有望なマーケットとなる可能性を感じる。新しい資本主義時代の「競争」から「協調」への好事例にもなり、各社の先進的な取組みに期待したいところだ。