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未来の建設業を考える:建設論評「ChatGPT時代の設計者」(2023年7月12日)

話題のChatGPT、チャット(言葉のやりとり)だから、図面作成はAIに代替されないと考える人も多いと思うが、文書で書かれた設計要求書をBIMデータへ変換することも生成AIで瞬時に完成してしまう世界がすぐそこに来ている。
アメリカ建築家協会(AIA)主催のオンラインセミナー(2023年5月)のなかで、BIMSTORM社の米建築家キモン・オオヌマ氏が、東京の築地市場跡地に生成AIとBIMを用いて設計するプロセスが紹介された。
衝撃的なのは、生成AIとBIMSTORMが開発した自動生成BIMにより、わずか10分という時間で、18階建ての住宅設計が設備も含めて完成できることだ。
生成AIが43ページのPDFファイルで作成された文書の設計要求書を分析し、ウオーターフロントや東京の持つイメージを加え与条件が整理されると、AIを用いた自動生成BIMにより、ただちに、築地市場の跡地にホテル、住宅、学校施設、文化施設など複数のBIMモデルが生成される。それも設備図も含めてだ。マンションの部屋から見た隅田川の眺めも、すぐにBIMで確認可能だ。しかも、AIが作成したBIMモデルを用いて、フランク・ゲーリー風の設計に変更するなど有名建築家のデザイン(外観イメージ)に似た設計も可能だ。
日本でも、mign(マイン)社が開発した「chact(チャクト)」は、建築基準法などの建設関連法律429法規を機械学習させ、ChatGPT建設版とも言えるサービスを展開している。建築基準法や日影などの規制等も考慮した設計も可能だ。近い将来、構造計算も積算なども、AIで可能となろう。
2023年3月、米ゴールドマン・サックスが発表した「生成AIが経済成長へ及ぼす影響」レポートのなかで、最も影響を受ける業務は、「事務サポート」で、46%がAIに置き換えられると予測し、次が「法務業務」で44%、なんと3位が「建築設計・エンジニアリング業務」で37%がAIで代替可能、と予測している。米ハーバード大の住宅研究共同センターも、2022年11月「すぐにではないが、生成AIが建築設計を破壊する側面を持つ」ことを指摘している。
それでは、このようなダイナミックな環境変化に設計者はどう対応すべきか?
生成AIを設計支援ツールとして活用することを考えるべきだ。すでに、大成建設の設計部門では、過去の工事案件や品質管理部門からの指摘事項をベースに、設計で気をつけるポイントをすぐに把握することができる「AI部長」というシステムを活用しているそうだ。
ただし、建築はデザインだけでなく、街の景観、地域社会への配慮など、単体の建築だけでなく、社会的、都市的な領域までをも含む。さらに、設計図書を完成させることだけが設計者の役割ではなく、工事と設計図書の照合などの工事監理業務、請負代金、工程表の検討、工事費支払いの審査など、設計図書作成以外の多くの建築関連業務やマネジメント業務を実施することが求められている。これらの業務の一部はAIを用いて簡素化可能ではあるが、人の介在が必要な分野が大半だ。
それゆえ、人としての「設計者」の役割が重要となるはず。
いつの間にか、設計部門の中でドラフターや模型を見かけなくなったことと同様、ツールとしての設計AIの活用を進めることで、より生産性の高く、品質の高いデザインを提供できるものと確信する。大いに、AIを活用した設計者が登場することに期待したい。

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