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未来の建設業を考える:「式年遷宮に見る保存」

建物保存

 建物保存について、法隆寺のように当時の建物をそのまま保存し、現在に伝える方法が一般的な考え方である。

伊勢神宮に見られるような「式年遷宮」

 一方で、日本人の知恵として、伊勢神宮に見られるような「式年遷宮」により、伝統的な弥生建築の技術や天然資源である木材という材料を伝承することで、「技術」「材料」の保存を行う方法も、伝統的に保存の手法として実施してきている。どちらが保存にふさわしいか、それはどちらも保存と言えるのであろう。
 モノそのものを保存することと、伝統や技術といった目に見えない文化を保存すること、どちらも必要不可欠なものである。
 これらを考えると、建物の保存についても、何を後世のために保存するのか、単純に建物を保存するだけではなく、日本の品質を成し遂げてきた技術の伝承といったことも、保存としてきちんと再定義していく必要があると思う。

式年遷宮を採用した理由

 伊勢神宮の式年遷宮では、天武天皇以来、戦乱等を除き、20年毎の建て替えが、今日まで続いている。式年遷宮を採用した理由は、
①「弥生建築」という建築様式を保存するため
②神道の精神として、常に新たに清浄であること(「常若(とこわか)」)を求めたため
③大嘗祭、新嘗祭、神嘗祭など、祭祀の意義が再構築されたため
④皇宮の遷移に代えて、遷宮が行われたため

と言われている。

式年遷宮が20年毎に行われる理由

 また、式年遷宮20年毎に行われる理由も、
①宗教的な意味における建物の「清浄さ(常若(とこわか))」を保つ限度が、20年程度であるため
②建替えの技術の伝承を行うためには、一生に2回遷宮に携われるという意味において、当時の寿命や実働年数から考えて、20年間隔が適当とされたため
③神嘗祭に供される穀物の保存年限が20年であるため
などと伝わっている。

技術の伝承

 ここで重要なことは、実際に建築に携わる大工が10歳代で見習いとして働きはじめ、最初の遷宮を中堅として経験し、2回目の遷宮を棟梁として采配することで、技術の伝承がなされていることにある。
 建設業ハンドブック09によれば、現在の建設業界では、55歳以上の建設業就業者数が10年前に比べて10万人増加しているのに対し、35歳までの労働者数は80万人も減少している。明らかに、建設業における若年労働者の割合が減ってきており、産業活力や技術の伝承と言った面で問題が生じている。 

技術の伝承の欠落や技術力軽視の流れ

 耐震偽装に見られるように、建物品質の劣化は、現代において技術の伝承の欠落技術力軽視の流れから発生している。
 社会経済学者であるマックス・ウェーバーは、資本主義ゲームの結果として、「精神のない専門人」「心情のない享楽人」の時代が到来することを予言しているが、技術の保存と伝承を建設業界全体として取り組むべき新たな方策、新たなプロジェクトのあり方が求められている。

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