【詩】夢のカケラ
夢をいっぱい詰め込んで背中にしょったランドセルは、初めはどの面もピンと張り、内からの力も外からの力も等しくいなし、その箱型をぱっつんと維持していた。きみがぐんぐん成長し、肌艶を煌めかし、表情に強い意志が宿るにつれ、彼は反対にくたびれてゆき、内からの力にも外からの力にも軟弱に歪み、きみの背中に対してめっきり小さくなった。その対照的な変化はきみが彼の生気を吸い取ったようだった。否、それは違う。きみがそれほど彼に興味を示さぬうちに、きみが彼のことなど道具としてしか見ていぬうちに、あまつさえ新しいものに買い替えてほしいなどと考えているうちに、きみは彼から少しずつ差し出される夢のカケラを知らず知らず受け取っていたのだ。きみが彼を手放してから久しいが、受け取った夢のカケラはどうしただろう。見たところ、顔が少しやつれ、やや翳りが差しているようだが気のせいか。何かから目を背けるように伏せられたその瞼は何だ。あのとき感じられた強い意志はどこへ行った。今きみが手にしているその鞄は何だ。ところどころ擦り切れたり、縫い糸がほつれたりしている。入っているのは書類か何かか。ぱつぱつに膨らんではいるが、張りがあるというよりは、もったりしている。夢はひとつも入っていないのか。そのカバンはきみに、夢のカケラを差し出してはいないのか。否、それも違う。差し出している。差し出しても差し出しても、きみが右から左へ捨てているから(かつてのきみはそうではなかった)、お互いにやつれるばかりなのだ。
簡単なことだ。
夢のカケラを受け取ろう。
そうすれば、事態はほんの少しだけ好転する。
*月刊詩誌「ココア共和国」2024年3月号 佳作集Ⅰ*