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スタートアップにおけるマイルストーンの設定方法と論点

ANRIというVCでキャピタリストをしている丸山です。

今回はシード期のスタートアップが短期・中期・長期マイルストーンを設定する際に何を考えるべきかについて深堀したいと思います。特にシード調達をされる企業向けに、次回ラウンドを見据えた短期・中期の目標設定方法や注意点を中心にまとめております。
マイルストーンをどこに置くべきか、目標に合わせて日々どのように組織を動かすべきか、等に悩まれている方に少しでもお役立てれば幸いです。

注意点:どの企業も事業規模、資金力、企業文化など様々な部分が異なるためone size fits allな戦略はありません。会社によって使える・使えない部分があると思いますので、ぜひ自分たちの事業と照らし合わせながら活用できる部分をピックアップ頂けたら嬉しいです。


1. マイルストーンの時間軸

短期・中期・長期の定義は人によって異なると思いますので当記事内では以下のように時間軸を定義したいと思います。

  • 長期マイルストーン:10年~15年後のロングスパンで考えた会社のあるべき姿。真に目指している会社像

  • 中期マイルストーン:調達をするのであれば、次の調達タイミング。平均ランウェイを考えると約1~2年後

  • 短期マイルストーン:2週間~最大1ヵ月で区切った「今週・今月は何をやり切るのか」という具体的なアクションプラン

続いて今回の本題である各マイルストーンの考え方を解説していきたいと思います。簡単なサマリーは以下のスライド通り

2. 長期マイルストーンの考え方

Vision・Mission・Purposeなどの目指す方向・あるべき姿。これらを言語化するのは非常に難しく時間もかかりますが、考え方は分かりやすいため短めに説明します。

  • 会社とは常に付加価値をお客様に提供できなくては存続できません。「自分たちの存在意義は何か、なぜ必要とされるのか」等は会社の土台となり、これを言語化したものが長期マイルストーンにあたります

  • 日々売上や利益を追い、組織を拡大させていく中で「そもそも何が会社の目標なのか」を見失いがちです。見失い始めると目先の利益を追求したり、会社の一体感が失われたり、方向性がブレたり、企業経営にとってネガティブな事象が多く発生します

  • そうならないためにも、長期マイルストーンは時間をかけてでも言語化しチーム全員の共通認識にしておくことはシードのスタートアップであろうが、何万人を雇用する大企業であろうが非常に重要だと考えます

「シード期にこんな言葉遊びをしても無意味」と思われるかもしれませんが、少なくとも経営陣以外のメンバーを採用した段階で一度考えてみてください。自分たちを見つめ直す良いきっかけになると思います。

3. 中期マイルストーンの考え方

続いて中期の考え方を少し具体的に考察したいと思います。
初の調達(シード)に挑戦される方であれば次回ラウンドとなるSeries A(もしくはPre-A)での目指す姿が中期マイルストーンになります。
では考えるべきことは何か。大きくは3つあると思っています

まずは本章のまとめ

3.1 【定性目標】どのような価値提供が可能になるのか

  • 提供価値が成長し続けなくては会社の存続はありえないため、まずは「1~2年後にどのような価値を世の中に与えられる会社に成長するのか」を定性的に考え、言語化し、中期目標の核とすることが大事です

  • まずは定性面から考えることをおすすめします。KPIに拘ることは重要ですがこれらは定性目標に到達したことを証明する結果でしかありません。「どれほどの売上規模を目指すのか」を考える前に「どのような提供価値を追求するのか」を考えてみましょう

  • 極論、この提供価値さえ正しければ売上は付いてきます。逆に「DL数10万人!月商500万円!」という目標だけ掲げてもチームが向かうべき方向性は見えません

3.2 【定量目標】価値提供を証明する数字は何か

  • 定性目標が言語化できたら、これらを実現した際に「定量的にどれほど進捗するのか」も考えてみましょう(ここでやっとKPIに意味が現れます)

  • ポイントは定性目標で示した「付加価値」が本当にユーザーにとって有益だったかを証明できるKPIを設定することです。強気のマーケ費で稼いだ売上・DL数よりも、ユーザーが価値を感じてくれていることを証明できるKPIが大事です(これらが達成できるとPMFが見えてきます)

    • C向けビジネスであれば、リテンション率やエンゲージメント指数。B2BであればチャーンレートやNPSなど、どれほど深く事業に入り込めているかを表す指標、等

  • PMFとは「狙っているターゲットに、狙っている価値が出せていている」状態です。その上で十分な規模でも実現しなくてはなりませんが、まずは規模よりも一定数のお客様に深く浸透させることが第一歩です

  • そして適切なKPIが設定できれば、何を改善すべきかが可視化されると思いますので日々のオペレーションに組み込むこともできます

3.3 【実行プラン】次回ラウンドまでのアクションは何か

  • 上記1と2を実現するために、会社としてこれから何に取り組むのかも合わせて考えてみましょう。営業・マーケ・採用・開発など様々な項目があるかと思いますが、ここもしっかりと考え抜くことをお勧めします

少し話はそれますが、VCへピッチをする起業家向けに1点だけ

  • ピッチ資料に「資金用途」というスライドをまとめられることが多いと思います。XX人採用でXXX万円、開発にXXX万円、等。資金用途も大事ですが「調達資金でどのような会社に成長したいか。その結果会社としてはどれほど定量的に進捗するか、そのためには何をするのか」(上記3点のまとめ)を明示する方が具体的に何にお金を使うかよりも数段重要です

  • シード期は日々変化が激しいため調達時に掲げた目標がブレることもあります。しかし、起業家の考える将来の絵姿は重要です。その「一歩目の将来像」として、次回ラウンドでの姿をどのように考えているのかを投資家と議論することは双方にとって重要だと思います

まとめると
1.今と比較してどのような価値を新たに提供できるようになるのか
2.提供価値が増えることにより事業はどのように定量成長するのか
3.これを実現するために何をしなくてはならないのか
この3点をまとめたものが「中期マイルストーン」となります。

4. 短期マイルストーンの考え方

短期マイルストーンとは会社の提供価値を促進させるための小さな一歩です。一定期間の中で「価値を少しでも向上させるために、今何をすべきか」が基本思想となると思っています。中期目標達成のためにやるべきことを2週間~1ヵ月単位で分解したものが短期目標となります。

これに関連するAgile、Kanban、Scrum等の「組織運営」の在り方やEpic、Sprint、MVP、User Story等の「成果物・進捗」を区切るための用語があります。厳密な定義は異なりますが、この僅かな違いを理解することや完璧に再現するために努力することは本質的ではありません。重要な点は世界中で使われているこれらのコンセプトに共通する要素を理解し、自分たちの事業に落とし込むことだと思います。
今回はカギとなる4つのポイントを取り上げてみます。

4.1 目標は全てお客様目線で設定

  • 何度もしつこいですが、お客様が感じる価値の向上が重要です。そのため、「XXXを実装、XXXをアップデート」というタスクを列挙するよりも「この期間(2週間~1ヵ月)の間にどのユーザー体験を向上させるのか」という思考を常に心がけましょう。「XXXを実装」はそれを実現するための手段でしかありません

  • 頭の中に浮かんだアイディアを次から次へと実装していくのと、お客様目線に立って優先順位を決めていくのでは、2年後に大きな差を生みます。考えてみれば至極当然、けど常に意識しないと出来ないことの代表例だと個人的には感じています

  • 運営方法のイメージは下記スライドを参考にしてみてください。大事なポイントは目標設定はなるべく「お客様視点」で考えることです。こうすることにより「自分たちは強い拘りがあったが、ユーザー視点では低価値」な作業を極力避けることが可能になります

4.2 シード期は仮説検証の繰り返しが命

  • 残念ながら目標に定めた「向上させる価値」、大体外れます。これはシード期では当たり前で、自信を持ってリリースした機能が誰にも使われなかったってことは本当に良く起こります

  • そのため、いかに多くの検証を繰り返し、ユーザー反応を見て、素早く適応していくかが勝敗を大きく分けます。時間をかけて狙いすました価値を届けるのではなく、とにかく失敗前提で検証を重ねることが大事です。その際になぜ仮説が外れたのかを理解できれば、これは一歩前進と言えます

  • 「今週・今月は何を学べたのか・それを次にどう活かせるか」を常に自問自答することも大事だと思います。すぐ答えが出る場合は事業進捗が良く、学びが無かった理由が増えてしまっている場合は要注意です!

  • 一方で人生の全てをかけた起業、「失敗前提で行くぞ!」とマインドセットを変えるのは困難です。そんな時に近くにいるけど俯瞰して事業を見ている投資家と壁打ちできるのも、外部調達するメリットの一つだと思っています(ちょっとした宣伝。いつでもご連絡ください

4.3 定期的に「成功・失敗から学ぶ」マインドセットを徹底

  • 2点目と強く被りますが大事なことなので特筆します。とにかく前に進むことに全力を出さなくてはならないスタートアップですが、しっかり立ち止まることも同じぐらい重要です

  • 仮に1ヵ月サイクルでマイルストーンを置いてるのであれば、月末最終日にチーム全員で何が成功・失敗し、そこから何を学び、来月どのように学びを活かすのかをしっかりと議論する時間を設けてみてください

  • 経営陣の頭の中でなんとなく「あれはXXXだからダメだったか」の脳内メモ程度だと毎週・毎月一歩一歩を繰り返す中で、高い確率で同じミスをしてしまいます。スピード感が命のスタートアップですが、定期的に立ち止まる勇気も必要です

4.4 優先順位の決定こそが戦略作りの要

  • 時間もリソースも限られるスタートアップで、事業を進捗させるチャンスは決して多くありません。そのため、検証を展開していく優先順位を考えることはシード期のCEOにとって会社の命運を分ける重要な役目です

  • マイルストーンを区切らず「できることは何でもやる」スタイルで走り出すと高い確率で失敗するため、今週・今月は何をしたら中期目標に近づくのかを常に考える必要があります。これを少しでも容易にするためにも、短期マイルストーンを置いてしっかりと時間を区切り、毎週・毎月振り返りながら一歩ずつ前に進むことが大事です

  • 優先順位を決めるロジックは会社それぞれにあるため、無理に何でもコンサルタントが作るようなフレームワークに落とし込むことはおすすめしませんが、どうしても悩んでしまっている人向けに一つだけ(参考程度)

  • 内容はスライドに書いてある通りですが、全象限に打ち手が同じ量で存在する場合、着手すべき比率のイメージとしては右上が5割、左上が4割、右下が1割のバランスです(個人の感覚値ですが…)。注意すべきは左下の打ち手です。「難易度が高い=重要」と勘違いする場合があるので、「お客様にとってそれは重要か」を常に考えるようにしてみてください

  • そして「お客様にとっての価値」はシード期は全て仮説でしかないため、しっかりと期間内(2週間~1ヵ月)で検証するマインドセットを持ちながら、毎サイクル優先順位を調整していきましょう

まとめると
1.2週間~1ヵ月間のサイクルを決め、お客様視点で目標設定
2.PMF前は毎サイクルが何かの検証期間。次に活かすための復習も必須
3.優先順位も常に意識。提供価値が高いものから検証
この短期サイクルを効率よく回していければ会社がレベルアップしていく

5. まとめ

企業成長には「必要価値をどれほど提供ができるか」を追求するに尽きます。そのため、短期~長期の目標は常に自分たちのコアとなるお客様のことを思い描いて設定してみてください。そして短期間の検証・振り返りを繰り返し、会社としての学びを一つずつ増やしていければ1つ目の中期目標達成、2つ目の中期目標達成と段階的にレベルアップしていける可能性が高まると思っています。

最後まで読んで頂いた方、ありがとうございます。
そしてANRIでは常に起業家の方々にお会いできることを楽しみにしております。起業準備中の方、これから資金調達を考えている方、ぜひご連絡頂けたら嬉しいです。「まずはフラットに相談したい」でも全然良いのでいつでも気軽にご連絡ください!(プロフィールページへのリンク)


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