道端の石碑の文字を読みたい!
皆さんお疲れ様です。たきおりです。
夏になると少し遠出をしたり、散歩したりする機会が増えますよね。
そうするとサムネのような近現代の碑文に遭遇する機会が増えるはずです。
気になって実際に目を向けてみる人も多いと思いますが、しかしながらよく分からない漢字に面食らってスルーする人が多くを占めるのではないでしょうか。
もったいない!
大正以降の石碑なら返り点を入れなくてすみますし、漢文由来の慣用表現もグッと減るので、漢字の読みさえ調べれば現代文読む感覚で割と読めたりするんです。
実際に碑文を読んでみよう
以下はサムネにも使った石碑ですが、1940年以降に作成されたと考えられる新しい石碑かつ設置場所が地下なので、擦れもなくくっきり読めるので試しに読んでみましょう。
まあ読めるかな…?みたいな感じでしょうか。それとも「ウッ…」と拒否反応を示しているでしょうか。
このレベルだと近代の印刷された史料を読むのと変わらないレベルの難易度なので、読める人は読めるかもしれませんが、まず縦書きのカタカナ×漢字文にとっつきづらさを感じるかもしれません。
そもそも句読点が振られていないので文章の区切りで一息付けないことがきついでしょうか。
では以下の句読点を補った横書き文ではどうでしょう。
史料を読む学生はレポートを書く際に文字起こしを行うので、今の私は学生時代を思い出していますが、読点が入り横書きになると途端に読みやすさが変わる気がしませんか。
いくつかの単語を飛ばし飛ばしで読んだとはいえ、何となく意味が取れたんじゃないでしょうか。「東京の地下鉄建設に大きな貢献をして、褒章を得たんだなー」あたりは掴めているはずです。
ひらがなにしてみるともう思いのほか抵抗感なく読み進められるかもしれませんね。
近代の文語文読解にはちょっとした知識が必要
ここから先は旧字体や現代文では使わない表現を補う必要が出てくるので、知識のターンに入ってきます。以下に見慣れなさそうな表現を抜粋してみたので、これを参考に文を解読してみてください。
夙に=つとに、早くに
樹てる=たてる、樹立する
劃=画の旧字体、伊藤計劃の劃
洵に=まことに
是れ=これ
依る=よる
享くる=うける、享受するの享
頗る=すこぶる、非常に
其の=その
畏くも=かしこくも、恐れ多いことにも
天聴=てんちょう、天皇陛下のお耳に入る
皇紀二千六百年=1940年。「神武天皇が即位した年」から2600年目の節目の年として大規模な式典が行われた。同年には「ぜいたくは敵だ」が登場するなど日中戦争が泥沼化しており、翌年の年末には対米戦が始まる。
緑綬褒章=りょくじゅほうしょう、「自ラ進デ社会ニ奉仕スル活動ニ従事シ徳行顕著ナル者」に授与される勲章。
玆に=ここに、さて/そこで
相謀る=あいはかる、一緒に相談する/企てる
壽像=じゅぞう、寿像、当人の存命中に作成される肖像
傳=伝
云爾=うんじ/しかいう・のみ、端的に言えば「上述の通りである」と強調している
答え合わせ
では答え合わせをやってみましょう。
大学で近代の文語文を読むとき、私は「句読点の振り直し」「旧字体の新字体への書き直し」「漢字混じりの慣用表現のひらがなへの書き直し」を行う訓練を積んだので、さっきの文もやってみましょう。
さらに現代語訳・意訳してみましょう。
ここまでくればどの方もこの石碑が意味するところが分かったでしょう。
というわけで、この石碑は日本の地下鉄の父早川徳次を顕彰したものでした。現在の東京メトロの前身の前身を大正時代に創設し、銀座線の開業は彼の功績によるものです。教科書でも銀座線の開通ポスターを見たことのある人は多いでしょう。
史料が読める楽しみ
実は有名な場所になればなるほど石碑の隣には解説の看板が立っていたりするものですが、今回の石碑の場合は設置がありませんでした。
看板があったとしても、石碑の設置経緯であったり当時の社会情勢といったものは解説から省かれていることも多々あります。
そういう意味ではこうした石碑を読めるようになると、自分の街や旅行先の解像度といったものがグッと上がるのではないでしょうか。
自分で石碑を読もう
今回は私が単語集を用意していたので、分からない単語や漢字を調べるという過程がスキップされていましたが、割と調べるのは簡単です。
我らが外部デバイススマートフォンと、知能と文化の破壊エンジンGoogle先生を駆使すればどんな問題も解決できるはずですから。
おすすめのサイトは文字naviの手書き文字検索です。読めない漢字もコピペできる状態に持ち込めばどうにでもなります。
結局のところ、近代の活字史料が読みたいのだけれどどうしたら読めるようになるのですか、という問いに対しては、辞書かインターネットを使い倒すほかに選択肢はありません。
近世文書にしても近代史料にしても、単語や慣用句を反復練習で覚えるほかなく、漢文に由来するあれこれに関しては義務教育レベルでどうにかなります。文学徒が古文書講座で学ぶのは、くずし字辞典の引き方とくずし字の判別の仕方だけといっても過言ではない気がしています(古代は知らんけど)。
まとめ
そういうわけで今回伝えたかったことは以下の3点!
近代以降の文は現代文とあまり構造が変わらないので読もうと思えば読める
ただし漢文由来の慣用表現や旧字体の知識を補う必要あり
辞書とインターネットを使い倒せばそのうち覚える
それではよいお散歩ライフを!
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