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【3分で読める】「不器用な男/カンザキイオリ」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【ショートショート】


[あらすじ]
一人暮らしの部屋には、虫が出やすい。
出しそびれて随分と溜まってしまった、燃えるゴミ。
その異臭がギリギリ届かないあたりで、俺は机に齧り付いていた。
いつの間に暗くなっていたが、それにも気づかず、ただキーボードをカタカタと叩く。その音だけが、ただ、響く。

明日までの原稿が、なかなか終わらない。一度締め切りを伸ばしてもらったばかりなのに、これ以上延長を強請りなどすれば、即刻会社から捨てられてしまうだろう。

鼻のあたりが痒くて、指で強めにかく。
しばらく爪を切っていなかったせいで、鼻の頭のあたりが少しヒリヒリする。日焼けした時と同じような感覚。

そういえば今年の夏は、ほとんど外に出ていない。
生きるための食料は必要なので、近所のスーパーには出かける。特別な用事などあるはずがないので、基本的には家とスーパーとの往復で事足りるのである。

背伸びをして初めて、自分が呼吸をしていたことに気が付く。
パソコンのすぐ隣りに置いてあった麦茶を飲み干して、キッチンへ片付ける。水でゆすいで置いておくだけなので、「片付ける」は適切な表現ではないかもしれない。

洗面所で顔を洗い、鏡をみる。そこにいたのは一人のブサイクな男だった。
伸びていても気にならなくなった髭。そのせいか、実際の年よりも老いて見える。執筆中は髪をかきあげる癖があるらしく、髪型が不自然だった。

俺は、こうして鏡をみるたびに思うことがある。

こんな俺でも。

見た目が悪くて、運動や勉強が出来ない。
字がヘタで、料理も出来ない。
視力が悪くて、目つきが悪い。
コミュニケーションが苦手で、自己肯定感が低い。
他人と話すのが苦手で、それでいて独りでいるのが怖い。
他人から好かれもしなければ、一緒にいて安心感を与えられるわけでもない。
不器用で繊細なくせに、何かを成し遂げたいと思ってるダサい大人。


こんな俺でも。
フィクションであれば、誰かを喜ばせることが出来る。

だったら、感情を持つのは、作中の登場人物達だけでいい。
笑ったり、泣いたりするのは俺でなくていい。
だからもっと。もっと俺が書いた物語を、誰かに読んで欲しい。

休息をとらずに、再びパソコンの前に座って、キーボードを叩き始める。
こうしていなければ、俺は人間ではなくなってしまう気がしたから。


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