【3分で読める】「心予報/Eve」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【歌詞解釈】

[あらすじ]
社会人四年目の私。この時期になると、デパートやスーパーがこぞって、チョコレートの店頭販売を開始する。甘いもの大好きの私にとってはありがたい話だ。体型を気にしてチョコを控えている私も、この時ばかりはそんなことを気にせずに思う存分楽しむことが出来るから。

そういえば、とふと思った。私がバレンタインというイベントを純粋に楽しめたのは、いつ頃の話だっただろうか。

環状線は渋滞していて、すぐには帰宅できそうになかった。免許証を取ってからしばらく運転をしてこなかったものだから、久しぶりにハンドルを握る私の手は汗で湿っている。大体遠出をするときは、旦那が車を運転することになっていた。

珍しいことをした日に限って、何かしら事件が起きるものである。なにやらちょっとした事故が起こったようで、しばらくの間ほとんど進めずにいた。

今日の朝方、スマホをいじっていたら、偶然とある広告を発見した。それは某有名メーカーのチョコレート菓子のPR記事だった。
普段思いつきで行動するタイプではないのだけれど、今日はなぜかそのチョコレートが無性に食べたくなって、車を走らせようと思い立ったのである。

大学生時代に購入してから、しばらく食べていなかったブランド。記憶が曖昧になっているけれど、確か当時もバレンタインの時期に食べていたような気がする。

社会人になって、結婚してから、バレンタインというイベントが縁遠く感じるようになった。これは別に旦那と関係が悪化したとか、そういうわけではなく、単純に関心の度合いが薄れていくような気がしているという話。

チョコレートを巡る心理戦のカタルシスは、もしかしたら若い人の特権だったのかもしれないと、今更ながらに思う。

ふわぁ、とあくびをして、ふいに横を見る。
いつもは私が座っているはずの助手席。
そこには買ったばかりのチョコレートの袋が二つ、佇んでいる。

この袋を手渡したとき、あの人はなんて言うだろう。
数年ぶりに渡すのだから、それなりに驚いてくれるのだろうか。
「バレンタインは企業の販売戦略がどーたらこーたら」とか適当な理屈を並べられるような気もする。でも、なんだかんだいいながら、喜んでくれるのがあの人の可愛いところだ。

あ、そうだ。思い出した。
大学時代にこのチョコを買って渡した相手も、多分あの人だった。

先ほどまで微塵も動かなかった前の車が、堰き止められていた水のように一気に動き出す。私もその流れにのろうと、ゆっくりアクセルを踏む。

〜Fin〜


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