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北朝鮮における潜水艦建造の兆候など

亜覧澄視、小泉悠(@OKB1917

はじめに

 ここ最近の北朝鮮は軍事関連の情報が多く公開されているものの、個人的には特に目を見張るべきものは少ないと感じています(衛星情報も特に言及を必要とする動向はありませんでした)。
 ところが、今年3月31日に撮影された衛星画像で北朝鮮が別の潜水艦を建造している兆候が確認されましたので、これを機会に造船所周辺の情報と共に公開します。

新浦南造船所の状況

 概要

 言わずとしれた北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦を建造する造船所です。昨年9月には「金君玉英雄艦(艦番号824)」が進水するなど大きな動きがありましたが、それ以降は特異な情報はありませんでした。
 以下で今回判明した注目すべき動きを紹介します。

新浦造船所とその付近一帯(右下は馬養島) Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 

造船所における特異な動き

 2024年3月31日に撮影された衛星画像では、緑色の屋根をした建物の南側にあるクレーンが設けられた作業場に潜水艦の耐圧殻(内殻)らしき部品が置かれていました。前回撮影された2月18日の時点では存在しなかったため、ごく最近にこの部品が置かれたと思われます。
 ちなみに、この種の部品が前回目撃されたのは2019年4月5日でしたので約5年ぶりの登場となります。

2024年3月31日:クレーンの真下に耐圧殻らしき部品が置かれている(右下のSLBM水中発射用艀はしばらく動きがない) Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 
2019年4月5日:作業場に耐圧殻らしき部品が置かれている Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 

 注目すべきは、この部品が「緑屋根」に至るレール上にあるということです。この建物では以前からSLBM潜水艦の建造が行われていると考えられているため、長くストップしていたと思しき建造が再開したと推測できます(ちなみに、「金君玉英雄艦」が建造されたのは「緑屋根」北隣の錆びた屋根の水色風の建物です)。

直径は約9メートルである Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 

潜水艦停泊場所(SLBM潜水艦)の動き

 結論を言うと何も動きはありません。軍に引き渡された後は(またはその前に)海上公試や習熟訓練で動きが見られるのが自然ですが、いまだにそのような兆候はありません。
 逆を言えば、これから動きが出てくる可能性があるので今後も注目する必要があるでしょう(SLBMの発射試験は必ずあります)。

3月31日:「金君玉英雄艦」の姿は屋根に隠れて見えない(下の「8.24英雄艦(ゴレ級」も動きがない) Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 
2月18日:金君玉英雄艦の位置を踏まえると現在でも停泊し続けていると考えるのが自然だ Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 

新ドック

 2012年頃から建造が進められた新ドックは一時は工事が完全にストップした時期があったものの、現在では少しづつ作業が進められています。
 現在はドック周辺の整備が進んでいるようです。

3月31日:新ドックの状況 Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 
2月18日:この段階でも作業は進められている Image ©︎ 2024 Maxar Technologies  
3月31日:作業が進められていることは一目瞭然 Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 

新桟橋

 新ドックと同じ時期から作業が進められた後に放置されていましたが、ここ2,3年で修復と完成に向けた再整備が進められているようです。

2月18日:クレーン船が作業をしている Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 
3月31日:コンクリートブロックの数が減っている Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 

新ドック周辺

 ドックの東側には、2019年に埋め立てられて地区に21年にこの地区周辺の工事に従事する作業員(人民軍兵士?)用の兵舎と思しきバラックが密集していました。
 ところが、3月31日には半数以上のバラックが解体済みの状況でした。これが何を意味するのかは不明ですが、ドック周辺の工事がおおむね終了したことを示唆しているのかもしれません(ただし、ここ数か月の間に付近に新しい建物ができたので、そちらに入居して作業を継続する可能性も否定はできません)。

2月18日:左下の建物は最近になって古い平屋の建物を解体してできたもの Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 
東側のバラック群が解体されている Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 
2月18日:上のバラック群の北数百メートルにある場所 Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 
3月31日:バラックが完成または建築中である Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 

SLBM射出装置

 造船所から南西へ数百メートル進んだ地点でSLBMの射出試験を行う施設があります。過去に北極星シリーズの試験がなされたことで知られていますが、ここしばらくは動きがありません(2020年から新型SLBMが登場しているにもかかわらず、この静けさは奇妙に感じます)。

2月18日:一部が雪に覆われている Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 
3月31日:動きはないが放置されているわけでもない(雑草で覆われていないため) Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 

馬養島の状況

 特に変化はありませんが、ロメオ級潜水艦が1月と3月に基地の直近で撮影されています。潜水艦が航行中の画像が撮影されることは少ないため、やや異例のように感じます。
 なお、潜水艦の周辺に油膜状のものが見られます。これがディーゼルエンジンを使用した潜水艦に見られる現象なのか、それとも油漏れを起こしているのかは判断しかねます。
 また、この港には対艦ミサイルの標的船があります。これは米ジェームズ・マーティン不拡散研究センターのデーブ・シュマーラー氏と私が発見して目的を推測した船ですが、今年2月15日に金正恩総書記が現地指導した「パダスリ-6」地対艦ミサイルの射撃で標的となったことで正しさが証明されました。
 この船は沈没することなく母港である馬養島へ帰還したため、今後も同種の訓練で使用されるものと思われます。

3月31日:馬養島 Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 
島東側の湾内(中心に潜水艦) Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 
ロメオ級潜水艦:海面に油膜が広がっている Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 
1月18日:よく見ると潜水艦から西側に油膜が広がっている Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 
1月18日:標的船
「パダスリ-6」の直撃を受ける標的船 Image ©︎ 朝鮮中央テレビ 
2月18日:艦橋など上部構造物の穴がやや大きくなっていることに注目 Image ©︎ 2024 Maxar Technologies 

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