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凍る便器の水

 最近の冬は張り合いがない、水たまりも凍らなくなったしダラシナイ、などと毎年のように言っていたら、今年の冬はなかなか骨のある冬になっている。おまけに数日後には大寒波襲来らしい。こうなると、待て待てそこまでしろとは言っていませんよ、と急に態度が軟派になってしまい、だらしないのはどちらだという話になる。でもまあ、夏にしろ冬にしろ、ちょっと極端ですよね。温暖化というか異常気象の常態化を感じます。
 東京およびその周辺で暮らして干支一周ちょっと経ったけれど、都心でマイナス6℃の予報なんていうのは記憶がない。最新の予報ではもう少し暖かくなるようだけど、当初の予報で出ていたように都心がマイナス6℃だと、我が家のあたりは下手すりゃマイナス10℃近くなるので戦々恐々だった。
 これだけ気温が下がると心配なのは水道管の凍結だ。しかしそれについての警告なんていうのはあまり耳に入ってこない。毎日けたたましく夕方に音楽を流したり真夏に分かりきった熱中症注意喚起を連日吠えたり緊急事態宣言下で市長のありがたいオコトバをたびたび大音量でかけるヒマがあるのなら、今こそ寒波への備えを防災無線で周知したらどうなんだ! とまだ数日の猶予がある大寒波に僕は早くもコーフンしているようだ。

 札幌に住んでいた頃、水道管の凍結を防ぐのに水抜きという手段があることを知った。文字通り水道管から水を抜いてしまうということで、凍るものがなくなるので凍結対策にはこれが一番効果的で確実なのだろう。
 ただ水道管・蛇口の数だけやらないといけないので、これはなかなか面倒くさい。しかも基本的に冬は毎日だ。水抜き後に水を通すと、しばらくは空気が混じってブシャブシャボゴボゴとうるさいし水量が一定せずに使いにくいというのも厄介だ。
 しかし水道管が凍結する方がもっと面倒くさい。凍ってしまうと溶けるまでは水道が使えないし、場合によっては水道管が破裂してしまうから、ここぞという時には水抜きをしておいた方がいいようだ。雪下ろしや雪かき、水抜きと、同じ日本とはいえ北国とその他とでずいぶん不公平だなと思う。
 ちなみに北海道ではなくて東京近郊の話になるけれど、僕の祖母の家は局所的冷え込み地帯にあり、昔はしょっちゅう玄関(家の中)でマイナス6℃、7℃なんていうことがあったらしい。当然水道管も凍るので、ある一定の外気温になったら自動的にヒーターで水道管が温められて凍結を防止している。もしかしたら北国でもそういうやり方が主流なのかもしれない。

 僕は一度、他の人の家で水抜きし忘れた洋式トイレの水が完全に凍っているのを見たことがある。便器とタンクの中の水がきれいに固まっていて、これはなかなか感動的だった(きれいではないか)。静かにゆっくり時間をかけて凍ったのだろう、氷は透き通っていて、氷像に加工する前の氷の塊を思わせた。あんまり便器の氷で氷像は作りたくないけれども。
 何しろ用事があってトイレに行っているわけだから、便器の蓋を開けて水が凍っていたときのショックたるや相当なものだ。僕が水道管凍結の怖さと対策の大切さを痛感したのはそのときのことだ。凍結自体は業者に来てもらって意外に早く発見から1、2時間ぐらいで解消したはずなんだけど、あの絶望感というのは15年以上経った今でもよく覚えていて、これを他山の石としている。

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