三体III:死神永世ネタバレ感想「『北斗の拳』方式にすべきだったな!」

3年越しくらいで掲題の本(シリーズ)を読み終わりました。

正直、三体IとIIでずっと感じていた違和感が全く解消されることなく終わってしまった感じです。
むしろこの完結編は、違和感・ストレスの大きい読書でした。

結論から言うと
「作者の劉慈欣は、素晴らしいアイディアをたくさん持っているが、ストーリーテラーとしての技量に著しく欠ける」
という感じですね。

三体IIIは最終的に1900万年(!)くらいの幅で語られます。ですが、主要な出来事はだいたい400年くらいの時間で収まります。400年と言っても、ぶっちゃけ物語は飛び飛びで提示されるのであんまりその実感がないです。

でもって
「SF的アイディアや理論・技術・設備の外観などは不必要に詳細に語られる」のに
「ストーリーそのものが殆ど概略レベルでしか提示されない」

ので、没入感に著しく欠けるのです。

主人公の程心が冬眠しました、起きたらこんなことが起こってました、世界の外観はこんな風に変わってました、その物理的な要因はウンタラカンタラ…
こんなのが、ほぼ800ページにわたって延々と続きます。

一番ダルいのが最初のコンスタンティノープル陥落のくだりですかね。要するに「高次元のかけら」が歴史に干渉した…と言うだけの話を30ページにわたって延々と展開し、その後の伏線としても殆ど機能していない。全編読了してから読み返しても、意味のある序盤とは全く思えないのです。この部分がダルくて、本作をなかなか読み進めることが出来ませんでした(三体IIの蟻の下りと同じ。あれもワケ分からんかったよね)。
あるいは例の雲天明が語る「おとぎ話」。正直なんじゃこりゃ!と苦笑しながら読み飛ばしてました。ですが、この話は一応伏線が一通り回収されてたので、ヨシとしましょう。

三体Iで、地球侵略を試みる三体文明統治者内のやりとりがアジア人同士の会話にしか聞こえないとか、三体IIで水滴が宇宙艦隊を殲滅するシーンがムダにディテール凝りすぎてて全力で読み飛ばしたとか、同様の場面は枚挙に暇がありませんでした。
要は典型的な「オタクが書いてみた小説」になってる感じ。

でもって、そこから派生するさらに深刻な問題が
「人の感情ややりとり、あるいは成長とか変化というものがほとんど、あるいは全く語られていない」
ことです。
なので、誰1人として感情移入できない。
三体IIの主人公、羅輯についてはまだ良かったんですよ。彼の人生がしっかりと掘り下げられていたから。でも、程心についてはそれが殆どないんです。程心がとんでもなく不人気なのも分かります。本人のせいじゃなくて、作者がキャラ造形をちゃんとやってないのが原因です。
キャラとしてぶっちぎりで面白いのはウェイドですが、彼は結局ただの変人としての側面しか描かれてなかった。もっと彼の内面に迫る描写があったら、この話は格段に面白くなっていたと思います。

終末に至る宇宙の様子を描写するために次から次へといろいろなアイディアを詰め込んで並べてみた結果、話の根幹がそのアイディアの説明(登場人物に延々と語らせるものも含め)に終始してしまった。
展開としてはイーガンの「ディアスポラ」に近い印象を受けたのですが、イーガンはアイディアの提示そのものを目的として小説を書いてるので、まだいいんです。
劉慈欣は特に本作において、小説としての「幹」を中途半端にしか提示しなかったため、長くて締まりのないストーリーテリングになってしまった。
アイディアがものすごいので、実にもったいないのです。

最終的に、クライマックスは実は前半にあったかなあ…と言う感じですね。
階梯計画で宇宙船をどんどん軽量化していくアイディアと展開の面白さ(凄惨さ)、三体抑止による人類大虐殺と、それを一発で形勢逆転した宇宙艦<万有引力>による重力波送信、たちまち瓦解する三体文明…

上記に関しても、人類を足蹴にしようとした三体文明の没落を、もっと詳細に書いて欲しかったのに、そこは異常にアッサリ。
読者の読みたいもの、が置いてきぼりなんですな。結局この辺から三体世界そのものは完全に脇役になるし。

なのでやっぱり、本作は「北斗の拳」方式で

原作(原案):劉慈欣
作文化:描写力に長けたプロ
(個人的には往年のシモンズや、マンガ家だけどひかわきょうこ先生のような人物造形に長けた人)

で作るべきだったと思います。

この点、まだ見てないけどネトフリのドラマ化には意外と期待が持てるかもしれません。三体IIIの最後まで映像化するそうですから、上手くやればかなり凄いものが出来るでしょう。

そうそう、最後に。
オーラスで、程心と関は宇宙のビッグクランチを維持するために大宇宙に戻る選択をしますが、ビッグクランチ理論そのものは現時点では少数派のようですね。
宇宙はバブルのように次から次へと出来ては拡がっていく、と言うのが現在主流の説のようです。いわゆるマルチバース理論ですね。


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