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"The LEPLI" ARCHIVE 106/ アズジン アライアと大和 松尾寺の”千手観音像”のボディコンシャス、そして、瀬尾英樹君の活動。

文責/平川武治:
初稿/2013年10月15日:
写真/展覧会「アズジン アライア展」2013年ガリエラにて。:

 『哲学者がモードに熱烈な関心をそそられるのは、
モードがとてつもなく未来を予感させてくれるからである。
確かに、芸術が例えば絵画の場合がそうであるように、
現実を我々が実際に知覚するよりも何年も前に先とりして捉まえていることは
良く知られている。』/W.ベンジャミン著『パサージュ論』(B1a、1)

1)プロローグ; 
  また自然にやってくる”東コレシーズン”。
そこで観られるのは『倫理』観が希薄になってしまったら
人間の『品』が損ない始めるという
現実としての”ファッションショー ・ゴッコ”。 

 巴里在住、アズジンアライアのアトリエで7年間のアシスタント、
その結果、"10年VISA”を取得可能になった瀬尾英樹氏の世界が感じ取れる
初めての展観が僕がその在り方を不思議に思う“ROOMs"で行われた。
ここでは彼が最高点を取ったアントワープ・アカデミーの卒業コレクション作品も
見れる機会だ。

この“ROOMs"について言ってしまえば、年々、参加者が減ってゆく展示会イベント。
なのに変わらない高額参加費。一方では経済産業省等から補助金と援助金
そして、協賛企業からの協賛金合計と総経費支出費用を差し引いても
誰がどれだけ儲けているかの解答は歴然である。
不思議な世界がこの展示会“ROOMs"の実態の根幹である。

 さて、そんなレベルの事を書きたいのではない。
瀬尾君の事、作品であり、彼の世界観である。
そして、彼のお師匠、”A. ALAIA"の事である。
 
2)瀬尾英樹のオークションと『A.ALAIA展』;
 巴里の小さなアパートで、奥さんと2人でA.アライアさんのところで7年間
厳しく、狂気に培ったスキルと技術を基盤により、自分世界に”価値”を認める為に
自心の自由さを大切な”こゝろの有り様”として当然であるが、
自費によって作品制作を続けているのが、瀬尾英樹である。

 後、3日になってしまったが、
現在、瀬尾君の作品がアメリカの美術館からオークションへ出展されている。
ここでどのような結果が出るかによって、彼の今後が美術市場で
どれだけの”価値”を持った、新たな”立ち居場所”になるかのスタートラインなのである。
 参照/ https://paddle8.com/work/hideki-seo/21359-metamorphose
 このオークションには、Cameron Silver, Anne Deniau, Valerie Steeleなどが参加の
トークセッションイベントなどもあり、オークションには瀬尾君の他、Alexander McQueen, Charlie Le Mindu, Anne Deniauなどの作品も出品されているようです。
 今回の”World Chess Hall of Fame”の詳細サイト/
http://www.worldchesshof.org/news-events/event-calendar/event/2013/10/18/queens-gala/

 そして、今、巴里で一番の話題はモード美術館ガリエラでの『A.ALAIA展』である。
クチュリエ、A.アライアの見事な審美眼と素材美で造形された”トルソー”の世界。
ここには“ナイーヴ”と”激しさ”が見事なバランスで感じ取られパッションが存在する。
 昔、多くを書いたのでいろいろは省略するが、
今回の展覧会で感じ、考えた事は『素材美と造形美の極限までの調和感』が着たくなる服へ
仕立てられ、着る女性のボディコンシャスな美しさへの挑戦でしか無い。

 先ず、彼 A.アライアは皮革素材を主素材とした時代から本格的なクチュリエとして始めた。素材の伸縮性が少なく正目逆目の織り目もない素材、
皮革をどのように着る女性を身体つきをボディコンシャスに
着たくなる服に仕立て上げるか?
その為に学び、自らが創作したトワレ術。
その根幹には彼が学んだ”彫刻”の世界が裏付けされている。
 次には、ここで身に付けた彼のトワレ術を即ち、トワレメイキングを
今度は伸縮性のある素材で挑戦を始める。
この時に新たに彼が知ったテクニックの発想は“張引力”のバランスである。
素材自体が持っている”張引力”と
着る女性の皮膚即ち、皮の”張引力”との攻め合いとなじみ合という
バランスと勘の調和が生み出すフォルム美である。
 そして、以後は彼が選び使う素材そのものが装飾性を”ボディーコンシャス”に
附加するだけの世界である。
 すばらしい『素材美と造形美の極限までの調和感』が作品そのものであり、
着る女性たちを当然であるがより、いい女に見せる服となる。
http://parismusees.paris.fr/en/exhibition/alaia

3)大和 松尾寺の”千手観音像”というトルソー;
 このA.アライア展の正面に展示されているトルソーを観ると
僕はいつも大和 松尾寺の”千手観音像トルソー”(秘仏/奈良時代8世紀)を思い出す。
このトルソーと出逢ったのは
2011年春、白洲正子生誕100年特別展が世田谷美術館で行われた
「白洲正子 神と仏、自然への祈り」展の際であった。
 大和 松尾寺/http://www.matsuodera.com/special.html
また、このパリの僕の好きな美術館である、”ケ−ブランディ美術館”では、
アフリカの木彫にもこれに類似のトルソーを幾体か観た事も思い出す。
 もうひとつ、
琵琶湖畔、守山市の蜊江神社の天部形立像(吉祥天)もこの類と感じ仏像が残されている。
 今僕は“トルソー”と”ボディコンシャス”が気になり始めている。
 守山市/ http://www2.city.moriyama.lg.jp/koho/040615/body2.html

 そして、このアライア展の影響が今後の巴里モードへどのような流れを生み出すか?
僕は愉しい思いを馳せる。
それは、また再び、”ボディコンシャス”が崩れてしまった
”パンクボディ”から復活するであろうと。
その時、新たな”ボディコンシャス”に選ばれる素材とは?

 もう一つ、今現在の若手デザイナーの誰が ”ボディーコンシャス”を
一番旨く造形出来るか?気になり始めた。
が、誰もいないだろう。
ここにもアントワープの悪影響が読めるし、
その殆どが 与えられた「見えと報酬」に惹きつけられて
”ファッションディレクター”に成り下がってしまった
広告の世界がイニシアティブを持ってしまった、
現在のファッションの世界の現実であろう。

4)エピローグとして、お勉強の為に;
 今読んだ本から一つ、
 『生物を模倣するのは経済発展の一形態なのだと思う。生物模倣に関心を持つには、
経済発展に関心を持つ事、力強い経済発展が続くよう望む事が必要だ。
でなければ、より良質な製品、安全な製法を求めるはずがない。
そうでなければ製品や製法を手に入れる事もないはずだ。
発展について考えていて、経済と生態系がとても良く似ている事に気づいた。
つまり、経済と生態系の二つに作用する原則は同じなのだ。』
「経済の本質 自然から学ぶ」/J.Jacobs著:日経ビジネス人文庫より。

 『死滅するものは何も無い。全てはかたちを変えるだけだ。』
バルザック/『思想、主題、断片』1910年 

文責/平川武治:倫敦市にて。
初稿/2013年10月15日:

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