みんな最初は様子を見ていたのだ

 さらに北上して辺野古の方に走る。米軍敷地の入り口あたりに近づくと、道路脇に、木を組んで作った露店のような造作物が並んでいる。飛行場の辺野古移設に反対する人たちのブースのようだ。活動家らしき人や、腕章を巻いた新聞記者らしき人が見えた。何となく見るのがはばかられて、そのままスーッと車で通り過ぎる。

 この現場で何が起こっているのか。反対運動をしているのはどんな人たちなのか。どんなふうに活動しているのか。どんな雰囲気なのか。興味はいろいろある。あるからこそ、辺野古まで車を走らせたはずだ。けれども、面と向かえない感じがする。どうしてだろう?

 当然ながら、それがアトラクションとして開放されているわけではないからだ。野球のキャンプは見せ物としてパンフレットもあるし、駐車場もあるし、出店もある。ただ見に来ました、が許される世界だ。でも、ここではそれは許されていない気がする。傍観者ではだめな気がする。何らかの意志や立場を示さなければいけない気がする。観光地に行くのはどっちつかずの立場でかまわない。でも、ここはそうではない。

 いや、わからない。興味半分でも何でも、とにかく見たい人はウェルカムかもしれない。たいした壁はないのかもしれない。こちらが意識しすぎているだけ、勇気がないだけという気もする。わからないけれど、ここに自分と向こうとの間に何か膜のようなものがあると感じる。

 膜があることと、それを突破する勇気がないこと。その両方をひとまず自分の中にとどめておくしかない。現地に行くことは距離を縮めると同時に、距離を感じることでもある。埋立工事地も遠くに見えた。町には立派な建物の高専があった。

 大浦湾の近くの道の駅で休憩。周辺を散歩する。マングローブの近くに木道があって、歩けるようになっている。たしかにこの湾周辺には、手付かずの自然が残っているようだ。湾全部が埋め立てられるわけではないが、飛行場ができると環境は変わってしまうだろう。風景も変わるはずだ。戦闘機の離発着をバックに自然を楽しむ気にはならないと思う。轟音がして、見上げると戦闘機。今でも戦闘機はこの上を飛んでいる。

 ここが名護市というのがピンと来ないと思った。名護市の中心部は山を挟んだ向こう側にあり、距離もかなりある。別の地域のように感じる。いまや市町村名は場所を表すものではなく、その場所を治めている自治体名を表すものになっている。実際に来て初めて位置関係を理解する。旅行は何となく聞いたことのある地名を、地図にピン止めしていくような作業にも思える。

 木道ではなく集落内の小道を歩く。沖縄らしい分厚い瓦屋根の家が並んでいる。木にパパイヤの実がぶら下がっている。家と家との間に庭のような空き地のようなスペースがあって、境界線があいまいな感じがいいと思った。石敢當、ヒルギ、酸素ボンベの鐘など、後で知った沖縄らしいものもここで目にした。

 さらに北上。慶佐次湾で車を停める。ここにもマングローブの木道がある。ヒルギという種類の木のマングローブだそうだ。道のそばに「共同店」という商店がある。中に入ってコーヒーなどを買う。同行人は100円で売られていた古着を買う。玄米ドリンクという見たことのない瓶入り飲料も買う。店の人が地元の人と小さなテーブルを囲んで話している感じがよかった。売っているものも手頃でよかった。共同店はいい感じだ。

 海をちょっと見たり、沖縄コーヒーの店に寄ったりしていると、だんだん日も暮れてきた。島の西側に移動して北上し、国頭村にあるペンションに向かう。山の中腹にあり、景色がいい。コテージではなく、比較的安い母屋に泊まることにしている。

 到着したものの管理人が見つからなかったが、しばらくすると男性が出てきた。シャワーを浴びていたようだ。「予約の人来てるんだけど」と誰かに電話している。「じゃあこの部屋使ってください」。グローバルな予約サイトを使って予約したけど、最終的な現場ではアナログな感じになるのがおもしろい。

 母屋はバックパッカーが集まる海外の日本人宿を思い出すような雰囲気。北海道のライダーハウスのほうが近いか。板張りの壁がそう思わせる。

 国道沿いまで下って、魚介類を食べられる店に入る。このあたりでは夕食の選択肢は限られているようだ。店にはボクシングの村田選手が来ていた。たぶんそうだろうなあと思いつつ、誰も話題にしていなかったので、とくに気にしないふうを装っていたが、生簀に入っている魚をすくってみませんか、と店の人が促して、村田選手がそれにトライすると、うすうす気がついていた周りの人も堰が切れたようで、一斉にスマートフォンを向け始めた。写真撮ってください!とあちこちのグループから声がかかり、撮影大会になる。みんな最初は様子を見ていたのだ。沖縄の人もシャイなんだなと思った。

続く

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