日本に発酵食品があるのは灰のおかげ

小泉武夫著『灰の文化誌』を読んだ。発酵と灰の関わりは深い。日本の発酵食品に使われている「麹菌」を分離できたのは、灰があったおかげだ。

雑菌の多くはアルカリ性に弱く、アルカリ性である灰よって死滅させることができる。ところが麹菌はアルカリ性に強いため、灰の中で生き延びることができ、その性質を利用することで純粋培養が可能になる。そうやって手に入った質の高い麹菌を使って、味噌、醤油、日本酒といった日本独自の発酵食品が発展したのである。

また灰は古来より、種火をキープしておくのにも重要な役割を果たした。炭を灰の中に埋めておくと、次の日まで火を持たせることができる(埋火)。その発明がなければ、毎度火をおこすのは大変な作業だっただろう。これまで考えたこともなかったけど、炭や灰は人間の歴史の中で大きな存在だったのだとわかった。

こういった今の自分にまで繋がるような知恵や歴史を教えてくれるのが、小泉武夫さんの本のおもしろいところだ。灰とは何か、アクとは何かなど、使う言葉の定義がちゃんとなされているのも科学者らしい。

かつての日本では酸っぱくなってしまった酒を灰で中和したとか、猟師は灰を使って獲物を加工して保存食を作ったとか、へーと思う豆知識が散りばめられているし、火山灰やビキニ島の核実験による灰など、広い意味での灰の話題も入っている。安心して読めるし、ためになる本だった。

灰の文化誌

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