声劇台本「The sin and ×××」
タイトル【The sin and ××× 】
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――――――・・・
[登場人物]
・男
・☆声1
・〇声2
・女の子
・ヒカリ
・中年男性
・ 老人
・ナオキ
――――――・・・
☆声1「今からあなたが犯した罪に関してお話していきたいと思います」
男「罪?なんの事だ。ここはどこだ」
☆声1「どこまで覚えていますか?」
男「…何の話しをしてるんだ…お前は誰だ!」
☆声1「あなたがご自身で罪を認めるまで、ここから先へは進めません」
男「訳がわからん。何が目的なんだ!金か?金ならないぞ、もう全部使った。俺にはもう何も無い!」
☆声1「そんなことはありません。あなたの魂は残っています。ここへ来る人はみんな、魂だけです」
男「は?」
☆声1「あなたは、死んだのです」
SE(小さく 短く)巻き戻し音
ヒカリ「もうそれ以上近づかないで!」
男「落ち着いて、大丈夫だから」
ヒカリの悲鳴
SE 巻き戻し音
☆声1「思い出しましたか?」
男「…いや……いや違う。俺は何もしてない」
☆声1「あなたがやった事です」
男「俺が何をしたって言うんだ、なぜお前に責められないといけない?おまえは何がしたいんだ!」
☆声1「魂の救済です」
男「は?頭がおかしいんじゃないのか?もういいから帰してくれ!」
☆声1「帰れません。死んだのですから。先へ進むことは出来ても、戻ることはできません」
男「死んだ死んだってさっきから…俺が死んだ?どういう事だ」
SE 巻き戻し音
ヒカリ「何でこんなところまで来るのよ…やめてって言ってるじゃない!いい加減にして!」
男「ヒカリ。俺はもう怒ってない。話し合おう…」
ヒカリ「もうそれ以上近付かないで!」
男「落ち着いて、大丈夫だから」
ヒカリ「…いやー!」
男「うわぁ!」
ヒカリの悲鳴
SE 巻き戻し音
男(SEに被せて)「痛い!!!」
☆声1「思い出しましたか?では、あなたの罪について、聞かせてください」
男「罪ってなんだよ、さっきから!俺は彼女を助けようとした。そしたら彼女と一緒に階段から落ちた。俺はなんにも悪くないだろ!」
☆声1「なるほど」
男「むしろ、俺が被害者だ。全て彼女が悪かった。それでも俺は許した。愛してたから。それなのに…!」
☆声1「彼女が悪かった?なぜ?」
男「…浮気。裏切りだ。俺を裏切って、クソみたいなニヤケた男と結婚するとか言い出しやがった。“かねてよりお付き合いしていた金子ナオキさんと、このたび結婚することになりました〜”だと。チキショウ…」
☆声1「全て彼女が悪い、ご自身は被害者だとおっしゃるんですね?」
男「そうだ、俺は何も悪いことはしていない!ただ彼女を愛していただけだ!彼女のためならなんでもした。時間も金も、全て彼女に捧げた。あの時だって、自分の身を投げ出して彼女を守ろうとしたんだ。愛してたから!」
声「分かりました。では一旦、ブラックルーム82号室でお待ちください」
SE (ドアが閉まる音)
女の子「あ、新しい人が来たー」
中年男性「これはまた、随分お怒りのご様子で。どうしました?」
男「おい!ここから出せコノヤロウ!」
女の子「すげーキレるじゃん。何言っても無駄だよー、諦めた方がいいって」
中年男性「あなたもこう思ってるんでしょ?自分は悪くない。悪いのはアイツだ…て」
男「あぁ?なんだお前ら?喧嘩売ってんのか?」
中年男性「いやいや、やめてくださいよ。そういうんじゃなくて…ね、ちょっと座って。ここに来る人は皆そう言うんですよ」
女の子「あたしは悪くなーい、アイツが悪いのー」
中年男性「そう、自分は悪くない。アイツが悪い。私たちもそう思ってました」
女の子「あたしはまだそう思ってるけどね!」
中年男性「私もまぁ、そうですね。まだ納得してません。だから、ここにいる」
女の子「お兄さん何したの?盗み?詐欺?人殺し?」
男「俺は何もしてない!」
女の子「あー、そう」
中年男性「これは厄介だ」
男「なんなんだよ!俺が何したって…」
中年男性「まぁ、せいぜいここでじっくり考えてくださいよ。ここじゃ、時間は無限にある」
男「ここは、一体なんなんだ?あんたたちは?なんで俺はここにいる?」
中年男性「説明があったでしょ?ここは、罪を認めるための場所。自分の犯した罪を理解するまで、先へは進めない」
男「先ってなんだ?」
中年男性「さあ?」
女の子「フワフワの雲の上?(大袈裟に)光に包まれた暖かい場所!全てが許された世界!(嘲り笑い)そんな感じじゃない?」
男「あんた、さっき俺に言ったろ?”お前は何したんだ”って。あんたたちは、何かしたのか?」
女の子「あたしは男を殺したっぽい」
男「ぽい?」
女の子「なんか、まぁ、あたしのせいっちゃあ、あたしのせいかも知れないけどさ…勝手に死んだのよ。あたしは、あたしの好きなようにしただけ」
男「好きなようにした結果、男を殺したら、それは殺人だろ」
女の子「違うわ。あたしはあたしを殺しただけ。そしたら、アイツも死んだの」
男「どういうことだ?」
女の子「わかんない。ただあたしは、もう死にたくなっちゃったの。イヤになって。それでさ、色々切ったり飲んだりして死んだの。そしたら、あたしが死んだの見て、一緒に住んでた人も自分で死んじゃった」
男「ああ…」
女の子「そいつ、あたしのこと愛してたんだって。でもそんなの、そいつの勝手じゃない?誰があたしの事をどう思おうと、あたしには関係ない。あたしは、生きてることが嫌になったから死んだんだよ。それだけ。それが悪いこと?」
男「…俺にはわからない」
女の子「あたしより、このおじさんの方が酷いよ。詐欺やって失敗して、家族残して死んだんだってさ」
男「あんたも自殺か?」
中年男性「いえ、私は殺されたんです。仲間…だと思ってた人間に」
女の子「詐欺グループに仲間もなにもないって(嘲笑)」
中年男性「まぁね。でも、仲間みたいに思えた時もあったんですよ。みんなそれぞれ、背負うものがあったり、傷があったりしてね。似たもの同士が集まって、無い知恵を絞ってね、必死に何とかしようとしてやったのが、結果的に詐欺だった」
男「そんなこと、ある?」
中年男性「ありますよ。世の中にそんなのいくらでもあります。みんなギリギリの事やってるんですよ。1番ギリギリやったやつが儲かる。それが世の中です」
女の子「それでこの人は、ギリギリからハミ出したの。思いっきり」
中年男性「家族がいたんですよ。守りたかった。家族には好きなだけ裕福な暮らしをさせてやりたかった。私には親兄弟が居ないもんでね、唯一、私と一生離れないでいてくれる存在でしたから…妻と子供はね。私が自分で手に入れた、私が作った家族でしたから…」
女の子「それって、そんなだいじ?」
中年男性「私にはだいじでした。大切でした。だから、お金が必要だったんです」
男「お金ねぇ…」
中年男性「ここへ来た時ね、私の罪ってのは、詐欺で人の金を取って暮らしてた事だと思ってました。でも、ちょっとずつ分かってきたんです。そっちじゃなくて、ずっと一緒に暮らしてきた夫が、唯一の父親が、つまり私がね、犯罪者だったってこと。そして、私のあの酷い死に姿をあの子たちに見せたことじゃないかな…」
男「そこまで分かったのに、なんでまだここに居るの?」
中年男性「認めてないからです。ほんとに自分が悪かったとは、まだ思えない…私より悪いやつは沢山いる。そいつらが全て奪っていったから、私にはこんな生き方しか残ってなかった。金も、愛情も、居場所も全部奪われたから…ああやつて家族を守るしか出来なかった。そして、仲間に裏切られて殺された。全部、私が悪いんでしょうか?私はそうは思えない!」
女の子「その話、何っ回も聞いたわー」
男「そっちに居るあんたは?何したんだ」
老人「何もしてません」
男「何もしてないと思ってるタイプ?」
女の子「いや、その人ほんとに何もしてなかったみたいよ」
男「何もしなかったのに、ここにいるのか?俺と同じように、罪を犯してないやつもいるってわけか」
老人「いいえ、私は罪は犯した。何もしないという罪」
男「何もしないという罪?」
老人「ただ毎日、何もせず、言われた通りにしてきた。人の言うことを聞いて、ただ生きてきた。皆と同じようにしてきた。皆と同じようなことを言って、同じようなことで面白くもないのに笑って、やりたいことを何もせず、言いたいことも言わずに」
男「それの何が罪なんだ」
老人「罪ですよ。大きな罪です。死ぬ時に大変な後悔をしましたからね…。でも、なぜそんな罪を犯したのか、今も分からずにいるんです。だから、ここにいるんです」
女の子「罪って、なんなのかよく分かんないよね。悪いことってなんだろ?」
SE(ノック音)
〇声2「(強い声で)こちらにいらして下さい!」
女の子「あらあら呼ばれちゃった。お兄さん頑張って〜、行ってらっしゃ〜い」
中年男性「またここで待ってますよ」
SE(ドアが閉まる音)
☆声1「何か思い出したことはありますか?」
男「いや…。教えてくれ、俺の何が悪かった?俺は何をした?」
☆声1「こちらはそれを自覚していただくための場所です。あなたは重度の自覚不足であると思われます。ですので、今から強制的に自覚していただきます」
男「なに?」
☆声1「お願いします」
〇声2「はい。えー、あなたは、ヒカリさんと親しい仲だと思ってらっしゃいましたね。それは何故ですか?」
男「いや、何故も何も、お互いよく知っていたし、ヒカリが困っている時や、何か新しいことを始めたいって時には必ず俺が金を出した。ヒカリは、いつも心の支えになってる、ありがとう、大好きだよ、て言ってくれてたし…俺は心から愛してた!」
〇声2「あなたは、本当にヒカリさんと面識がありましたか?」
男「あったに決まってるだろ!」
〇声2「なるほど。ヒカリさんはずっとインターネットを中心に活動されていたようですね。歌がとてもお上手だったそうで。後にミュージカルの舞台に出演もされた」
男「そう、その話が出た時は一緒にお祝いして、何度も 応援してくれてありがとう て言ってくれた。レッスン代もほとんど俺が出したし、公演中も何度も会った」
〇声2「公演中も」
男「そう、公演中もよく話した。会ったこともある」
〇声2「妙な言い回しですね。もう気づいてるのではないですか?認めてください」
男「何が言いたい!」
〇声2「確かに、ヒカリさんはあなたのことを知っていました」
男「うん」
〇声2「インターネット上では」
男「は?!…いや、実際に会って、何度も話した!ヒカリは誰よりも俺の事をよくわかってくれてるし、俺もヒカリのことをなんでも知ってる!何度も話したんだ!」
〇声2「インターネット上ではね」
男「ちが…」
〇声2「あなたがヒカリさんと実際に同じ空間に居たのは、その舞台の公演中が初めてでは無いですか?生身の彼女を見たのは公演期間中“だけ”では?」
男「何言ってるんだ…!」
〇声2「ヒカリさんが舞台に出ていた。それをあなたは観に行った。観客として」
男「恋人の舞台を見に行くのは当たり前だろ!」
〇声2「舞台の初日を観終えたあなたは、ヒカリさんの後をつけて、自宅まで行った」
男「やめろ、もういい」
〇声2「その後、何度もあなたはヒカリさんの自宅まで行ってますね。地方公演のときは宿泊先のホテルに。千秋楽までほぼ毎日…」
男「だから、恋人に会いに行くのは当たり前だ!」
〇声2「舞台初日の時点で既に、ヒカリさんの自宅にはナオキさんが居ましたよ。ホテルの部屋も、同室でした。先日ヒカリさんとの結婚を発表した、俳優の金子ナオキさんです」
男「それは…あとから知った」
〇声2「あとから知った。つまり、何度も行ったが部屋には入って、ない。会話もして、ない」
男「いや、結婚すると聞いたのは、千秋楽の1週間前だ。急だった。みんな、その時初めてふたりの関係を知ったんだ。まさか、そんなに早くから同棲し始めてたなんて…誰が」
〇声2「そうですね。おふたりは共演しているミュージカルの公演期間中、舞台と舞台の合間の短い時間に急いで結婚報告をしました。随分、無理をしたものです。同棲は公演が始まる前、舞台稽古の時からだそうです。そのことについて、おふたりは周りの親しい人たちによく話していたそうです。でも、あなたは知らなかった。なぜ?」
男「…」
〇声2「なぜ?」
男「…それは…」
〇声2「ネットと雑誌の情報しか知らないからです。直接話してないから」
男「いや、俺に言えるわけがないんだ、俺の知らないところで、他の男と…そんなこと…」
〇声2「おふたりは、周囲のお友達にこのように話していたようです」
SE 巻き戻し音
ナオキ「元々、ヒカリは神奈川に住んでたんです。でもある日ヒカリが ”最近、変なファンいるんだ” って言い出して…。それで僕、心配になって。ちょうど付き合い始めた頃だから…舞台稽古が始まったくらいの時だったかな?」
ヒカリ「そう…知り合いや関係者にDMを送って私のことを聞き出そうとしたり、事務所に変な手紙が来たり、SNSにある事ないこと…。公演中も、出待ちとか入り待ちとかそういうのとも違う…なんか…怖い人がいて…」
ナオキ「だから、なるべくヒカリを1人にしたくないと思って、神奈川から東京の僕の家に引っ越してこないかって、僕から言ったんです。公演期間中に無理言って荷物も運んで…。僕が守らないとって思ったから。だから事務所と話し合って、早めに結婚報告もしたんです。そしたら、変な人も居なくなるんじゃないかって思って…」
ヒカリ「大っぴらに2人で外を歩けるようにもなるしね」
SE 巻き戻し音
〇声2「つまり、おふたりが早々に一緒に住み始めたのも、公演期間中に無理をして結婚報告したのも、あなたが原因なんですよ」
男「…俺は手紙なんて出してない!」
〇声2「たしかに、手紙は、あなたじゃない」
男「SNSだって、みんな好き勝手書くもんだろう?なぜ俺だけ…」
☆声1「…なぜあなたの罪が重いのか?ちゃんと思い出してください」
SE 巻き戻し音
ヒカリ「(電話)もしもし〜?ナオくん、ごめん〜!タクシー変なとこで降りちゃった。今からそっち行くね。うん、階段のとこn…ひぃッ!」
男「ヒカリ…」
ヒカリ「やだ…ナオくん助けて!」
男「待って、呼ばないで!やっとおまえが1人のときを見つけたから俺…」
ヒカリ「何でこんなところまで来るのよ…やめてって言ってるじゃない!いい加減にして!」
男「ヒカリ。俺はもう怒ってない。話し合おう」
ヒカリ「もうそれ以上近付かないで!」
男「落ち付いて、大丈夫だから」
ヒカリ「…来ないで」
ナオキ「(遠くから)おい!何してるんだ!」
ヒカリ「ぃやっ、助けて!ひぃ!」
男「うわぁ!やめろ!」
―ヒカリの悲鳴―
SE 巻き戻し音
男(呻き声)
☆声1「本当は、千秋楽のあの日の夜、あの階段の上で何があったんですか?」
男「俺は…ヒカリと話そう思って近づいていったんだ…そしたら…気づいた時にはヒカリが階段から落ちそうになってて、咄嗟に危ないと思って彼女の手を掴んだ」
☆声1「危ないと思って掴んだ…?」
男「俺はヒカリを助けようとした。そこにあの男が来て…何してるんだ!て叫んだから驚いて、手を…離してしまった」
☆声1「…いいえ。手を、振りほどいたんです。
急に近づいてきたあなたに驚いて、階段から落ちそうになったヒカリさんは、咄嗟に近くにいたあなたの手首を掴んだ。
…あなたがヒカリさんの体に触れた、初めてで、唯一の瞬間です。
ヒカリさんは、あなたの手を掴んで ”助けて” と言った。そのヒカリさんの手を、あなたは咄嗟に振りほどいたんですよ。自分も落ちると思ったから。自分は、落ちたくなかったから。しかし、ヒカリさんに服を掴まれて、そのまま一緒に階段から落ちた」
男「いや、だとしても…事故だ」
☆声1「…あなたには殺意があったではないですか」
〇声2「あなたの直接的な死因は、上着のポケットに入れていたナイフで内臓を傷付けたことです。結婚報告の翌日にスーパーで購入したナイフです」
男「……使うつもりはなかった…ただ…その…」
☆声1「あなたはあの時、ずっと右手をポケットに入れてナイフを握った状態でしたね。落ちる時、ポケットに手が引っかかって片手が使えなかった。だから、あなたの方は随分ヒドい落ち方をしている」
男「ヒカリは…」
〇声2「ヒカリさんは、一命を取り留めました」
☆声1「しかし、顎を酷く負傷されましてね、顔にも傷が残り、今後うまく話せるかもわからない状態で、今も入院中です。…この意味が分かりますか?」
男「……俺は、ヒカリの歌声が好きだった」
☆声1「みんなが、好きだったんです」
男「でも俺は!」
☆声1「ブラックルーム82号室にお戻りください」
SE ドアが閉まる音
ナオキ「なんだよここ…」
☆声1「金子ナオキさん、今からあなたが犯した罪に関してお話していきたいと思います」
ナオキ「は?罪ぃ?オレぁ捨てた女に刺されたんだ。うちのキッチンにあった長い刺身包丁でさ。どっちかって言うと被害者じゃないの?ったく、(芝居がかって)これからだって言う時に、なんて可哀想なボク!
(吐き捨てるように)結婚なんかするんじゃなかったぜ」
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