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頭部CTの適応

診療をしていると頭部を打撲したかたの受診を多く経験します。
日本で救急診療を行う病院はほぼすべてでCTがあり検査は可能です。
ただし被曝のリスクがあり、やみくもに検査をすることは勧められません。
どういった症例で検査を行うかは、いまだに迷うときがあります。
頭部CTに関しては臨床予測ルールがあり、症例と照らし合わせて判断していきます。
今回は頭部CTの適応に関してまとめてみました。


Canadian CT Head Rule(CCHR)

適応:頭部外傷のある患者で以下の場合には適応になります。
・GCS13-15かつ一過性意識消失がある
・受診時の記憶がない
・不隠、錯乱
除外:以下の場合にはこのルールに照らして判断してはいけません。
・16歳未満
・抗凝固薬/抗血小板薬を内服している
・受傷後に痙攣を発症した

除外の意味としては二つあります。
まず年齢に関してはCCHRの試験に小児が含まれていないため、このルールを使って判断してはいけないという意味です。
また抗血栓薬や痙攣に関しては以下に示すハイリスクな要因がなくとも、脳損傷の可能性が高いため頭部CTを考慮すべきという意味です。

High Risk:下記に1つでも該当すれば外科的介入が必要な可能性があり頭部CTを考慮します
・受傷後2時間でGCS<15
・頭蓋骨の開放骨折/陥没骨折が疑われる
・頭蓋骨骨折の所見(パンダの目、バトルサイン、髄液鼻漏など)
・2回以上の嘔吐
・65歳より高齢

Median Risk:下記に1つでも該当すれば頭部CTを考慮します
・受傷時から30分以上前の記憶がない/曖昧である
・危険な受傷機転(鈍器で殴られた、階段5段以上からの転落、車両から外に飛ばされたなど)

他にもNew Orleans Criteria (NOC)、National Emergency X-Radiography Utilization Study II(NEXUS II)などがあります。
CCHRと比較して特異度が低いため、米国救急医学会ACEPガイドラインではCCHRをレベルAとして、NOC・NEXUSをレベルBとして推奨しています(Ann Emerg Med. 2023 May;81(5):e63-e105.)。

Pediatric Emergency Care Applied Research Network(PECARN)ルール

16歳未満のかたはCCHRで判断しないとされています。
小児ではPECARNという別のルールをもとに決めていきます。

適応:頭部外傷後24時間以内で以下の場合には適応になります
・GCS14-15で18歳未満のかた
除外:以下の場合にはこのルールに照らして判断してはいけません。
・歩行や転倒といった低エネルギーの外傷で頭皮の損傷がない
・GCS≦13
・穿通性外傷や、既知の脳腫瘍や神経障害、前医で診断されいる場合

上記の項目を踏まえて適応となる場合には以下のフローチャートで判断していきます。

2歳未満:
①以下の場合で1つでも該当すればCTを推奨します
・GCS≦14
・意識が普段と違う(例:傾眠、機嫌が悪い、同じことをいうなど)
・頭蓋骨骨折を触知
②該当しない場合には以下の項目を確認、1つでも該当する場合には医師の判断のもとにCTを行うか判断します
・前額部以外の皮下血腫
・5秒以上の意識消失
・危険な受傷機転(車外放出、歩行者VS車の事故、0.9m以上からの転落など)
③該当しない場合にはCT不要と判断します

2歳以上
①は同上です 割愛します
②該当ない場合には以下の項目を確認、1つでも該当する場合には医師の判断のもとにCTを行うか判断します
・意識消失
・嘔吐
・危険な受傷機転(車外放出、歩行者VS車の事故、0.9m以上からの転落など)
・激しい頭痛
③該当しない場合にはCT不要と判断します

上記のルールは有用ですが、微小な脳出血を対象にはしていない、というところは注意すべきです。
特に小児ではCTでの被ばくリスクが知られており、ルーチンでの撮影は推奨されていません。
実際にはPECARNを参考に判断しつつ、撮らない場合のリスクを合わせて説明する必要があります。
また小児に限りませんが、セッティングが許すのであれば時間を味方につける方法もあります。1-2時間ほど経過観察し意識状態の変容がないか確認、そこでCTの適応を再度評価するのも一手です(時々やります)。

帰宅させる際の注意点

軽症の頭部外傷の多くは、帰宅し経過観察となります。
初回のCTでは所見がなくとも、後日に脳損傷がわかる場合がまれですが存在します。
例えば、Livingstonらの成人対象とする報告では1.1%ほどと報告されています(Ann Surg. 2000 Jul;232(1):126-32.)。
後日症状が悪化することがあるため、帰宅する際には頭痛や嘔吐、意識変容がある場合には再度受診するよう説明します。
多くの施設ではパンフレットを作成し手渡していると思います。
頭部打撲だけに限りませんが、口頭のみでは覚えていないことが多いです。
紙面に残したり簡単なメモを書いたりして説明することをお勧めします。

終わりに

今回は頭部CTの適応に関してまとめてみました。
実際には上記の項目に当てはまらず、CTをとるべきか悩ましい症例もあります。
その場合には私の一定の指針として家族の意見を参考にするようにしています。普段ずっと見ている家族から、なんだかおかしい、というSOSがあればCTを撮る場合が多いです。
この記事が皆様の参考になれば幸いです。

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