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異物誤飲の治療戦略


はじめに

救急外来で働いていると、異物誤飲の症例を何度か経験します。
「子供がおもちゃや電池を飲んでしまった」という主訴で受診されることが多いです。
飲んでしまったものによって対処が異なるため、詳細な問診が必要です。
小児では4割は飲んだときの状況を目撃していないといわれます(Am Fam Physician. 2005 Jul 15;72(2):287-91.)。
迅速に内視鏡での摘出が必要なものもあり、内科医との連携が重要です。
今回は異物誤飲の際の対応をまとめます。

総論

受診時に首元に手を当てている(いわゆるチョークサイン)があれば、直ちに処置室に通してください。窒息を疑います。

万国共通 ユニバーサルチョークサインともいわれます(画像:看護roo!より)

窒息の状況では、以下の手順で診療します。
1歳以上の小児では腹部突き上げ法(ハイムリック法)が可能とされています。
目安としては5回叩いたあとに咳をしてもらう、これを繰り返し行います。
妊娠時には成人であっても胸部突き上げ法を行いましょう。
これにより異物が出た場合でも臓器損傷の可能性があるため病院受診を促します。院内の場合にはそのまま診察を行いましょう。
実際の方法はYouTubeなどの動画が参考になります。
(政府広報オンラインより:https://www.gov-online.go.jp/caa/201711/video-280895.html

窒息でない場合には通常通り問診から始めます。
飲んでしまったと思われるもの、含んだと思われる量と個数、嘔吐の有無、症状の有無を確認します。体重も忘れずに聞きましょう。
症状に関しては受診時にはない場合が多いです。50%ほどは無症状であったとされます(Eur J Pediatr. 2001 Aug;160(8):468-72.)。

受診が必要なものとしては以下のものがあげられます。
・タバコ
・ボタン電池
・複数の磁石
・薬の殻(PTP)やホッチキス、など鋭利なもの
・防虫剤や洗剤

問診後は異物の有無や位置の確認のためにレントゲンを行います。
頚部、胸部、腹部の2方向の撮影を行います。
ただし64%がレントゲンで不透過なものであったという報告があります(Eur J Pediatr. 2001 Aug;160(8):468-72.)。
症状があったり、鋭利なものではCTなど別の画像検査を勧めます。

治療に関しては現在、催吐は勧められません(来るまでに吐いてしまった場合はしょうがない)。特に石油や一部の洗剤(酸やアルカリ性坐位)では食道や気管を損傷するおそれがあり禁忌です。
以前は牛乳を飲むとよいとも言われましたが、エビデンスはありません。
仮に内視鏡で摘出になった場合には不利に働くため、何も摂取させないほうが無難です。

タバコ

小児での誤食の症例が多いです。一般的に2cm以内であれば経過観察可能とされています。経口摂取の場合は多くが吐いてしまうので想定よりも摂取した量は少ないことが多いです。
タバコ1本あたり10-15mgのニコチンが含まれ、中毒量に相当します。
症状としては嘔気や嘔吐以外にけいれんを認めることがあります。
施設の基準に応じての判断になりますが、4時間ほど経過観察することが推奨されています。
タバコの排液の場合には少量でもニコチンの摂取量が多くなりやすいため、より注意が必要です。

電池

食道内に電池がとどまった場合、特にリチウムやボタン電池では穿孔のリスクが高いです。数時間で潰瘍を形成し、8時間で穿孔する可能性があります。
胃内にある場合にもボタン電池では粘膜損傷が多く摘出が推奨されています。アルカリ電池であっても複数の場合には腸閉塞のリスクやアルカリ性の粘膜損傷のリスクがあります。内科医との相談のうえで内視鏡の可否を判断するのが推奨されます。

磁石

複数の磁石では、粘膜がはさまれることで腸が壊死し穿孔する可能性があります。特にネオジム磁石は危険とされています。
レントゲン写真のみでは単一か複数かの判断が困難なため、CTが必要とされます。

鋭利なもの

薬物の殻や釘、魚骨などの鋭利なものは穿孔のリスクが高いため急ぐ必要があります。
食道や胃内にある場合には内視鏡での摘出が選択されます。小腸内に移動し3日以上停滞しているものは外科的摘出が必要となります。期間にかかわらず穿孔を疑う腹部症状を伴う場合には外科医に相談するのがよいでしょう。

医薬品

小児において1錠や少量で死に至る危険な薬剤として"one pill killer "または"one pill can kill"と呼ばれる薬剤があります。
実際に1錠でなくなった報告はないともされていますが、小児では少量であっても慎重な対応が必要なことには変わりありません。
三環系抗うつ薬、カルシウム拮抗薬、抗不整脈薬、抗精神病薬、オピオイドがあげられます。
詳細は成書を参考にしてほしいですが、投薬時間・投薬量・種類を聴取し担当する医師と相談する必要があります。
もし薬の殻が残っていれば服薬量が推定可能になるため、受診する前の指示として有効です。

終わりに

ここまで実際に飲んでしまったあとの対処をお話しましたが、重要なことは未然に防ぐ予防です。
たとえば誤飲予防としておもちゃは苦く設計されるようになりました。トイレットペーパーの芯の太さまで小児は飲み込めるとされています。小さいものは高いところに置く工夫をしましょう。
(偉そうなことをいっていますが、私自身も子供のときに鼻におもちゃをつまらせたことがあります…。)
危険なものがないか一度家庭を見直してみてください。


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