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紅生姜天

朝5時、徹夜明けで早朝の富士そば
客は3人ほど
食券機で紅生姜天+温泉卵を買う
朝そばのコスパの良さには引かれるがやはりここは紅生姜天だな。

食券を店主出す。
蕎麦を茹でるから5分ほど待ってと言われる。A60の半券を渡され「コレ持ってて」と言われ席に着く。

程なくしてA60と聴こえた気がして席を立とうとしたら別のオヤジがお盆を持っていった。
聞き間違えたか。そう思ってまた、しばらく待つ。

また少ししてA61のお客様〜朝キツネ蕎麦のお客様〜と聞こえる。まだ、俺じゃないか。と思って携帯に目を移す。5分は経っていた。
そこに別の客達が入ってくる。トラックの運転手のような厳つい2人組だ。
2人が注文を通すと、奥で店員がまたA61のお客様〜朝キツネのお客様〜と言っている。
明らかに迷惑そうな声をしている。

蕎麦が伸びてしまうぞ?誰だ?そう思って店主の方に目をやると、店主は俺をいぶかしげに見て、首を傾げる。
トラックの運転手たちも俺の方を見る。

待て、この注文は俺向けなのか?食券に目をやる。A60紅生姜天と書かれている。
俺ではない。

ふと、嫌な予感がする。
最初に聞き間違えたかと思ったあのA60はやはり俺の注文であってて、あのお盆を持っていったオヤジは朝キツネ蕎麦だったのではないか!?

慌てて立ち上がりオヤジの器を覗き見る。
既に蕎麦は終盤に差し掛かり紅生姜天の形はない。
朝キツネ蕎麦と紅生姜天の違いは一目瞭然だが、俺がトッピングをした温泉卵のせいで、卵部分が似通ってしまった。
間違えたと言われればそれまでである。
しかしこのままでは俺の朝飯が無くなる。

店主の方へ行き、聞く「このA60の紅生姜天の注文って通ってますか?」

店主は、はあ?と声をあげる。「先程出しましたよ?」と言われる。
「いや、僕は受け取ってないのですが?」そう答えると
店主は、あ、紅生姜天注文したやつはコイツだったというような顔を一瞬ちらつかせ、また面倒くさそうな顔になり
「作り直すので待ってください」そう言った。

作り直す?
やはり...あのオヤジが俺の紅生姜天を食ったのだ。

仕方なく席につき待つ。その間、俺は俺の紅生姜天を食っているオヤジの背中を見つめていた。
朝キツネそばの値段は340円、俺の紅生姜天は温泉卵付きで530円。190円も違う。

あのオヤジは190円も得をして蕎麦を食っている。
オヤジは今どんな気持ちなのだろうか。先程のやり取りは聞こえていないのだろうか。
そして朝キツネ蕎麦は誰にも食われることもなく廃棄されるのであろう。
色々ともやもやしてきた。

そもそも、店主も店主だ。なんのために食券制を取っているのだ。
これでは、誰でも好きなもの食べれてしまうではないか。

そうこうしているうちに再度A60と呼ばれる。
なぜ、紅生姜天は名前を言わないのだ!A61は朝キツネ蕎麦と言っていたではないか!
そこも間違われた原因なのではないか?
俺の怒りの矛先は完全に店主に向けられていた。

しかし、俺も大人、紅生姜天を食べて腹を落ち着かせればこの怒りも静まるだろう。
そう思って紅生姜天を迎えにいくと、

温泉卵が乗ってない!!!

キレた。

「温泉卵もトッピングをしたはずなのですが?」震える声を抑え、できるだけ低い声で店主に伝える。

店主はハッとした表情で「ですよねぇ〜」と言いながら卵を割り、どんぶりに入れる。
「向こうのお客さんが持っていっちゃったんだよねぇ」と少しイラついて言ってくる。

俺は表情を変えず店主に告げた「そんなことは僕は知りません」

今日の紅生姜天はいつもより酸っぱかった。

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