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一本の櫛との出会い "BULY"

私がビュリーと出会ったキッカケは、一本の櫛から始まる。そのユニークなデザインに心奪われビュリーの世界観に魅了されたのである。

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ブランド復活から早6年。世界各国に店舗出店し、急成長を遂げるビュリー。私が気になったモノや人の魅力をご紹介する当コラム。第一回目となる今回は世界中の人々を虜にするビュリーの魅力に迫る。

1803年創業 L'Officine Universelle

まず始めに"L'OFFICINE UNIVERSELLE BULY(オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー。以下:ビュリー)について

男女問わず衛生、美容に対する意識の高まりを受け調合師ジャン=ヴァンサン・ビュリーが1803年に総合薬局を開業 。パリ サントノーレ通りに”L'OFFICINE UNIVERSELLE" を構える。
(フランス語で「オフィシーヌ」=薬局 「ユニヴェルセル」=総合 オフィシーヌユニヴェルセルとは総合薬局を意味する。)

この頃はまだ香りの開発技術は秘伝中の秘伝とされ、香水は限られた人間しか持つことができなかった。1806年に制定されたフランス民法典に定められた商業活動の自由を得る事により庶民の間でも香水が広まりをみせる。化学製品の含んだ化粧品、香水などが主流だった当時、香水と香り酢の魔術師として知られていたビュリー氏が自慢の鼻を用い、他国で見つけた肌に有用な植物原料を用い、香水、スキンケアアイテムを提案。この当時の製造法とは一線を画したビュリーの香粧品は広がりを見せる。美容専門家としても名を轟かせた同氏は、肌を浄化し、スキントーンを均一に保つ効果を謳った香り付きローションで、名品"ビュリーの香り酢"を開発。後に特許を取得する。

1837年にはフランスを代表する作家、オノレ・ド・バルザックによる小説「人間喜劇」に登場する主人公"セザール・ビロドー"のインスパイアソースにもなったそう。
一世紀以上もの間、愛され続けたのは、ビュリーの香り酢の存在が大きい。だが、時代の流れには逆えず、ブランドの存在が薄れていってしまう。
そんな中、”Ramdane Tonami"(ラムダン・トゥアミ 以下:ラムダン)が歴史の波に埋もれかけていたビュリーを発見し、ラムダン氏の妻で美容歴史研究家でもある”Victorie de Taillac"(ヴィクトワール・ドゥ・タイヤック 以下:ヴィクトワール)と共にビュリー創業当時の画期的な製法、植物由来の原料にこだわり、現在へとアップデートし2014年、名称をオフィシーヌ・ユニヴェーセル・ビュリーへと変更し見事に復活させる。

2014年復活した新生”OFFICINE UNIVERSELLE BULY"

店舗としては、2014年、パリ6区ボナパルト通り、サン=ジェルマン=デ・プレ店をオープン。
ラムダン氏は、オンラインでの買い物に集約されていく世の中に一石を投じ、実際に店舗に行かなければ体験できない楽しさ。行きたくなる店舗作りを決行。
店内の什器類に関しては職人さんに依頼し、手作りにて仕上げられている

私が尊敬する一人”Comme des Garcons”率いる川久保玲氏も店頭でしか味わえない体験、刺激を大切と考えており、洋服だけでなく店舗の空間デザインにも重きを置いており、自身で行なっている。(現在でも同ブランドに於いてはECサイトでの販売は一部ブランドのみ)
現在では、PCがなくともスマホなどネットに繋がる機器さえあれば誰でも片手で買い物が出来る便利な時代である。
もちろん私も便利な機能なので使う事はあるが、店頭に自分の足で出向き、
そこでしか味わえない空気感を感じつつ、セールススタッフに相談や談笑し買い物を楽しむ。これに勝るものは無いと思う。


話をビュリーの店舗作りに戻り、ラムダン氏のユニークなアイデアについてご紹介したいと思う。

ラムダン氏の提案するユニークな店舗作り

ビュリーの店舗に於て有名な話でもあるパリ2店舗目となるサントンジュ通り、ル・マレ店には、日本の職人がフランス人シェフにおにぎりの作り方をレクチャー。定番的な味付けの物から思わず何コレ?と言いたくなる具材が入ったNANIKORE ONIGIRIや、ラムダン氏が以前復活させた1789年創業の老舗カフェ
”グラン・カフェ・トルトーニ”フラワーアート職人でパリのホテル オイ・パリにて"Les Floreria"を営む鴻上千明さんが手掛けているプリザーブドフラワー、ドライフラワーのレイアウト、販売を行なっているそう。

日本に於いては、東京、恵比寿と代官山の中間に位置する場所に構えた日本初出店となる1店舗目は、左右の世界観が異なる造りとなっており、片方は19世紀のエスプリな雰囲気漂う伝統的なスタイル。もう一方はコンクリートを基調とした佇まいの中に天井からの差し込む自然の光が優しく洗練された東京のスタイリッシュさを連想させるスタイル。
フランス、東京を演出するにあたりその地の大工に依頼。東京サイドは日本の職人さん、パリサイドはパリの職人さんがそれぞれ担当。おそらく普通では考えられない職人さんのコラボからもラムダン氏のこだわりが伺える。(下記写真2枚目、左が東京をイメージ。右がパリをイメージ)

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日本2店舗目となる京都店は、日本の古建築に関心のあるラムダン氏が茶室にインスパイアされ表現した数奇屋造りの外観、内装は19世紀フランスをイメージした佇まい。と、洋と和の融合。実際に中に入るまでどうなっているのか想像もつかないワクワク感を見事に演出している。

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国内のこの2店舗目に関しても、ラムダン氏が掲げている"わっ!"と驚く空間が見事に演出されている。
什器の一点一点も面白く、香水のテスターなど唯一無二なディスプレーにもラムダン氏による遊び心を感じる

それまでの香水の概念を覆したビュリー

ビュリーの代表的なアイテムである香水。その製法にもこだわりが詰まっており、ラムダン氏は妻のヴィクトワール氏、調香師と共に研究と試作を繰り返して世界初となるアルコール類を一切含まない水性香水をつくりあげた。香水やボディローション作りで功績を残した創業者の"オフィシーヌ・ユニヴェーセル"へのラムダン氏、ヴィクトワール氏によるオマージュでもあるのではないかと思う。

香水が誕生して200年以上経過し、アルコール類を含んだ製法、トップノート、ミドルノート、ベースノートと三段階に分かれた香りがスタンダードであったが、ビュリーの水性香水は香りが変わらず肌に付けた時の新鮮な香りを一日中楽しむ事ができる。現在ではスタンダードな香りが12種類。加えてルーブル美術館とのコラボでルーブルにて所蔵している作品をイメージしてビュリーが作り出した香り8種類の計20種類が用意されている。どれも他にはない個性あふれる香りがなんともクセになる。他にも同じ香りのボディークリームやオイルなど美容アイテムはもちろん"フレグランスストーン"という熱も蒸気も使わず香り蒸発させ空間で香りを楽しむアイテムなどもリリースされている。フレグランス物に関して言えば、浄化作用のあるインセンスや香木なども取り扱っている。

香水にアルコールを含ませるテクニックは19世紀に開発された。それまではオイルを含ませるテクニックしかなかったが、アルコールを含む事により香りの強さ、持続性を上げる事に成功。そのうえ、アルコール香水は原価も安く作ることができ重宝された。
スイスの職人さんが手掛ける櫛

ビュリーでは、フレグランスやスキンケアアイテムだけではない。冒頭で紹介した櫛なども手掛けているのだ。そして、ここにもラムダン氏のこだわりが詰まっている。櫛に使われている素材は植物由来のアセテートをイタリアで作ってもらい、ヨーロッパで唯一スイスに残るアセテート加工の工房にて職人さんが手作業で作っているそう。毛質に合わせた櫛や、髭用ブラシなどユニークな物もあり、櫛だけで100種類ほどとかなりの数が用意されており、あなたの毛質にぴったりの櫛が必ず見つかる。

オリジナルアイテムに加えて多種多様なラインナップ

オリジナルのフェイシャルケアアイテムはもちろん、ギフトにも最適なパッケージの可愛いハンドクリームや中性石鹸(石鹸にはイニシャル刻印可能)
オーラルケア、クレンジング&マッサージブラシ、メンズアイテムでシェービングクリームなども展開。
ハンドクリームと言えば、昨今ではウォーターベースで肌なじみの良いものが主流であるが、シアバター、ミツロウが主成分で昔ながらのバームのような固めの作り。手で温めてマッサージしながら塗り馴染ませて使用する。
製品の内容だけで無くパッケージなどプロダクトデザインに至るまでラムダン氏が手掛けていると言うから驚きだ。

セレクトアイテムとしてラムダン氏とヴィクトワール氏が世界中を旅して見つけたボディケアアイテム(ブラシやスポンジ)やオイルなどを加えてマスクを作る自然由来の"クレイ"(ミネラルの含んだ細かい粒子)と呼ばれるパウダーやローズ、アルガンなどピュアな状態で抽出したオイルなども用意されている。
このパウダーやオイルは、肌の悩みなどに適した効果が期待できるモノを提案してくれ、一種の"特別感"も得られる。
まさに総合薬局の名に相応しいラインナップである。

ビュリーならではの"カリグラフィーとイニシャルの刻印"サービス

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ビュリーでお買い物をした時の特徴の一つであるカリグラフィーサービス。自身の名前やギフトの場合メッセージなどを書いてもらえるサービスを受けられる。こういった細かい部分にもラムダン氏の"驚かせる"仕掛けを感じられる。セールススタッフが一点ずつ手書きで施してくれ、この特別感がギフトにも最適である。ちなみに櫛やリップバームケースには有料でイニシャルの刻印もしてくれるそう。(写真は私がギフトで頂いた際のカリグラフィー)

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上記写真は代官山店の店内。壁面に等間隔にレイアウトされている台形のウィンドーに注目してほしい。
ビュリーの製品で実際に使っている植物をメインにレイアウトがされているそう。このディスプレーを作るに辺り感慨深い逸話を見つけたのでご紹介したい。
ラムダン氏は、植物の本来持つ鮮やかな色合いを残したままディスプレーをしたいと考え、色々と調べた結果、変色しないようドライにさせる技術を発見し、その技術は"日本の職人さんにしか出来ない。"と知る。ラムダン氏は色々な情報を得ては探し求め、遂にその職人さんと出会う。
ディスプレーに使用している植物の中には日本では手に入らないモノも有り、その場合は世界各国の生産者に自ら会いにいき、交渉し、譲り受けたそう。ここまで仕上げるだけでも並ならぬ労力を費やしている事は察して頂けるかと思うが、最も大変だったのは植物をアクリル樹脂で固める工程だと氏は語る。一つのウィンドーに使用しているアクリル樹脂の量は約40キロで総使用量はなんと4トンにも及ぶ。数々の日本の業者に依頼しても、それほどのアクリル樹脂量の在庫がない。納期に間に合わない。など一見、不可能かと思われたが、ここでも並ならぬラムダン氏の努力の末、不可能を可能へと導いたのだ。

店頭に着いた際の外観を見て楽しみ、店内に足を踏み入れると外観とのギャップに驚き、什器やレイアウトの美しさにウットリと…。ビュリーのアイテムを熟知しており、こちらの質問にも分かりやすく丁寧に教えてくれるセールススタッフに相談しながら、個性溢れる香りの中から自身の好みの香りを探してみてはいかがだろうか。店を出る頃にはきっとテーマパークに来たような高揚感があなたを包み込んでくれる。


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(下記写真)商品カタログも一点一点しっかりと説明が書かれておりアイテムへの愛を感じられる。

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文中にも触れたが、インターネットが普及した現在では、探している情報は数分で見つかり、欲しいモノが有れば世界中どこにいても簡単手に入る時代。
そんな時代の最中でもラムダン氏は自身の足で現地に出向き、納得のいくものに出会うまで探し求める。
代官山店のディスプレーの話を見た時、私自身はどれだけ自分の"こだわり"を大切にし、探究し続けて貫き通しているだろうか。など考えさせられた瞬間であった。
"好き"だけでは出来ない事はもちろんある。だが、その一歩を踏み出さないと何も始まらないのである。

次回はラムダン・トゥアミ氏の飽くなき探究心の根底について私見を交えて綴っていきたいと思います。

Officine Universelle Buly

Officine Universelle Bully Japan


Write by  Dogen 
Edit by yokoh


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