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00漂流するだけの卒業旅行
3月7日(木)曇りときどき雨
卒業旅行は船で日本一周することにした。
正直、久しぶりの1人の長旅は緊張する。
大学生の間に培った一人旅力とでも言うべきスキルは、この妙な緊張感との戦いを制するためのものだ。ふつふつと湧いてくる緊張感には、もはや懐かしささえ伴う。
書くつもりはないのに、自然と手が文章を産み出してしまう。これも緊張を打ち消すために、体に刷り込まれた癖なのかもしれない。
21時45分に品川を出発した特急ときわ号は、いくつかの河を渡り、いくつかの街の明かりを通過して暗闇の中を進んだ。
とにかく、これから眺めるいろんな海の色が楽しみである。青色には何種類あるのだろう。
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平日だからか特急を利用する通勤客がぽつぽつと駅に着いてはホームに吐き出される。23時過ぎ、水戸に到着。そこから乗り換えて大洗へ。
大洗の駅から港へは、20分ほど歩けばつく。静まり返った大洗の町は、海のほうがオレンジのライトでぼやっと明るくなり、港だけが陽の沈まない白夜のようだった。
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小雨の中、誰もいない町を歩き、コンテナが並ぶフェリーターミナルに着いたのは、ちょうど0時ごろ。今から乗るフェリーは25時45分に出港する。
3月8日(金)曇りのち晴れ
純粋に疲れていたので、風呂に入って、すぐ眠りについた。船の中は、今まで乗ったことのある船と比べると、どことなく年季を感じる。
最初に目が覚めたのは5時ごろで、再び眠りにつこうとするも、船の揺れが思ったより強かった。電波は当たり前だが通じない。
次に目が覚めたのは9時過ぎ。起きて窓の外を見て、濃霧の中を進む景色と甲板にできた水溜まりが右往左往している様子を確認する。なんだかまだ眠いので二度寝をすることに。幸せだなあ。
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11時20分。流石にお腹が減ったのか目が覚めた。このフェリーにはレストランがないと案内されたので、あまり期待はしていない。でも、船の中で食べるカップ麺は嫌いではないので、レンジでチンするタイプのカルボナーラを適当に食べて、窓の外を眺める。
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海は呼吸しているようにうなっていた。そういえば、水は液体だったことを忘れていた。船の揺れと心の揺れが共鳴するような感覚に溺れ、自分の寝床に戻り三度寝に興じた。自堕落な生活である。
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16時に目を覚ました頃には、青空が見え、Google mapで現在地を確かめると三陸の沖合、岩手県のかなり陸に近いところを航行中だった。適当に本を読んだり、音楽を聴いたり、窓の外をぼーっと眺めていた。
北海道についてからのことは、特になにも考えていない。船に乗っている間は、人生のことだけ考えておけばよい。
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陽が沈み、まもなく船も苫小牧に着こうとしている。
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下船時に一緒に迷子になった人にご一緒させてもらい、駅まで車で向かってもらった。ちょうどバスもタクシーもなくて困り果てていたので、本当に助かった。
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煙突の見える街、苫小牧である。ここからは鉄道に乗って札幌へ向かう。
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今はすすきのの快活クラブの一室でこの文章を書いている。
さすがに19時間も船に揺られていたため、三半規管はまだ船に乗っていると勘違いしているようだ。ずっと揺れているような感覚に陥る。
とりあえず太平洋を北上しただけの1日。旅はまだまだ始まったばかりである。
今日の気づき
船の上で過ごす19時間はとても短い。体感6時間くらいかなと思えたのだが、そういえば今日は累計12時間も寝ているからだった。
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