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持続可能なUBIの条件

2022年11月12日 第5回日本ベーシックインカム学会年次大会での発表スライドです(ちょっと解説も)。

ちなみに、2022年の日本ベーシックインカム学会の会誌に寄稿した内容https://note.com/taomorohoshi/n/n6eb8477453deをベースにしました。



論の土台はまあ、ざっくりMMTです。
なので、金融的な可能性の話でなく、実物財の話になります。
ここで、ケア、という言葉の意味の範囲ですが、、、
介護保育はもとより、ゴミ収集や国防(侵略はケアとは呼べませんが)、グリーンニューディールも環境へのケアで、意味は広いです。
生命再生産に資するほとんどの活動と言えるかもしれません。
そして、財政民主主義という時、相手にされない声があっては、民主主義とは言い難い、てことです。


BIENはベーシックインカム関連の最大の世界団体ですね。そこが定義するBIと、支持するBIで、後者がより規範的です。
寝たきりを放置しておいて、口座残高だけ増やしとけばOK、商品棚は空だけど、財布はパンパンだからOK、BIでインフレになったから失業を増やして物価下げればOK、、、なわけないやろ、てことです。

「ケアするのは誰か?」は政治学者ジョアン・トロントの本のタイトルからです。
Who Cares? は、どうでもいい、とか、知ったことか、の意味もあります。
絵は天空の城ラピュタのワンシーンですね。
「誰がそのシャツを縫うんだぃ」「へっ?」てやつです。
ぶっちゃけ、この一枚絵で、本発表で言いたいことは物語ってます。
ガイスタンディングの迂闊な一言の揚げ足取りみたいになってますが、でも多分、彼一人の迂闊さというより、人類の大多数の無邪気さでもあると思う。

ここは、価格とか価値は、需要と供給だけで決まるもんでなく、市場すら様々な優越的立場からの操作はあるし、公共的な事は更にそうだと言うこと。
良い悪いというより、現実がそうなのを忘れて、需要がある=価格が上がるはず、価格が低い=需要が低いから、とか、価格が低い=価値が低い、みたいな短絡すると、どんどん現実から乖離するよという事。
で、現実として権力が価格を差配し、価値観に影響しているなら、私企業の権力と、国家の権力、どちらが国民の為に使えるだろう?


で、そういう権力による価格や評価に与える影響を、とても受けている2つの仕事の対比。
ケアワークとマネーゲーム、そんなに賃金(社会的評価)に差がつく正当性はあるんですかね?ということ。
特に、ケアする女性は低賃金ゆえに低年金で貧困に陥りやすい構造だが、その構造は自己責任ではなく、政府がそう設計してますよね、という話。
そして、低年金ということは、ケア労働者がケアを必要とした時、自己負担分が払えず、利用を控えざるを得なくなる。
農家が米を食えずに、誰が食べてるんだろうね?


ブルシットジョブ(クソどうでもいい仕事)からの脱却は良いが、ケアワークをシットジョブ(意義が無い訳では無いが、安い仕事)にしておいてはダメなんで、そもそも国が制度設計でそうしてるんだから、国の公定価格でシットじゃなくしろよ、という話。
でないと、仕事としては嫌いじゃないが、食えないから若者の選択肢から外されてしまう。
訪問介護はヘルパーの1/4が65歳以上、1/3が60歳以上で、10年後どうなってるか、知らねえぞ、という話。
BIあるから女に家に居てもらえ、なんて話が通じるかね?という話でもある。
あと、ここでは暗にBIで賃金は上がる前提だが、では何故介護等は相対的に賃金低下すると書いてるかというと、、、コンビニの時給は店長の差配で明日にも変わり得るが、介護は公定価格で、介護報酬の見直しは3年ごとなので、民間の賃金上昇や物価上昇に追いつかない。実質賃金以前に、名目が上がるのにすら時間がかかる。

ベーシックインカムとベーシックサービスの対比あれこれ。
派手で簡単な方から始めたい気もわかるが、浮かれて足元疎かにならんかな?という話。
BI抜きのBSはあり得るが、逆は成り立たんだろうということ。
たとえ始めても、途中で持続困難になって中止されて日の目を見なくなりはすまいかという懸念もある。


ここでいう財源とは、徴収する理由を何にするかの意味。予算の調達の意味でなく。
現物(サービス)の給付と現物(サービス)の生産がセットである事業から税金取らなくていいだろうという話。
ベーシックサービス、ケアワーク(農業とか公共事業とかのエッセンシャルワークとほぼ同義)への支出は全額赤字支出の通貨発行で賄え。これらは、インフレにも強いというか、インフレ抑制的でさえあるから。
また、公園がインフレで広さ変わるか?という話でもある。
少し脇にそれるが、生活保護のスティグマを理由とするBI推しでBS忌避な意見に思うのは、公園のベンチで寛ぐときにスティグマなんて感じるかな?ということ。あれも行政による空間の給付なんですが。
公園並みに気軽に使える給付制度が必要。生活保護とかは、スマホで申請して即時支給で、審査は数カ月後にやるくらいで良い。
地域食堂やネットカフェ的なスペース(無料WiFiなど)も公営で、そこら中につくればいい。食事出す24時間オープンの寝泊まりできる公民館のようなものがあればいい。
しかし、生産とセットではなく、消費する権利だけを付与するBIは、消費への抑制となる消費税を組み入れた方がいい。BIで買い物した売上が投機に回ると不安定化させ、格差拡大する可能性もあるし。
ただし、日用品の軽減税率を併せないと、インフレ税も消費税も負担を庶民に押し付けることになる。


ここは、BS拡充を後回しや軽視するBIが如何に非現実的というか、お目出度いかの話。
経済が良くなれば福祉も充実する、、、なんてことは実際には無かったよという話。
経済と言い換えたビジネスに目を奪われると、福祉や環境は置き去りにされるし、現にそうされてきたという事。
ましてや声を出せない人々の事など尚更。


と、ここまでBI先行の危うさを書いてきたので、では何があればBIは持続しうるのかの話。これ、日本ベーシックインカム学会での発表なので。
なお、BIは始めたのなら、やめてはならない。なぜなら、人々はBIありきで人生設計をするので。
日本は減反政策に代表されるように、容易に掌返しで人々の人生を狂わせる。最近の介護報酬の引き上げも、一旦国費でやりながら、途中から保険料に転嫁した。
BIが始まってから途中でやめられたら、そんな比ではない惨事になる。
で、どうすればBIは持続可能か、というと、、、JGP就業保証制度やケアニューディールなどで、労働者や生産者など、社会の足元、縁の下の力持ちを支えないとだめだよね、という話。
実物財を自給自足できてる経済圏では、インフレの影響を最小化できる。
BIは賃金含めた物価水準を安定化させ、格差縮小できれば持続可能だろう、という事。


とはいえ、JGPもBIも、まだ未実装で、かつ、人類史的に挑戦的な制度でもある。理想的かも知れないが、夢想的かもしれない。現実的な事はなんだろう。
何が言いたいかというと、、、やってみて何が起こるかなんて、誰もわからん。わかった気になっても、どうせ想定外のことは起こる。それならば、現にやってて、効用も弊害も分かってるやり方を、早く少しづつ改善していくほうが良いのでないか、という話。
ざっくり言えば、現にある現物や現金給付の制度、雇用制度を、刷新するのではなく、少しづつ拡張していこう。社会の変革より、メンテナンスを優先しよう。企業や法人の利益より、地域や個人の生活を優先しよう。そのために政府の通貨発行を用いよう。というのを、エッセンシャルワーク×MMT=ケアニューディールと言い表しています。
リベラルっぽく見えるかも知れませんが、実は保守的なんですね。
なにより、憲法にも矛盾しないんで、政治家に求めやすいでしょ?


凄くゆるい絵ですね。書いたのは誰かな?
俺です。
なんちゅうか、人間性が出てるよね。
発表用データの提出締め切りギリギリに付け足しました。
ここのノートに乗せるにあたり、ちゃんとしたのに書き変えようかと思うたが、そのままにしとこう。
絵で表したいことは、現状の格差社会にBI足しても格差は大して解消しないし、物価上昇したら相殺される恐れすらある、ということ。
なお、物価は需給より権力が差配する面が強い。国家の権力が武力なら、民間の権力は財力、お金なんですね。
BIで可処分所得増やして売上増えても、大企業が儲かってお金が集まって権力が集中すると、寡占や価格操作でのインフレすら起きかねない(コロナ禍の欧米のインフレ寄与度は企業の利潤が最大を占め、賃金や原材料の寄与は少ない)。そうすると、人々の暮らしはそんなに改善しないかも知れない。
であれば、同じ額を使うなら、社会保障の拡充から先行したほうが良いのではなかろうか?ということ。全部乗せも同時にできるならありだけど。



で、結局は、どんな政策を考えるにせよ、そうした考えの発する所の、個々の内面が何なのかだよな、と。
あんたの正体は何なんだ?ということが問われるし、それが愛なら、BI先行だろうがBS先行だろうが、多少混乱はあっても、軌道修正は望めるだろうし、正体が支配欲なら、政策で何を選択しようが、ディストピアを招くよね、という話。
で、話も聞けんやつに、愛なんかあるわけ無いだろ、と。
少なくとも、民主主義ではないよね。
嫁さんを使用人のようにこき使いながらソファで繰り広げる議論は、自分の子や孫をこき使う未来しか招かんよ、という話。
先ずは自分の心の声を、そして大事な人の声を、聞きませんか?という話。


「誰がそのシャツを縫うんだぃ」
この一言を受け止められるか、聞いてどうするのか、それに尽きる。


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