オモイノタケ
今日9月2日、「ラクガキキングダム」のサービス終了が告知されました。「ラクガキ」は僕の人生のゲームと言っても過言ではなく、思うところがありすぎてTwitterの文字数ではとても書ききれそうにないので、noteに記しておこうと思います。
僕は学生時代にPS2の「ラクガキ王国」をプレイし、このゲームの続編を作りたいという理由で開発会社のタイトーを志望しました。入社後は(すんなりではありませんでしたが)幸いにも希望していたラクガキ王国の開発チームである「ガラクタスタジオ」に配属され、プランナーとして続編の「ラクガキ王国2」の開発に参加しました。
「2」の後、ラクガキ王国シリーズは社内で何度か企画されたものの残念ながらプロジェクト化に至らず、途絶えてしまいます。主な理由は、一見盛り上がっているように見えるものの、実際にソフトを買ってラクガキを「描く」人はごく一部で、それを見て楽しむだけの人は購入しない、というクラフトゲームに潜在的にある問題をクリアすることができなかったからでした。
その後、ガラクタスタジオは「ロストマジック」などを制作した後に解散し、特殊なラクガキエンジンの仕組みを知る人もいなくなってしまいました。僕はタイトーを退職した後、スクウェア・エニックスに拾ってもらい、プロデューサーに転向しました。会社を移った後も、新ハードのリリースや、社内の企画コンペ等のチャンスがあるたびに「ラクガキ」の仕組みを使ったゲーム企画の立ち上げをトライをしましたが、前述の収益性の弱さを解消することができず、結局、在職中にプロジェクト化することはできませんでした(そのせいで、僕のHDDには『ラクガキ王国3』と名のつく企画書が50本以上たまっています)。
ラクガキキングダムの下里プロデューサーから連絡を受けたのは、2018年の初夏のことでした。
「ラクガキのシステムを使ったゲームを作りたいのだけど、過去リソースが散逸してサルベージできないので協力して欲しい」
見知らぬアドレスからそういう趣旨のメールを受け取ったとき、僕が最初に思ったのは「そんなの無理に決まってるじゃん」でした。もうタイトーにはあの頃のメンバーは残っていないし、そもそもゲーム業界で一番このタイトルを愛している(はず)の僕が、何度も何度もプロジェクト化しようとしてできなかった暴れ馬を、軽い気持ちで手懐けられるはずがない、と思いました。
しかし、実際にタイトーの会議室でお会いした下里さんの目は本気でした。軽い気持ちなんかではなく、覚悟が完了しているように見えました。下里さんは、業界的にも、プロデューサーとしても僕なんかよりずっと経験豊富なベテランです。その下里さんが、熱意をもって、ラクガキシステムの素晴らしさを語り、それをどうしていきたいかという構想を語ってくれました。僕はさっさと退散するつもりが、いつのまにか、彼の話に聞き入っていました。
あまり知られていないかもしれませんが、プロデューサーという職業の最も大切な仕事ともいえるのが「プロジェクトを立ち上げる」ことです。ゲームの完成が「100」だとしたら、プロデューサーが「0⇒1」でキックオフし、その後集まった開発チームが「1⇒100」と繋ぎ、そして運営もののタイトルの場合、開発から引き継いだ運営チームが楽しさを継続するための「100⇒100」を担当する、というイメージです(※例外はありますが)。
プロデューサーの仕事は、ともすると「お前、ゲーム作ってないじゃないかよ」と言われがちですが、「0⇒1」がなければ、どんな優秀なスタッフがいたとしても、そのタイトルは世の中に生まれ落ちることはありません。プロジェクト化されてはじめて予算が動かせるようになり、その予算で開発機材を揃え、ディレクターやプログラマーなどの開発陣を雇い、開発と並行して宣伝や運営の計画を立て…といった、ゲームプロジェクト全体の大枠を決めていく。プロデューサーは何も無いところから有を生み出す、そんな職種なのです。
会議室で熱く語ってくれた下里さんは、僕が何度もぶつかり、何度も失敗し、そして半ば諦めかけていた最難関の壁、ラクガキの「0⇒1」に、目の前で挑戦しようとしていました。僕は半分嫉妬し、でも、もう半分は全力で応援しようと心に決めました。
結局、僕が協力できたのは、ラクガキシステムの復活に関する部分だけでしたが、翌年2019年には「2」をベースとしたラクガキシステムがかなりの再現度で実機で動き、TGSでお披露目することが出来ました。そして、2021年1月に「ラクガキキングダム」は正式リリースを迎えます。
最初に下里さんから相談を受けた日も、今も、僕は「ラクガキシステム」で開発費をペイするビジネスモデルを組み立てるのは相当難易度の高いミッションだと思っています。でも、僕は、そんなことは100も承知で「0⇒1」に挑んだ下里さんを、心から尊敬しています。トライする人がいなければ、令和になって「ラクガキシステム」に光が当たることはありませんでした。たとえ今日の結果を知った上で過去に戻ったとしても、僕は下里さんに「やめたほうが良いですよ」とは決して言わないと思います。
改めて。
困難に挑戦してくれて、ありがとうございました。ラクガキシステムを愛してくれて、本当に、ありがとうございました。
そして、お疲れさまでした。また落ち着いたら、お酒でも飲みに行きましょうね。
僕は、初代のラクガキ王国をプレイして、2の制作に参加しました。下里さんはその2をプレイして、ラクガキキングダムを作ってくれました。だからきっと、今ラクガキキングダムを遊んでくれている誰かが、その続きにチャレンジしてくれるに違いない、と、楽観的に僕は思っています。
ラクガキキングダムは10年越しでシリーズの希望を繋いでくれました。「ラクガキシステム」に普遍的な楽しさがあるのなら(僕はそう信じてる)、きっとそれはまた再発見され、日の目を見ることができるはずです。5年後か、10年後か、次はどんなラクガキが楽しめるか、今から楽しみです。
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