「透明」


「透き通った海とか湖は綺麗だけど、透明度が高いと生産性は下がるんだって。それに澄んだ水は清浄だとは限らないんだよ。有害物質が含まれていても濁るとは限らないから」
 南の島で熱帯魚を見ていた時にえらく物騒な事を君が言った。どこでそんな情報を仕入れてくるのだろう。周りの人々は純粋に楽しんでいるのに君は何を考えているのだろうか。少し呆れた感じがするが、よくよく聞いてみると興味深い話であることも多い。期待半分で耳を傾ける。君はそんな事も構わず、じっと魚たちを見つめながら話を続ける。
「濁っているということは植物プランクトンがたくさん含まれていて、水産資源量も多いの。そうだよね、魚たちも食べるものが無かったら生きられないもん」
 だったら、今見ている海の生き物たちは何を食べているのだろうか。
「例えばメダカを飼っている水槽は緑で濁っていることがあるでしょう。プランクトンは魚たちの餌になるし、透明じゃないから天敵から隠れることも出来る」
 なるほど、自分の身を守る為にも良いのか。
「それが出来ないから。熱帯魚の中には毒を持つものもいるんだろうね。食べられないように。大海の食物連鎖の頂点は自分達ではないから」
 そして、君は水面から眼を離し僕の方を見つめてこう言った。
「見た目が綺麗じゃなくてもその隠された内側には限りない生命を抱いているのよ。水中を、本質を見ないとわからない事があるなんて神秘的じゃない?」

 そう言う君はとてもとても美しかった。その美しさには毒が含まれているかもわからないのに。

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