一時騒がれたキッズドアの「寄付節税スキーム」について解説
寄付による節税スキーム?
一時期、NPO法人キッズドアの食料品支援事業について、「寄付を活用して税制優遇を受けて、節税している」とネットで話題になりました。
税務会計が分かってる人からすると、「バカも休み休み言えよ笑」で済む話なのですが、寄付に関する税制について優遇があるとの記載が実際にあるせいで誤認する方がたくさんいました。
もう旬が過ぎて恐らく誰も話題にしていませんが、解説記事を書くと当時約束してしまったので、やむを得ず解説します。
節税って、つまりなんや?
そもそも節税とは何を指すのか、ということですがこのケースで言えば「法人税の削減」を指します。
ものすごくざっくりですが、法人税は要は年間の利益に対して払う税金です。個人でいう所得税です。
約30%ですので本記事では30%でお話します。
法人税の仕組み
法人税は(益金-損金)×実効税率です。皆様がよく勘違いされるのが、会計と税務は別という部分です。
法人は決算後に税務申告を行い、納税します。その時の税金の算出基礎となるのは決算書(損益計算書)の数字ではないのです。
なぜ違うのかというと、会計は「実際の資金等の出入り」のみを記録しているもので、税務は「税金の計算上、経費として認めるかどうか」という観点で計算されるからです。
よく経費で落とせるとか落とせないとか聞いたことがあると思いますが、これです。
例として、
会計:売上1,000万-経費600万=利益400万
税務:益金1,000万-損金300万=課税所得700万
というようなことになり得ます。
経費600万のうち、例えば仕事に関係ないキャバクラ代300万分を会社のお金で払っていると、税務の計算基礎では「それは本業に関係ないだろ?」ということで経費として認めてくれず納税対象額が増えてしまうのです。
これを「損金不算入」といいます。この話で重要な用語です。
この課税所得に対して30%税金を納めるので210万円がこの期の法人税額ということです。利益の30%ではないのです。
なので決算書上では税引前当期純利益300万円、税引後90万円という、利益のほとんどを税金で取られたように見える決算書が出来上がります笑
今回のキーワード税制優遇とは?
税制優遇という言葉が誤解を招くと書きましたが、表現としては正しいのです。なぜなら、「寄付は本来は本業と関係ないから損金不算入」だからです。
乱暴に言えば税務上はキャバクラ代と同じです。これを認めると会社のお金を社長や愛人に寄付とかやりたい放題になるからです。
そのような前提がある中で認定NPO等に寄付する場合、一定金額は損金算入してもよいというルールがあります。場合によっては全額が認められるケースもあるのです。だから税制優遇なのです。
寄付したら法人税が減るのなら、節税じゃないか!と言う人もいるでしょう。ホントにぃ?笑
確かに税金は減ってます。でもそれって課税所得の30%だけですよ?寄付しない方が手許に残る資産が断然多いんですけどぉ?笑 それは単なる実損です。節税とは言いません。
不良在庫を寄付したら在庫処分ができて節税?
現金寄付は先述の通り、節税とは言えないものです。ネットで話題になったのは「提供企業が不良在庫をキッズドアに寄付して節税している!」という説でした。
冗談だろ。会計処理をもとに、わからず屋に解説して差し上げましょう。
企業の在庫は製造原価で決算書に計上され、それに利益を乗せて販売すると利益部分が税務上の益金になります。製造原価はざっくり材料代+人件費等の経費です。
チョコを100万円分作るにあたり、材料60万+人件費40万といった具合です。これを120万円で売れば20万円の益金が発生するという仕組み。
節税論者の主張は、このチョコが賞味期限間近で売り物にならないのにキッズドアに寄付して損金算入して法人税を減らしてる、とのこと。
あのね、不良在庫を正当に廃棄すると全額損金算入できるんですよ。寄付だと下手したら全額は認められないことがあるの。どこが節税やねん、むしろ法人税増える可能性あるんだが。
これ言うと「利益を乗せた定価で寄付すれば損金算入額も増えるだろ!」とほざく勢力もいました。ええ、そうですね。益金も同額増えますけど?笑
各パターンを数字で解説してあげますね。
①製造原価で廃棄したケース
チョコ100万円→在庫0 △100万円の赤字
②製造原価で寄付したケース
チョコ100万円→在庫0 △100万円
③利益を乗せて寄付したケース
チョコ100万円→在庫0 利益20万と寄付損△120万円
こんな感じになるんすわ。簿記がわからない人もいるでしょうけど仕訳を書くと、
【原価で廃棄&寄付】
損失100 / 在庫100
【利益を乗せて処理】
損失120 / 在庫100
利益20
ね、こうしないと貸借合わないんだよ。だってB/Sでは製造原価で計上されるんだから。
簡単な仕訳のルール説明すると左右の合計が一致しないといけないのね。ほんで損失発生は左、資産(在庫)の減少は右、利益の計上も右ってルールがあるんだよ。ピッタリ合うだろ?
廃棄より寄付の方がコストが安い?
これはそうかもね。廃棄すると運搬費+産廃処理コストかかるから、寄付で運搬費だけの方がコストは安いね。
でもさ、捨てるより貧しい人が食べる方が社会的意義あるでしょ?捨てたら産廃業者が儲かるだけだよ。
コスト(経費)が安くなれば提供企業の納税額は増えるだけなんだが?もう一度言うよ、どこが節税やねん笑
こんな基礎的な会計も税務も分からずに節税だと?笑わせないでください。そんな簡単に節税できるなら、日本中の製造業や卸売業なんかは寄付しまくるだろ笑
他の方法で節税する方法はなくはないけど本題から逸れるし事情があって言えないので割愛します。
しかもですよ。今回の話で言えば節税の主体はキッズドアでなく、提供企業ということになります。H食品とかの上場企業等です。
あのさ、騒いでる人の大半は上場企業で働いたことないのだろうけど、周りのエリートに聞いてみ?上場企業は節税なんかしないんだよ。たくさん利益を出して配当出して株価を上げて、株主に還元するのが使命なの。
外資とかのモノ言う株主になんて説明するの?節税の為に大切な在庫を寄付してます、って?
良い大人なんだからさ、もっと常識を身につけよ?陰謀論もいいとこだわ。普通に恥ずかしいぜ。
これって税務会計知らなくても、上場企業の仕組みやガバナンス体制だけでも知ってればわかる話だよ。
ネットで何者か分からない人達の意見に踊らされて騒ぐなんてどうかしてるよ。
上場企業舐めんなよ、そう簡単に上場なんてできねーし、維持するためには変なこと一つできないんだわ。
はいはい、解散解散。
こんなバカ話を解説して不憫だなと思った方は投げ銭お願いします!!深夜に1時間半かけてスマホで書いたので、深夜手当込みで10,000円頂かないと割に合わないです。
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