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13年前の架空クイズ番組「世の中こんなにいい加減だった!」

ひょんなことから、月刊『本』 2009年11月号に掲載したこんな文章を見つけたので、時間つぶしによいかと思い、ご紹介。


 テレビをつければ毎日エコだのCO2だのの大合唱。おまけに画面の右上にはだいぶ前から「アナログ」なんて目障りな文字が出たまんま消えないし、一体どうなってんだ、この国は! とご立腹の皆様、こんばんは。
 世の中がいい加減だったり不真面目だったりインチキだったりするのは、何も今に始まったことではございません。コンビニで買ってきた100円ビール……あ、正確には「第3のビール」でも飲んで一息入れましょう。
 クイズ「世の中こんなにいい加減だった!」の時間です。
 おバカなルールが生み出すいい加減な世の中を、クイズに答えながら笑い飛ばしましょう。
 今日の解答者は、足立区からお越しの島岡次郎さんです。島岡さん、こんばんは。

「はいよ、こんばんは」

 島岡さんは左官業を営んでおられるそうです。頭のバンダナがお洒落ですね。

「手ぬぐいってんだよ、これは。現場終わってそのまんま来たもんでね」

 そうですか。商売ご繁昌のようでなによりです。では島岡さんへの第1問です。

■第1問・昭和22年以降に生まれた「島 岡次郎」という名前の人は2009年現在存在するか?

島岡次郎さんは昭和22年生まれの62歳だそうですが、では、現在の日本に、昭和22年以降の昭和時代に生まれた「島 岡次郎」という人はひとりもいない。○か×か。


「あ~、ちょっとちょっと。その問題、おかしくね? 現実に俺、島岡次郎はここにいるわけでね。島岡次郎。昭和22年4月1日生まれ……」

 いえ。島岡・次郎さんではなく、島・岡次郎おかじろうさんです。姓が島で、名前が岡次郎。岡山県の岡にジョン万次郎の次郎です。

「島・岡次郎? わざわざ俺の名前にかこつけた問題を作ってくれたってわけか。ご苦労さんだね。だけどまあ、こりゃ簡単だよ。なんとかはあるかないかってクイズの答えは、大体『ある』なんだよ。なぜかってえと、『ある』ってえのは実例を示して証明できるけど、『ない』ってことを完全に証明することは大変だからな。後でよく調べたら出てきたとか、そういうことがあるからよぉ。だから、この問題は×だね」

 ファイナルアンサ~?

「うわぁ、それ言うのかよ? 照れるね。はい、はい、ファイナルアンサー」

♪ぶ~~~! がちょ~ん
 残念! 答えは○。島 岡次郎さんという人は昭和22年以降の昭和生まれの人にはひとりもいません。

「え? なんで? 日本全国虱潰しに調べたんか?」

 いえ、調べていません。でも、いないんです。なぜなら、戦後すぐの1946年(昭和21年)に当用漢字が制定されて以降、当用漢字にない字は名前に使えなくなりました。それでは不自由だということで、人名用漢字というものが何度かに分けて制定されましたが、「岡」という字が人名用漢字に収録されたのは、5年前の2004年9月のことです。ですから、1946年12月から2004年8月までに生まれた人の中に、「岡」という字を使った名前の人は一人もいないはずなんです。岡次郎さんだけじゃなくて、岡太郎さんも岡子さんもいません。

「え? 『岡』なんて、誰でも読める漢字じゃねえかよ」

 はい。ですが「岡」は当用漢字の後を受けた常用漢字にも入っていません。その代わり、遵・殉・恭・璽・匁・虞・朕・謁・彰・顕……といった漢字は常用漢字なんです。島岡さんは「璽」って読めますか?

「読めねえよ。それ漢字なのか?」

 では第2問です。

■第2問・衆院小選挙区で、最下位候補が復活当選することはありえるか?

衆議院議員選挙において、ある小選挙区で、当選者A候補は9万7000票を取りました。次点のB候補が6万5000票で惜敗率67%、最下位のC候補が3万3000票で惜敗率34%だったとします。惜敗率というのは、当選者の得票数に対して何%の票を得ていたかという数値です。次点のB候補は比例区で重複立候補していて、名簿登載順位は1位。最下位のC候補も比例区で重複立候補していて、名簿登載順位は3位でした。さてこのとき、次点落選のB候補が復活できずに落選、最下位で、惜敗率もB候補の半分しかないC候補が復活当選して見事国会議員になるということはありえる。○か×か。


「結局『璽』の読みはスルーかよ。まあ、そんな字、一生読むこたあねえだろうがな。で、なんだって? 今の問題。ややこしいな。Bは惜敗率67%で比例区名簿登載1位、Cは惜敗率34%で名簿登載3位なのね? で、Bが落ちてCが復活当選することはあるかと……。あっちゃあおかしいだろ、そんなもん」

 ということは×ですね? ファイナルアンサ~?

「また来たよ。はいよ。×だね。ファイナルアンサー」

♪ぶ~~~! がちょ~ん

「え? またはずれ? しかしダセえ効果音だな、がちょ~んって」

 残念。これは2003年の衆院選のとき、大阪13区で実際にあったことです。公職選挙法って面白いですね。では次です。

■第3問・山手線の軌道幅はワゴンRのトレッドより狭い? 広い?

電車のレールとレールの間の長さを軌道幅といいます。自動車のタイヤとタイヤの間の長さはトレッドといいます。そこで問題です。山手線の軌道幅は、軽自動車・ワゴンRのトレッドよりも狭い。○か×か。


「軽自動車? ああ、うちの車も軽トラとワゴンRだよ。金ねえからなあ。軽自動車こそ究極のエコカーだよ。な~にがハイブリッドだよ。あんな200万もする車、庶民は買えねえよ。大体、日曜にしか運転しねえようなやつがエコカー乗ってますって威張りくさって、笑わせるなっての。俺みてえに、仕事で毎日乗らなきゃなんねえ人間は軽なの。田舎もそうだよ。軽自動車こそ、日本を支えてきた究極のエコカーだっつ~の」

 ファイナルアンサー?

「馬鹿か。まだ答えてねえよ。えーっと、あんたら知らんだろうがね、今の軽は広いよ。昔の軽とは違うからね。広々快適空間ってやつよ。でもよ、座席が2つ並んでいるだけだからな。電車とは比較にならんわな。そりゃまあ、山手線のレール幅のほうが広いだろ。だから……×か」

 ファイナルアンサー?

「はいはい。ファイナルアンサーだよ。今度こそピンポ~ンだろ?」

♪ぶ~~~! がちょ~ん

「嘘だろ~。軽自動車のトレッドのほうが山手線の軌道幅より広いってか?」

 そうなんです。山手線のレールとレールの間は1067ミリ。1メートル6センチ7ミリです。一方、軽自動車のワゴンRのトレッド、タイヤとタイヤの間は前輪で1295ミリあります。1067ミリより狭いトレッドの軽自動車は現在生産されていません。
 というわけで、残念ながら島岡さんの成績は3問全問不正解。残念賞として、講談社より、現代新書の新刊『日本のルールは間違いだらけ』を差し上げます。
 福知山線事故は大隈重信の責任か? 世にも怪奇な物語「やまいちおんなの幽霊」とは何か? 「自公政権は本当なら2003年に終わっていた」というのはどういうことか? トルコ共和国からの留学生ヌスレット・サンジャクリさんの主張が日本の歴史を変えたドラマとは何か? 実に面白そうな話が満載です。本日のクイズの解説も、この本を読むと、さらによ~っく分かります。

「おいおいおいおい。これって、もしかしてその本の……」

♪ぴんぽ~ん!



2009年10月に発売されたが、まったく売れなかった。
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こんなご時世ですが、残りの人生、やれる限り何か意味のあることを残したいと思って執筆・創作活動を続けています。応援していただければこの上ない喜びです。