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朝廷の弱体化の下で暴力団国家となっていく日本

イシコフ:  さて、ここからは長い長い覇権争いの時代に入っていくわけだけれど、私としてはこの時代のことをくどくどと掘り返すつもりはないんだよね。教科書では荘園とか墾田永年私財法とか院政とか租庸調そようちょうとか、いろいろ覚えさせられたけれど、要するに朝廷が弱体化して、国のあちこちに暴力団みたいなものができていくという時代だね。
 具体的には乙巳の変あたりから江戸幕府がスタートするまで。7世紀から17世紀あたりのおよそ1000年間かな。
 この1000年って、要するに領土と覇権をめぐる暴力団同士の抗争をやっていて、一般民衆はその犠牲になっていたという時代でしょ。

凡太: 「暴力団時代」ですか?

イシ: そう。暴力団の組長が縄張りを支配して庶民から食料や資材を巻き上げ、暴力団同士はしょっちゅう小競り合いを繰り返すうちに強大化し、武力抗争がエスカレートしていくという流れ。
 教科書では、都があった場所や、暴力団の本拠地の推移で「○○時代」なんて分けているわけだけど、本質は大して変わらない。

↑この赤で囲んだあたりが「暴力団抗争時代」

凡太: ずいぶんザックリとくくりましたね。

イシ: ザックリしすぎかな? じゃあ、もう少しだけていねいに見ていこうか。

 まず、天智天皇の時代の後、しばらくは大和朝廷の下に一応「律令」なる法体系をしいて、天皇を頂点とする中央集権政治が行われた。
 これは中国の唐王朝のシステムを真似たとされているけれど、要するにニニギ系天孫族が大陸にいたときから使っていた支配システムなんだろうね。土地の私有権は認めず、土地も人民もすべて天皇の支配下にある、という専制政治。
 「公地公民」なんていうフワッとした言葉が使われているけれど、要するに民草たみぐさの権利は一切認めないという圧政だね。
 一般庶民は天皇の土地の一部を借りて農業をして、租庸調という税を納める。米を中心とした農産物、工事や建築などの労働、雑穀や布といった形で労働の成果を吸い取られる。これは現代と同じだな。
 しかし、これがあまりにもキツすぎて、庶民は貸し与えられた農地を捨てて逃げ出した。逃げ出した先は力のある地方在住の貴族や豪族、そして大きな寺。彼らは集まってきた庶民を小作人として雇って、どんどん富を蓄積していく。
 それが進み、朝廷による完全な支配が崩れてきて、朝廷は仕方なく、自力で開墾した耕作地は私有物として認めるということにした。これが学校で必ず習う「墾田永年私財法」というやつだね。
 大寺院は朝廷から税を免除されていたから、地方貴族や豪族は、それは不公平だと訴え、納税免除を勝ち取る。こうしてできたのが「荘園」だな。
 そうなるともう歯止めが効かない。
 朝廷は直轄の正規軍を維持できなくなり、ますます弱体化していった。荘園をどんどん増やしていった貴族や大寺院は朝廷に対しても圧力をかけられるほどの力を蓄えていった。具体的には藤原氏、延暦寺、興福寺……。

凡太: 仏教の受け入れというのが、ここにきて裏目に出てきたんですね。

イシ: そうとも言えるのかな。宗教集団が国を動かす裏の勢力になるというのは現代でもまったく同じだな。

凡太: お釈迦様もそんなことは望んでいなかったでしょうに……。

「下請け」が力をつけて成り上がる時代

イシ:  朝廷がどんどん弱体化すると、いろんなことを下請けに出すようになる。
 国の正規軍が維持できなくなると、東北と九州の軍以外の朝廷正規軍をなくして、地方の有力者に官位を与える代わりに志願兵を募らせた。
 税の取り立てなんかも、直接の配下だった国司の下に、下請け、孫請けみたいな人たちを作ってやらせるようになる。この下請けが受領ずりょう、孫請けが田堵たどという下級役人で、暴力団の取り立て屋みたいなものだね。ドラマでもこの階層の連中はやりたい放題の悪さをするだろ。まあ、そういう感じになっていたんだろうねえ。
 そういう下請け・孫請けから成り上がっていった連中が各地に武士団を形成していくわけだ。
 まさに暴力団時代だろ?

凡太: その武士団の大親分が平清盛ですか?

イシ: まあ、そんなところだね。
 清盛は各地の受領を平家の人間で固めていく。暴力団連合の大親分になったわけだ。

 さて、この時代について、現代に生きる私たちが学ぶことというのはなんだろうね。

凡太: 盛者必衰、おごれる物は必ず滅びる……みたいなことですか?

イシ: いやいや、甘い甘い。
 平家の滅亡なんてのは、平たいら組が源みなもと組との抗争に敗れたというだけの、ドンパチ劇にすぎない。
 平家が滅びようが藤原氏が失墜しようが、庶民にとってはどうでもいいことだったんじゃないのかい?
 暴力や金力で庶民を支配して、庶民の労働で得られる富を吸い上げていくシステムというのは何も変わってない
 富を得た者が賄賂を使って税を免除してもらったり、利権を拡大していくという構図も、現代とまったく同じだよね。
 そういう弱肉強食的社会システムが常態化する中で、庶民もまた、権力には逆らわない事なかれ主義、寄らば大樹の陰、難しいことは考えてもしょうがない、自分が許されている範囲内で楽をしよう、無事でいようという根性がしっかり根づいてしまう。
 庶民の精神世界に目を向ければ、出雲の敗北のときに奪われた自然との共生という世界観はますます薄れていき、征服民が強制する画一的な教育や格差社会をあたりまえのこととして受け入れてしまう奴隷根性のようなものが、さらにしっかり定着していった1000年だとも言えるんじゃないかな。

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