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私が使っている音楽制作関連ソフト  ◆幸せビンボー術(23)

私にとっていちばんキャリアの長い仕事は音楽です。プロとしての活動は大学生時代に東京キッドブラザースという劇団のミュージカルに作曲者として参加してからですから45年以上になります。
自分の曲を録音し始めたのは中学生のとき、まだテープレコーダーが一般家庭にはなかった時代に、オープンリールデッキとカセットデッキを並べてピンポン録音で一人多重奏をしていました。その頃からのキャリアですから、50年以上になります。
かつて苦労していた作業のすべてが今はパソコンでできるようになりました。
この分野はどうしても話が長くなりそうなので、できるだけ「簡潔」を心がけて、私が今使っているソフトの紹介をしてみます。
かなり専門的な内容も含まれているので、後半部分はなんのことだか分からないというかたもいらっしゃるはずですが、適当に読み飛ばしてください。
音楽を聴いて楽しむ人すべてに関係する「音楽を再生するハード環境」については次の章に譲ります。

■譜面作成ソフト

MuseScore

 譜面をきれいに作成するためのソフトとしては、MuseScore一択でしょう。他の有料ソフトなどよりはるかに高機能かつ使いやすいソフトです。
 歳を取ってからはメロディがうかばなかったり、浮かんでもすぐに忘れてしまうようになったので、最近はこのMuseScoreを立ち上げた状態でシコシコと作曲することも増えました。
 最新バージョンでは、コードネームを入れただけでそのコードを鳴らしてくれたりもします。

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↑ MuseScoreの画面。非常に多機能な上に動作がしっかりしている。譜面の仕上がりデザインもいろいろ指定できる。世界中の音楽家が集まって改良を続けているソフトで、市販ソフトでも今やこの無料ソフトにかなうものはない。

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↑ MuseScoreでメロディとコードを確認中。
⇒ 公式サイトからダウンロード

■音声ファイルの編集

Audacity

 音楽を再生するだけでなく、編集するためのソフトです。高額な有料ソフトでもできないような編集・加工が細かくでき、それでいて無料ソフトなのですから驚きます。

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↑Audacityの画面。  ⇒窓の杜からダウンロード

 私は音楽制作はMacのLogicで行っていますが、Logicではできない、あるいは機能はあってもAudacityのほうがずっと性能がいい加工ができる場合があります。
 例えばラップっぽいフレーズを、音程を変えずにテンポだけ変える、逆にテンポは変えずに音程を変えるという加工は、LogicでやるよりAudacityでやったほうがはるかにやりやすく、結果も良好です。
 以下の動画は、ジョイマン高木氏のテンポが一定していないので、合わせるのにものすごく苦労しました。音声データだけを分離して、Audacityで微妙にテンポを変えてから映像に戻しています(そのため、よ~く見ると口の動きとずれている部分があります)。「ヒーハー」「イェ~イ」的な掛け声は、Logic付属のフリー素材をAudacityで加工してテンポを合わせてから貼り込みました。こうした細かい編集作業に、Audacityは威力を発揮します。

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SoundEngine

 音声編集ではこれも古くからある定番ソフトです。無料版で十分な機能が使えますが、特に助かっているのはノーマライズ(音声データ全体を歪まない限界レベルまで上げる or 下げる機能)を超えて、聞こえにくい音を持ち上げて全体のレベルも上げる「オートマキシマイズ」という機能。コンプレッサー&リミッター機能をさらに賢くしたような機能ですが、通常のテレビ放送での音声なども、ほとんどこの機能を使って音量を上げています。

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↑ SoundEngineの画面。オートマキシマイズ機能は毎回最後に必ず使って音楽作品全体の音量バランスを変えている。
⇒窓の杜からダウンロード

■音楽を演奏・録音する環境を作る

 音楽制作の統合ソフトのことをDTM(デスクトップミュージック)ソフトとかDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)などと呼びます。
 プロの録音スタジオがデジタル録音に切り替わった初期から、ProToolsというソフトが業界標準のようになりましたが、個人が自分の作業場(ホームスタジオなど)で使うソフトとしては高価な上に使いづらい面があり、いい選択とはいえません。
 今はWindows派はCubase、Mac派はLogic Proが多いのではないかと思います。
 私はWindows95の時代からCubaseを試みましたが、あまりにも重く、不安定かつ難解で、何度も断念しました。

LogicPro

 今はMacでLogicPro(以下Logic)を使っています。Logicを使うためだけにMacを購入したといっていいでしょう。今も私のMacはLogic専用機です。

 MacOSには最初からGarageband(ガレージバンド)という無料のDAWがついているのですが、私はMac購入と同時にLogicを買いましたので、Garagebandは使っていません。というか、Logicに慣れているので、簡易版ともいえるGaragebandのほうが扱いにくいのです。

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↑ LogicProの画面

 Logicが他のDAWよりも優れている点は、まず価格の安さです。日本での価格は24000円ですが、ライバルのCubaseが5万円台であることを考えると安いでしょう。
 次に、最初から豊富な音源やエフェクトプラグインがついていることです。Logicについていない種類の音源を探すほうが難しいくらいで、そのクオリティも単体で販売されている各種音源に勝るとも劣りません。
 DAW単体で考えるともっと安いものもありますが、アドオンソフト(後から付け加える機能)が有償だったりもするので、最初からなんでもかんでもついているLogicを2万円台で購入してしまうほうが悩まずに済みますし、安上がりだと思います。特にエフェクト関連はよくできていて、Logicに付属していないエフェクトプラグインがほしいと思ったことはありません。
 使い込んでいくうちに、どうしてももう少しクオリティの高い音源がほしいと感じたら、そのとき改めて考えればいいので、まずはLogicだけで使い倒してみることです。

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↑ Logicに付属している音源だけで作った作品。生のヴォーカル以外、和太鼓や琴、スラップベース、ピアノなど、すべてLogicに付属している音源を使用。ラップ部分の背景で唸っている黒人(多分)の合いの手もLogicに付属しているサンプリング音源をAudacityで編集したもの。動画への編集はWindowsのPowerDirectorを使用。

■音源ソフト

 人間が楽器を演奏するのではなく、音源ソフトをMIDIという規格で記録・再生させる音楽制作を「打ち込み」などといいます。

 カラオケ屋さんにあるカラオケマシンは、すべての伴奏データがMIDIの打ち込みで作られています。流れてくる演奏は人間が演奏しているのではなく、コンピュータが内蔵しているMIDI音源を鳴らしているわけで、一種のオルゴールのようなものです。現代ではポップス系のレコーディング現場でも、本物のベーシスト、ドラマー、ストリングス奏者などが起用されることのほうが稀で、多くはMIDI音源の打ち込みで済ませてしまっています。

 「もっといい音源はないか」というのは、打ち込みをやっている者なら常に抱く欲求で、私も過去、様々な音源を購入しては使ってきました。しかし、現在、Logicに付属していない音源で使うのはEWI USBに付属している古いAria音源、同じくEWIで演奏するためのCello音源、Trilianというベース専用音源くらいで、他の音源はかなり高額なものも含めて、敢えて使うことはありません。Logicの付属音源より勝っていると感じないからです。

EWI USB付属のAria音源

 EWI USBというのはAKAIのウィンドシンセサイザー(息を吹き込む吹奏楽器タイプのシンセサイザー)で、コンピュータにつないで外部音源を鳴らす楽器ですが、それに付属してくる音源がこれです。クラシックハープ奏者のGary Garritan氏が設立したGuritan社が開発した音源で、弦楽器、管楽器など、EWI用の音源がセットになっています。
 作られたのはかなり古いのですが、最初からEWI用に作られているだけあって、ウィンドシンセサイザーとの相性は抜群。本物の楽器に比べるとどうしてもシンセサイザー的な音には聞こえますが、もっとリアルなサンプリング音源を使うよりも細かな表現力を発揮します。
 私はこの音源セットのViolin(TH)が気に入っており、デジタルワビサビシリーズのアルバムではほとんどこれがメインになっています。
 古い音源なので32bit版しかなく、最近、MacOSをCatalinaにバージョンアップしたときに使えなくなって焦りましたが、ネット上を探し回った結果、64bitバージョンが公開されていてホッとしました。
 私は、演奏はEWI USBではなく、音域が広く、キーも押さえやすいEWI5000で行っています。私のEWI5000は、もはや内蔵音源を使うことはなく、もっぱら外部音源の入力用になっています。

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↑ EWI用のAria音源、設定画面

Trilian

 アコースティックベースのリアルな音が欲しくて購入しました。ベース専用の音源で価格が3万円前後という、極めて高価な音源ですが、思いきって購入してよかったと思っています。

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↑ 冒頭のベースソロは、Trilianを購入して最初に使ってみたときのもの。スライド奏法などはLogic上で細かく指定して編集している。間奏で出てくるエレクトリックヴァイオリンはEWIでAria音源のViolin(TH)を使用し、アナログ音声として録音。パーカッションはLogic付属のラテン系音源と、本物のミニジャンベを私自身が叩いているもの(マイクで生音を録音)をミックス。

Swam Cello

 ほとんどの打ち込み用音源はキーボードからの入力を前提にしているため、EWIのようなウィンドシンセサイザーで使うと頭の音がうまく出なかったり、表現がぎくしゃくしたり、大量のMIDIデータが糞詰まり状態を起こしたりします。しかし、SWAMというエンジンは、設計段階からキーボード用とウィンドシンセサイザー用を分けていて、特に設定をいじらずともEWIにうまく馴染んでくれます。
 私はCelloとViolaを購入しましたが、Violaはなんだかチャルメラ風の音で使う気がしませんでした。Celloはときどき使っていますが、Aria音源のような細やかな表現はできないので、いつも悩みながら使っています。

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↑ SWAM Celloの設定画面。

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↑ SWAM Celloを間奏に使った作品。入力はEWI5000を使っている。

AU音源入力・再生ソフト

 さて、打ち込みによる音楽制作では、MIDI音源をMIDI信号としてDAWに打ち込んでいくわけですが、私は擦弦楽器や管楽器系はすべてEWIで演奏した音をリアルタイムでアナログ音声として入力しています。そのほうがMIDIとして処理するよりずっと演奏者の息づかいが生で記録できるし、録音作業もサクサク進むからです(実際には何度も演奏し直すので、ものすごく時間がかかりますが)。
 そのためには、Logicとは別の、音源再生ソフトを同時に立ち上げておき、Logicにつないだオーディオインターフェイスとは別のオーディオインターフェイスを通して出したアナログ音声信号をLogicの音声トラックに生録音していくという方法を採る必要があります。
 LogicはDAWとしては軽いほうだと思いますが、それでもコンピュータに相当大変な負荷をかけているわけで、音源を再生するだけのソフトは極力軽いものにしたいわけです。いろいろ捜した末に見つけたのがAudio Unit Hostingという、Macでは珍しく個人が作成したフリーソフトです。
 Audio Unit(AU)というのは、MacOS独自の音源規格で、AU規格の音源でないとLogicでは扱えません。これに対して、Windowsで使う場合はほとんどがVST (Steinberg's Virtual Studio Technology)というスタインバーグ社が提唱した規格です。このため、ほとんどの音源ソフトはVSTとAUの両方の規格を用意しています。
 Audio Unit HostingはこのAU音源を再生するためだけのコンパクトなソフトです。私はSWAM CelloをEWIで演奏するときは、このソフトを使って、Creative Sound Blaster Play! 3 USB という安いオーディオインターフェイスを通してアナログ出力させた音を、別のオーディオインターフェイス(現在はFocusriteのSaffire PRO24)につないだLogicで録音しています。

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↑ Audio Unit Hosting にSWAM Celloを読み込んでSound Blaster Play! 3で再生させるための設定画面。

 後半はかなりマニアックな話になっていて、現在、DTMをやっている人以外にはほとんどちんぷんかんぷんの内容だったかもしれません。
 一般のオーディオ趣味に関わる、スマホやコンピュータで音楽を贅沢に再生して楽しむ環境構築については、次の項でまとめてみますので、嫌にならずに引き続きおつきあいください。

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↑ ミニマムなオーディオインターフェイスとしてお勧めのSound Blaster Play! 3。Amazonで購入で1782円前後。

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Vocal版『アンガジェ』のリミックスシングル!
iTunesストアのリンクは⇒こちら

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原発が爆発する前の2010年 阿武隈山中のスタジオにこもって制作した自選ベスト曲アルバム
20代のときの幻のデビュー曲から阿武隈時代に書いた曲まで、全13曲
iPhone、iPadのかたはiTunesストアから、アマゾンmoraでも試聴可能

こんなご時世ですが、残りの人生、やれる限り何か意味のあることを残したいと思って執筆・創作活動を続けています。応援していただければこの上ない喜びです。