小説#1「白銀の世界」747字(5分以内)

テレビの画面に事件のニュースが映し出された。

私は、なぜか、被害者に対し「ざまぁ見ろ」と思ってしまった。「死んでしまえ」とも、「どうせお前が悪いんだろう」とも思った。事件の詳細も何も知らないままに。

私は大変正義感の強い人間であった。悪を懲らしめるために、磨き上げてきた、触れただけで内臓まで抉るような、鋭利なガラス槍が私に突き刺さる。

その創傷から黒い罪悪感がぐぢゅぐぢゅと、とどまることなく溢れ出した。

私は、たちまち黒い罪の意識に呑まれていった。先ずは全身を、まるで、煮詰め焦がした砂糖のように苦く、ドロドロ呻いた罪悪感が私を包む。それはみるみると地面に広がり、部屋の窓を飛び出し、道路を、ビルを、畑や海まで真黒に染めていく。やがてそれは空をも飲み込み、地球全てを黒く染め上げた。

どこまでも黒い地平線を眺めながら、その世界に対してもまた、罪悪感を覚えた。世界を何かいけないものにしてしまったのだ。

私は、その窮屈を直ぐに抜け出す必要があった。そこで、真直ぐに伸びた真黒な地平線の真上に、真白な球体を創り上げた。今となっては、視界の大半を埋め尽くす大きさにまで成長した球体だ。それは欠点の一つもないもので、自然界に不自然に存在していた。

私は、その球体の中心に目一杯ダイナマイトを埋め込んだ。そして点火させると...。その球体は凄まじい威力と、美しい叫び声を上げながら粉々に砕け、その破片がまるで輝く雪のように、辺りを覆い尽くしていく。黒く染まった砂漠や海が、真白に染まっていき、光を反射させながら、どこまでも煌めいている。息も忘れた間に、地球は白く染め上がった。その景色は、どこまでも清く、どこか幼く、純粋で、悪ふざけもしないようだった。

私は、あまりに美しいその世界を見たので、安心して眠りについた。

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