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暗い海の美女と円形脱毛症

あくる日の朝、私は真っ暗な海の底で目を覚ました。
ぼやけた視界であたりを見渡すとゆらゆらと動く光が見える。
よく目をこらすと、それは深海魚だった。
醜い造形をしたそれを幻想的な光が美しいものであるかのように振舞っている。
ふと、海の底にも社交辞令のようなものがあるのだろうかと思った。
もちろん、りんごは赤い。
しかし、人魚が本当に存在するのだとしたら、きっと暗い目をした陰鬱な存在に違いない。
鱗は剥がれ落ち、海水で傷んだ髪をかき回している。
彼女の後頭部には、暗い海の底でもはっきりとわかるほどの円形の脱毛部がある。
海水にやられただけかもしれないし、あるいは漠然とした不安に悩まされているがゆえのものかもしれない。
どちらにしろ、彼女の後頭部は直径3センチほど禿頭の穴が無数にある。
それは醜いのだろうか。
私の美意識では美しいとは思えない。
美女の醜い姿を見ることほど、心が傷むことはない。
しかし、紛れもなく赤ワインは白ワインよりも赤い。
赤ワインより白ワインが赤いと言う者がいるのならば、そっと距離を置くべきである。
なぜなら、そいつは狂っているからである。
時差ボケした時計の針のように、一生正しい時を刻むことはない。
ただただ、自信に満ちた表情で、あたかも正しいことを言っているように間違った情報を垂れ流す。
誤謬に塗り固められた汚いそれすら、暗い海流が洗い流す。
私は間違っているのだろうか。
それとも私も含めた、世界の全てが間違っているのだろうか。
どちらにせよ、正しいことなど一つとしてありはしないのだ。
なぜなら、世界とは過ちと誤りの上に成り立つ黒い影のようなものだから。

#ポエム #詩

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