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頼れない人の食卓

母の手料理は薄い味付けの傾向があった。
母は医療関係者で、栄養バランスや味付けに常に気を使っていた。もちろん、母個人の好みもあったり、おかずは毎日変える、主菜副菜も用意するといった昭和的なこだわりが残っていたりするところもあった。
料理の腕自体は恐らく普通だが、逆に言えば毎日でも安心して食べられる、そんな味だった。
自分も社会人になってからようやく台所に立って手伝うようになったが、それまで偏食の多い自分や兄弟たちのわがままにつきあわされ、苦労をかけてしまった。

方や父は濃い味付けが大好きで、しょうゆやソースの大量遣いは当たり前、漬物はご飯に汁までかけるといったこともあり、「高血圧になるよ!」としょっちゅう母が咎めていた。
そういった味覚なので、稀に料理を作らせても異常に濃い、または脂っこいものが出てくる。また手順も守らず食材の品質も気にしないことが多かった。要はメシマズだったので、当然料理は父以外の人員がやる。

料理だけではない。父は基本家事には消極的で、よほど頼み込んだもの以外はやらない。それどころか、いわゆる「食いつくし」の傾向もある。母に注意されてある程度矯正はされたが、食卓に出ている料理は誰が何を用意しようが構わず食べてしまうこともあった。

数年前のことだ。たまたま匙加減を失敗し、極度に薄味の料理ができてしまった。
ちょっと失敗したねぇと料理した二人で話していたところ、そこに同席していた父は何も言わずに台所に行き、口もつけてないおかずに大量の醤油をぶちまけた。
二人で気分が悪くなり、「せめて味を見てからやってくれ」と抗議したところ
父は逆切れし、「お前(母)の飯は全部まずいんだ!」と怒鳴った。
自分と兄弟はあっけにとられた。
流石に母も怒り、「じゃあ食べないでいい!二度と食うな!」と父からおかずを取り上げた。

父の行為がDVにあたると自分が知ったのは、ここ最近の事だ。

父だけではなく自分、兄弟、そして母自身も、そういった加害行為に対し鈍かった。

似たものの同士が引き合うのか、母の友達も全員ではないが、どこかおかしい人がいた。夫や子に明らかに仕事や介護を押し付けられており、LINEの画面はほとんどその人の愚痴で埋まっていた。
「おかしいのではないか」と何度か伝えても「友達だし」と言って縁は切らなかった。


その後母は仕事がきっかけでうつ病となり、統合失調症に近い妄想に悩まされた末、飛び降りてこの世からいなくなってしまった。


自分にとって母は理不尽にもある程度対応できる「頼りがいがある人」だった。
だが自分たち家族が、母の周辺の環境が「どこにも頼れない人間」を作ってしまったのではないかと考えずにはいられない。
きっかけこそ仕事だったが、そんな環境でうつ病を治せるわけがないのだ。
ここには父のモラハラ行為を書いたが、そういう自分もどこかで無自覚に母に対し加害行為をしていたと思う。

そういうのを「そういう人だったんだよ」とか「運が悪かったね」で済ませたくないなと思いながら、とりあえず今日の夕飯をどうするかを考え一日を乗り越えている。

食事は個人のモラルが垣間見える時間だ。X(Twitter)でもたびたび話題に上がるが、「人の料理をぞんざいに扱う」「人の料理を食い尽くす」奴からは、すぐに離れることを自分としては推奨したい。



地球で一年が経ちました。
そっちの世界はどうですか。お供え物などは届いてますか。

自分は死んで楽になる資格などないので、
あなたが行きたいと言っていたところに行って、お土産をたくさん持っていくので、遅くなります。

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