Vol.1.B:いそまるにあって寺井一択にないもの、vice versa.

 寺井はいくつかの演者・ライターランキング的なもので度々一位に輝いたことがあり、特に業界人からは高い評価を受けている(1)。兎味ペロリナやシーサ。、司芭扶など彼のファンを公言してやまない業界人(前者はそのまま結婚までしてしまったが)も数多く(2・3)、ゆうちゃろも「この業界ですごいと思った唯一の人」として寺井一択の名をあげている(4)。
(1)https://nana-press.com/post/1456243
(2)https://nana-press.com/post/48124/4
(3)https://youtu.be/4cPI9t20uuE?t=348

(4)https://nana-press.com/post/34077/3

 1GAMEのてつは寺井とのコラボ動画において、やや間接的な言い回しながらいそまるを酷評する一方(5)、寺井には率直な賛辞を終始あびせ続けた(6)。その動画を見たいそまるは、後日傷心した様子で寺井に連絡してきたというが(7)、それはさておき、Twitterのフォロワー数や看板番組の再生回数などでは明らかに劣っている寺井のほうが、業界人からは圧倒的に高い評価を受けていることは間違いない事実である。
(5)https://youtu.be/ZFDw_HXLolg?t=1315
(6)https://youtu.be/ZFDw_HXLolg?t=1016
(7)https://youtu.be/2eMzmqQVIz8?t=1950

 単に「おもしろい人間」として二人を評価した際に、寺井がいそまるを圧倒的に凌駕しているのもまた事実だ。各々の他演者との共演動画を見れば一目瞭然である。寺井自身は、共演動画よりも一人のほうがおもしろいと言われるとのコメントを残しているが、それは彼が「共演下手」であることを意味しない。共演者へのフリやツッコミ、返しのセンス、それまでの間の取り方はまさに大変芸人的であり、いそまるもこの点において寺井を高く評価している。

 彼と共演者との絡みをいそまるのそれと見比べてみると、寺井はいそまるに比べ、共演者に対する無礼な振る舞いや言葉遣いを厭わない傾向にある。おそらく彼は、これはお芝居だと割り切れるタイプの人間なのだろう。だから面白さのために相手を利用することを躊躇しない。大御所や年長者との共演はやりにくいというのは「寺井大地」の本音だろう。それでも、いち演者としてある程度のところまで踏み込むことができる。彼は、舞台にさえ上がってしまえば、「寺井大地」というアイデンティティよりも「寺井一択」というペルソナを優先することができる、そういう人間なのだ。

 いそまるは、そうではない。よく言えば、裏表のない人間なのだろう。悪く言えば、演じることができない人間である。共演者に無礼なことを言ったり試みたりすることはあるが、寺井に比べて迫力や面白みがない。失礼ではないかという気持ちを拭いきれないのだろう。「回胴の達人」にて1GAMEヨースケと共演しているが、これはひどいものだった(8・9)。二人の間は最後までかみ合うことなく、距離感を保ったままの姿勢を崩せないいそまるは自然と「台に熱中する」いつもの自分にのめりこんでいき、ヨースケも途中からは二人の会話による盛り上げをあきらめ、自身が打つ絆2に専念する形に方向転換して収録をやり過ごした。
(8)https://youtu.be/__6jmTrLuRc
(9)https://youtu.be/60ou63QzfQ8


 おそらく、いそまるは好青年である。好青年であるが故、年長者やまだ親密ではない人間との距離の詰め方が好青年相応に不得手である。日常ではそれが当たり前の礼儀なのだが、舞台上の芸者としてはあまり感心しない話だ。舞台は日常ではないのだから。

 実際、彼は親密であろう人間との共演では水を得た魚のように軽快なやり取りを繰り広げている。同僚よしきとの共演は当然として(ちなみによしきはいそまる以上に共演が下手だが、これはまた彼について綴る際に話す)、「タイガー&ドラゴン」での日直島田とのコラボ動画は評価に値するものだった(10・11)。「多媒体への出演」や「出玉バトル」的な要素があるといまいちいそまるの良さが発揮されないという可能性も考えられる。いそまるはスロットをまっすぐに楽しみ(イラつき)のめり込むことに関しては他の追随を許さないが、バトル形式ではその良さがやや発揮できないようだ。スロパチステーション内でティナやこしあんと共演を果たしているが(12・13)、いずれも上述の課題はほとんど感じられない。いずれも共演者と一緒にスロットを楽しむことに主旨にした内容だったからだろう。
(10)https://youtu.be/l-YfALGqstA
(11)https://youtu.be/w78fkgtaaAE
(12)https://youtu.be/3KD4GhfsE98
(13)https://youtu.be/a4d4hELxYEI


 いずれにしても、距離感に素直な人間、それがいそまるである。その最たる例が、寺井といそまるが共演した「トレジャーハンター」だ(14~17)。以前にもそれぞれのチャンネルでコラボ動画を出しているが、その頃とはわけが違う。今や業界トップ2といって過言ではない二人の共演だったが、はっきり言って駄作である。どう贔屓目に見ても、その要因はいそまるにあった。寺井のフリに対する返しのキャラ設定がふわっとしている。そこにいたのはいつものいそまるではない。面白い関係性を恣意的に作り出そうとしていたのか、寺井のフリに対して、視聴者も寺井も閉口せざるを得ない返しに終始した。ところが、後半に進むにつれ徐々に序盤のぎこちなさは解消されていき、最終的にはある程度息の合った悪くない絡みを披露していた。いそまるが寺井との距離感をつかめてきたためだろう。

(14)https://youtu.be/Kfwinmz0oAk
(15)https://youtu.be/pGXN3D1BNd8
(16)https://youtu.be/fLsAZOLpa28
(17)https://youtu.be/ctxeigF1sug

 これらの側面から二人を観察してみると、パチスロという世界から離れてより大きな「芸能」、ようはバラエティーの世界に舞台をかえたとして、成功を収める可能性がより高いのは間違いなく寺井一択である。そこに待ち受ける狭義での「芸人」たちに寺井が敵うのかという問題はあるだろうが、それはまた別の話だ。

 もうお気づきだろうが、私は、寺井一択はまことに「芸人的」な男だと考えている。もしくは、彼の面白さの秘訣は彼が大変コメディアン的な点にあると思っている。破天荒さや奇抜さに任せた笑いではない。思わず「うまい」と感心してしまう面白さのことだ。一話単位で動画を視聴した際に、パチスロを通してこうした「思わずうまいと唸ってしまう」笑いを創造する点において、寺井一択は他の追随を許さない、まさに「一択」の存在なのである。
 
 しかし。「一話単位」。それが寺井といそまるを、いや、「いそまるならびにスロパチステーションと他のあらゆる演者・媒体」を比較衡量するうえで重要なキーワードになる。というのも、私は一話単位でパチスロ動画を評価した際に、それなりに成功をおさめているチャンネルや演者の動画に関しては、正直なところさほど大きな差はないと考えているからだ。あるのは「視聴者の好み」であって、演者の力量やチャンネルの編集力の差ではないということである。

 その前に、「いそまるにあって寺井にないもの」という小題について話を戻そう。このままではむしろ逆で話が終わってしまうところだった。寺井に欠けていていそまるにあるもの。それは、「圧倒的主人公感」である。
 
 ただ、これは寺井にとってフェアな言い方ではない。「寺井にはない」という話ではないからだ。そうではなくて、「いそまるにありすぎる」。いそまるがいそまるである所以、いそまるの「成り上がり」という名のフェアリーテイルを実現させた彼の天賦の才。それがこの「圧倒的主人公感」である。その話に進む前に、まずいそまるという人物について考察してみたい。

 先ほど述べたように、いそまるは恐らく裏表のない実直な人間である。彼はまっすぐにスロットやパチンコをうつ。のめりこむ。彼は自分の感情を素直に表現する。大胆に喜び、わかりやすく落ち込み、ふてくされ、いらだつことができる。スロットに対する喜怒哀楽をここまでまっすぐに、ときには子供っぽく、ときには青臭く表現できる演者は、いそまるを除いていない。

 いくつか例を挙げてみよう。この動画の23:20からの一連の流れは必見だ。

【ハーデス】どん底から這い上がれるか?!研ぎ澄ませいそまる!【 いそまるの成り上がり回胴録#223】[パチスロ][スロット]

 この回は、いそまるの全てが詰め込まれている彼史上最高傑作ではないかと私は思う。彼はフラストレーションを素直に表現する人間だが、この回が特に逸材なのは、それを単なる苛立ちではなく、無力感や虚無感として表現した点にある。誰もが実生活で感じることがある、あのどうしよもない感覚に置き換えたことにある。うまくいかない、やりきれない展開を彼は人生に例えた。それでも彼は歩み続けることにした。それは、「そうすることしかできない」というあきらめにも似た覚悟だった。しかし、最後に彼は挫折を否定する神の一撃を引き当てる。まさに少年漫画のような展開・演出だ。

 何と言っても「激熱」の文字が飛び出たときの、そしてGODを引き当てたときのいそまるである。展開自体が劇的なのは確かだが、それを胸が熱くなるレベルにまで昇華させたのはいそまるのリアクションだ。上述の共演動画で、日直島田は「いそまるの良いところ」として「おじさんからしたら恥ずかしいと思ってしまうようなことをダイレクトに言える」こと、つまりは「小っ恥ずかしいことを言える」ことだと述べているが、このいそまる評は大変的を射ている(18)。「激熱」の文字が浮かんだ台に「いいいい・・・。何もゆうな・・・。」とまるでその肩をたたく、そんな「小っ恥ずかしい」リアクションをここまでリアルにとれる演者が、果たして他にいるだろうか。中段にGOD図柄が聴牌したとき、渾身のフィストバンプでカメラマンまで熱くさせてしまう演者が、果たして他に何人いるだろうか。そこにあるのは演技ではない。いそまるという人間が生身で体感しているリアルなフラストレーションを、いそまるという特別芸に秀でているわけでもないどこにでもいそうな、でもまっすぐで、馬鹿で、心からスロットを愛している人間がぶち破るという、一つの少年漫画的実話である。

(18)https://youtu.be/l-YfALGqstA?t=1311


 近年でも、例えばこの動画はいそまる史上に残る名作だ。


【パチスロ鉄拳4デビルVer.】最高の成り上がり!?見敵必殺の一発ギューンッ!!【いそまるの成り上がり回胴録第582話】[パチスロ][スロット]#いそまる


 子供のようにふてくされ、イラつき、熱くなる。そうしてフラストレーションを純粋に表現することでこれを溜め込むことが、最終的に視聴者を巻き込んだフラストレーションの爆発的発散につながる。彼のこうした性質をネガティブにとらえる視聴者もいるだろうが、それは負の反応を補って余りあるだけのファンを獲得する源になってきただろうし、むしろこうした喜怒哀楽の素直な表現が彼の人気につながっていることは火を見るよりも明らかだ。そうでなければ、彼が今この地位を築くことができた理由を説明できない。技術的なところでいうと、ブラックアウトからフリーズの音が鳴るまでの間ピッタリで熱くなれる一言をおさめている点を評価したい。勢いもタイミングも秀逸である。
 
 いそまるの「圧倒的主人公感」。それは何も、彼が特別容姿に秀でているとか、主人公らしい特別な能力を併せ持っているだとか、そういう話ではない。むしろ、彼は比較的どこにでもいそうな、愚直で、素直で、たまに人生についてクサいことを語ってしまえる、たぶん元々はちょっとやんちゃな明るい青年である。今となっては男である。ただ、彼はその天真爛漫さでフラストレーションを包み隠さず表現できるという才において、そしてその屈託ないまっすぐな情熱でフラストレーションを発散できるという才において、彼は、彼の歩む道のりを「少年漫画的に描く」ことを可能にしている。それが彼の「圧倒的主人公感」を創造する源である。そして、彼の持つまっすぐさ、正直さ、青臭さは、多くの少年漫画の主人公たちもまた共通して持ち合わせている性質である。

~続~

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