アメリカの大学事情
私のコミュニティーカレッジの正規のクラスが始まりました。初日でびっくりしたのはキャンパスがアメリカ人(といっても白人だけとは限りませんが)だらけだったことです。当然と言えば当然なのですが、夏の学期はESLの外国人(特に日本人やアジア人)がほとんどだったのです。キャンパスは今までの3倍くらいの学生で活気に溢れていました。
コミュニティカレッジというと誰でも入れる成人学級のようなイメージがありますが、私たちがいた学校は州立のコミュニティカレッジでシアトルの一番優秀で大きな州立大学に入る教養課程のための学校という位置づけの学校でした。
アメリカの大学は最初から自分の専攻を決めて入学するのではなく、入ってから色々な科目を取りながら専攻を決めていきます。法科、医科、ビジネスなどは4年を終ってからしか入れません。
総合大学に1年生から入ると、必修課目は全学生が取らなくてはならないので受講生が多く、大きい階段教室で先生がマイクで講義をするのでとてもわかりづらいです。特に外国人はついていくのが難しいので教養科目などの必修科目はコミュニティカレッジで履修しよい成績を取り、総合大学や専門課程の3年生に編入するというのが賢いやり方です。
コミュニティカレッジはクラスが40人ぐらいと小さく、先生達との連絡も良くとれ学生に目が行き届くうえに授業料も4年生の大学より安いのです。ここで頑張ればハーバードなどの優秀な学校に編入も夢ではないのです。(実際はコミュニティカレッジは地元の4年制大学と提携している事が多いので、特定の州の大学に行くのが目的なら、その近くのコミュニティカレッジに行く方が断然編入確率が上がります)
しかしコミュニティカレッジにも色々なレベルがあり、そこで取った成績をそのまま4年制大学に移すことができないところもあります。例えばAを取れば成績の計算では4とカウントされますが、コミュニティカレッジのレベルによっては80%(3.2)しかカウントしてくれないところもあります。編入にはこの評定値がとても大事です。
私が入ったコミュニティカレッジはそのままカウントしてくれるレベルでした。そのせいか正規の学生になるのにも比較的高いTOEFLの成績を要求されました。
アメリカの外国人のための英語教育システムは充実していますので、どんな大学にもESLがあります。ESLには誰でも入れますので有名な大学のESLを狙うブランド志向の人もいましたが、そこに入ったからといって正規の学生になるのが有利とは限りません。たとえ少し勘案されてもその後の正規の学生としての授業で苦労するだけだったりします。
また私立のコミュニティカレッジなどになると正規の学生になるためのESLのクラスが4段階くらいに分かれていて一段階ずつしか上がれないという金儲け主義の学校もありました。つまり正規の学生になるのにも1年以上かかる人たちもざらにいたのです。TOEFLが正規の学生のレベルになるのに高校を卒業してきた日本人で平均2年かかると聞いたこともあります。
正規の学生になれば卒業に必要な単位数を取るのに何年かかってもかまいませんが、一度悪い成績を取るとその記録は消せません。また外国人の場合フルタイムの学生(毎学期一定の授業時間数を取らなくてはいけない)でなければいけませんし、平均評定値がC以下だと一学期間の猶予を見てくれてそれでも成績が上がらなければキックアウトになります。それで学校を転々とする学生もいます。
新学期が始まって先ずやることはアドバイザーに会って自分が取らなければならない科目のアドバイスを受けることでした。
自分の専攻を決めないで授業を取り始めるので先ず必修科目を取らなければなりませんが、それを取るにも順番が必要な科目がありますし、自分で履修登録をしなければ取れません。必修科目なので希望者も多く登録を早くしないといけなくて必死です。今はインターネットで予約ができますが、その頃は登録のために早く起きて学校に行くこともありました。
一番大切な科目はEnglish101。アメリカで勉強するなら英語は欠かせない。それもライティングです。ペーパー(小論文やエッセイ形式の宿題)が多いので当然です。
その後English102などをとって自分の専攻に関係ある科目を取れるようになります。ですから一応どの方面の専攻をするかは決めておかないと無駄な科目を取ってしまったり、余計に時間がかかったりするのです。この学校はQuarter制(4学期制)だったのでフルタイムの学生でいるためには毎学期3科目以上取り、毎日同じ時間割で週に5回授業を受けるシステムでした。授業料は単位数に応じて払います。(州や学校によって2学期制だったり3学期制だったりします)
最初アドバイザーのところにはM子さんと一緒に行ったのですが、システムが良くわかっていなくてアドバイザーの前ではわかったつもりでいたのですが後でM子さんと話しをあわせてみると全く違っていたことがあり、もう一度会いに行くはめになったこともありました。
取るクラスが決まったらテキストを買います。大学のテキストもちょっとした百科事典並に大きく重く高いのですが、120ドルぐらいが普通でした。でもブックストアには中古もあり、半額ぐらいになっているのでそれが手に入るとラッキーでした。
クラスを取り終わるとテキストはさっさと売ってしまいます。はじめは「エーーッ、そんな」と思いましたが「中身はもう頭に入っているでしょう?」と言われると「そうか」と思ったり、何より限られた生活費しかなかったので背に腹は変えられなくてどんどん売りました。テキストだけとっておいても後で読み返すってことはまずないですから。
教科書や文房具について言えばその当時アメリカの方がずっと資源を大切にする考えが浸透していると思いました。義務教育期間の教科書は学校から借りているので何年も同じ本を下の学年に受け継いでいく方式でした。大学の中古本には “Save trees”というステッカーが貼ってありました。マークシートのテストなどで使うように言われる#2鉛筆(日本のHB)は木の部分がおがくずを固めたものでした。
日本は義務教育では国が毎年全く新しい教科書を全員にくれるので兄弟でも使い回しをすることはありません。最近の日本の子達はキャラクターの入った大きな筆箱にパンパンにシャーペン、あらゆる色のボールペン、蛍光ペンを入れています。世界には教室も、ノートや鉛筆もなく地面に字を書いて学んでいる子達もいるのにと思うと、とても複雑な気持ちになります。
アメリカの大学でもうひとつ特徴的なのはライティングラボ、リーディングラボ、マスラボなどという学生の学習を手助けするシステムです。そこにはTA(ティーチャーズアシスタント)という優秀な上級生がいて下級生の勉強の手助けをしてくれました。
例えばライティングラボでは自分の書いたペーパーを読んでもらって校正をしてもらい提出用にパソコンに打ち込めます。リーディングラボでは速読の練習用の機械に文を焼き付けたフィルムを取り付けてそれを自分の読みたい速度にあわせ、流れて来る文を読みます。終ったら内容を理解しているかのテストを受けます。そして読む速度を上げることができます。マスラボではTAが解けない問題を先生より上手に教えてくれたりしました。
そんなことで良い成績をとってずるいと思うかもしれませんが、要するにやる気があることを評価し、結果的に学んだことが身に付けばいいという考えです。ラボのTAは先生とは全く関係ないので試験問題が漏れたりすることはありませんでした。
大学の成績については日本では考えられないくらい神経質になります。一旦とった悪い成績は消せませんし編入して学校のレベルを上げていくのが普通ですので成績次第で行ける学校のレベルが決まります。就職にも成績が影響します。学校によっては高校や中学校の成績まで提出することを要求するところもありました。
ある日本の高校を卒業してきた子など、高校時代は部活に明け暮れていたので成績が良くなかったそうです。でもコミュニティカレッジでは頑張って良い成績をとっていたけれど大学の3年に編入しようとしたら高校の成績の提出を求められ基準に満たなくて行きたい学校に行けないと困っていました。
日本の成績をアメリカでどう評価するのか不思議でしたがうわさでは学校のレベルのリストがありそれで単位の換算をすることができると言われていました。さすが世界中から多くの留学生を受け入れているアメリカだと感心しました。私も3年に編入する願書を提出する時20年前の高校の成績を取り寄せて提出しました。
日本の大学の成績ももちろん提出しましたが専攻を心理学に変えたので使える単位が少なく結局70単位ぐらい取る羽目になりました。でもそのお陰で色々な分野を勉強することができ、日本では苦手で取らなかった数学などでも良い成績をもらえました。毎日授業が終ってからマスラボ(数学のラボ)にもお世話になったり図書館で勉強しましたから。
しかし当時はどんなにがんばってアメリカの大学で学士号を取っても日本の大企業は大学卒とは認めてくれないと言われていました。受け入れられるのはアメリカのアイビーリーグの大学卒のみと言うのです。真偽のほどはわかりませんが、友人のY子さんは日本の大学を卒業してワシントン州立の大学まで卒業したのに日本で就職しようとしたら「あなたみたいな人はいくらでもいる」と面接官に言われ差別化を図ることができなかったそうです。しかし彼女はがんばってその後の転職では毎回レベルアップして頑張っています。
今は海外の大学卒業生ための就職試験や入社日などもあるようで、隔世の感があります。
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