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【俳句】【短歌】の記事

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俳句・短歌関係の記事をまとめました。
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2020年7月の記事一覧

芥川龍之介俳句をよむ

「余技は発句の外には何もない」(『芥川竜之介俳句集』加藤郁乎編より) 芸術の鑑賞は芸術家と鑑賞家との協力である。いわば鑑賞家は一つの作品を課題に彼自身の創作を試みるのに過ぎない。この故に如何なる時代にも名声を失わない作品は必ず種々の鑑賞を可能にする特色を具えている。しかし、種々の鑑賞を可能にするという意味はアナトオル・フランスのいうように、どこか曖昧に出来ているため、どういう解釈を加えるもたやすい意味ではあるまい。むしろ廬山の峰々のように、種々の立場から鑑賞され得る多面性を

短歌による旅路の目的地

 旅という経験は、身体が目的地へ行くことのみを意味しないと私は考えている。私個人の告白で恐縮ではあるが、幼少期より乗り物が苦手であり、必然的に旅も苦手である。三半規管の機能が未熟であるのか、精神の弱さなのか思い当たる節は多くある。しかし、私は不幸とは感じていない。なぜならば、言葉により世界を旅することができるからである。世界どころか宇宙も―異世界すらも可能である。光ですら到達しえない宇宙の遥か彼方でさえも、言葉は私を「運ぶ」のである。けだし、目的地を「思い出す」という表現が適

『太陽の門』俳人・長谷川櫂をよむ

 毎年、蝉が啼き始める頃になると、自然と思い出されることがある。それは戦争である。私は戦争経験者ではないため、戦争について語る資格はないかもしれない。しかし、代々語り継がれてきた経験を自己の感性をもって照らし、智慧へと昇華させることはそれなりの意義があると考えている。  角川「俳句」七月号の冒頭に、特別作品五十句『太陽の門』が掲載されている。戦争という悲劇への鎮魂が主題である。作者の長谷川櫂氏は俳壇における第一人者といって過言ではない人物であり、格調高く重厚な句風という印象