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いかに仲睦まじい夫婦でも、生まれ育った環境が違うのだから、意見がたびたび対立するのは当然のことだ。例えば子育てに関して―― 実家が自営業の咲良は、子供が小学校低学年のうちから、小遣いを与えてお金の管理を覚えさせるべきだと考える。 一方で、母親がなにかと過干渉だった僕は、中学にあがるまでお年玉も回収されていたから、まだ小学三年になったばかりの奏哉には、必要な物を買い与えればいいと考える。 「親の言うことばかり素直に聞いてると、なにも自分で決められない大人になっちゃう。り
改札を抜け、中央線の下り階段に差しかかった時、ママ!と呼び止められた。ぴったり後ろにいたはずの翼が、売店の前で大きく手招きをしている。歩み寄る前に腕時計をちらりと見た。 「これ買ってぇ」 ねだられたグミキャンディは、毒々しい紫色のパッケージに入り、愛らしいイラストが子供をたぶらかすように添えられている。 「偉い子はね、こんなところで欲しがらないよ!」 「ぼくは偉くなくていいもん」 視線を上げると、レジにいた女性店員と目があった。互いにマスクをしているけれど、どう見ても彼