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ほんのすこしだけ昔、かふふ盆地の真ん中らへんに、のぶ爺さんのぶどう畑がありました。 かふふ盆地は、まわりを山々に囲まれて、すりばち状に凹んでいます。空高くのぼる太陽から見ると、大きなパラボラアンテナのようです。 のぶ爺さんのぶどう畑は、日あたりも風とおしもばつぐんで、広々としていました。ずらりと並んだ木の枝に、ぶどうの赤ちゃんが芽吹くのは、のどやかな春でした。そして、暑い夏をものともせず、すくすくと成長する沢山のぶどうは、さわやかな秋に、しゅうかくの時をむかえました。毎
ちょっぴり田舎の小さなみなと町に、あるとき二十五年ぶりの大雪がふりました。古いと新しいがまざりあう町なみは、きれいな白一色にうもれて、おひさまがもどると、みなとの向こうにひろがる海は青くひかりました。空と海のさかいめには、うすい雲がとおい雪景色をながめるように寝ころんでいました。 いっぽうで、町に暮らすひとたちは、のんびりしている暇はありません。てんてこまいで雪かきをしました。大はしゃぎの子どもたちもお手伝いをして、どうにか会社や学校まで行けるように道をととのえました。
二十年ほど昔、五月をむかえても肌寒い年がありました。ゴールデンウイークにそぐわない雨がふり、都会のマンションで暮らすアキラくんは、家の中でお絵かきをしていました。 「ねえ、緑の色えんぴつ知らない?」 「知らなーい」 つみ木遊びをしている弟のタカシくんは、そっぽをむいて答えました。 「昨日使ってたでしょ」 「その時はあったもん」 すると、アキラくんはつみ木遊びのじゃまをして、せっかくできた小さなお城をこわしてしまいました。 「お母さん! お兄ちゃんがいじめる!」 「悪いの
ひにけに寒さがゆるんで、流れる川の水がいきおいを増すと、雪に閉ざされた国は春をむかえます。それはきびしい冬をのりこえた分だけ美しく、まるで神様からのごほうびのようです。 晴れた朝はすがすがしく、小鳥のさえずりが青空に飛びかいます。風は光をはこびます。ひさかたぶりに顔を出した土の上には、フキノトウが芽吹いています。花はスイセン、スミレ、フクジュソウと、どれもおしとやかに笑っています。天気の悪い日はしっとりと、絹のようなやさしい雨がふります。 そうして、春の深まりとともに、