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独自の世界観を生きる子どもたちと、私たちはどう関われば良いのか?―自分の世界でのびやかに生きる「かりんはちみつ」の日常

こんにちは。実践探究メンターのちひろです。
今回は、実践探究クラスでも一際独自の雰囲気を放っている小学6年生の「かりんはちみつ」のストーリーをお送りします。
本記事は、2022年の冬にかりんはちみつとそのお母さんに行ったインタビューをベースに構成しています。インタビューは私とワッキーで行いました。

「かりんはちみつ」というのは、「かりん」ちゃんのペンネームです。
彼女は学校で漫画同好会に所属し、日々仲間とガヤガヤしながら漫画を描いています。
そんな彼女は好奇心が旺盛で、いつも「ものづくり」をしています。
実践探究に来るときの服装や持ってくるぬいぐるみからなど、節々から独自の世界観を感じます。
自由で創造性ゆたかな女の子です。


書き初めと「かりんはちみつ」

さて、人は皆、ひとりひとり独自の世界観を持って生きていますよね。
大人になるとその世界観を表現する人はグッと減るように思いますが、
子どもたちは毎日命いっぱいに、意識的に、無意識的に表現しています。
探究学舎にいると、「ん?それって現実の話?想像の話?」と聞いてしまいたくなるような、自由な思考をのびやかに展開している子どもたちと接することが多いです。
そんな自由な子どもを前に、「どんなふうに接するのが良いのだろう?」「この魅力をそのまま伸ばしていくために自分にできることはなんだろう?」と思うことはありませんか?
メンターとして子どもたちに接する私は、時々悩みます。

今回は、はじめに2つの問いを読者の皆さんと共有します。
1つは、独自の世界観を生きる子どもたちと、私たちはどう関われば良いのか?
2つ目に、自由さや創造性といった、子どもの個性を「伸ばす」にはどうすれば良いのか?
これからお伝えしていくかりんはちみつの日常と、彼女とお母さんとの関わりから、これらの問いに対する1つの答えを一緒に考えていけたらと思います。

※プライバシーの観点から、固有名詞の含まれる話をそのままは使わず、伺ったお話を中心に筆者の言葉でまとめています。しかし、インタビューで聞いたかりんちゃんの日常生活は、出来事から登場人物のペンネームに至るまでがどれもおもしろく、ぜひ読者の皆様に共有したいと思うものでした。かりんちゃんの話を詳しく聞きたい方は、実践探究にお越しの際に聞いてみてください^^


「かりんはちみつ」ってどんな子?彼女の日常をのぞく

かりんはちみつは、学校では漫画同好会に所属し、日々漫画を描いている女の子です。
夢はアーティスト、漫画家、小説家?
広く「つくること」が好きで、実践探究では絵を描いたり劇を作ったり、はたまた粘土でオリジナルキャラクターを作ったり…活動は多岐にわたります。
かりんはちみつの興味は、ものづくりという活動に閉じられたものではなく、彼女の周りにあるあらゆるものに開かれています。
それは、彼女のものづくりの過程や作品を見ると気付かされます。
例えば、粘土を作った作品に、葉っぱや花などいろんな素材が使われています。
山や川や森、広くいろんなものに興味のある彼女の作品には、彼女がインスピレーションを得た、彼女に見えている世界の全てが表現されています。
作品や会話から、ものづくりも、木登りも、川遊びも好きなかりんはちみつの内面的な世界のゆたかさを感じます。


かりんはちみつの仲間たち
粘土で仲間たちに命を吹き込む様子

彼女の継続的な活動の一つは、漫画を描くことです。
漫画を描き始めたきっかけは、彼女が自発的に漫画を描いていたところ、同級生の何人かで構成される漫画同好会に声をかけられたことだと言います。
同級生が「かりんはちみつ」というキャラクターを生み出し、今では改良版がかりんちゃんのシンボル的なキャラクターとなり、ペンネームにもなっています。

かりんはちみつの変遷

かりんはちみつと漫画同好会のゆかいな日常


そんな漫画同好会は、現在、非公式メンバーを含めて10人(インタビュー当時)から構成される組織です。
規模の拡大に伴って体系化も進んでいます。
インタビュー当時のかりんはちみつは「宣伝部」「新人お助け部」「裏紙部」「ちり紙部」など、複数の部署に所属する平社員でした。
「裏紙部とちり紙部はやってることがほとんど同じ」と鋭い指摘をしており、今後は部の統廃合も期待されます。
また、聞くところによると、漫画同好会はかなりの階級社会。名称は伏せますが、12段階の厳格なランクが設けられているそうです。
部員は漫画を描いた量とその質によって、それぞれのランクに振り分けられるようです。
定期的に部員のランクの妥当性が見直されるため、上下移動も激しく、部員は日々プレッシャー(?)を感じながら、活きいきと漫画に向き合っているそうです。


かりんはちみつの話がおもしろすぎて悶絶しているワッキー

そんな漫画同好会では、日々いろんな「事件」が起こっています。
ある日、帰りを待つお母さんがかりんはちみつに電話をかけたところ、こんな返事があったと言います。
「今、裁判中だから、あとでかけなおすね」
なんと、ある部員が漫画同好会全体をかき乱すような事件を起こしたのだそうです。
この部員の今後の処遇について決めるため、同好会部員たちは急遽裁判を行うことになったとのこと。
事情を了承したお母さんは、家でいつも通りかりんはちみつの帰りを待っていたそうです。

ここまでの話から、かりんはちみつの目に映る日常がいかにおもしろいものであるか、伝わったのではないでしょうか。
インタビューの録音を聞き直しながらこの記事を執筆している筆者は今、かりんはちみつの話を思い出して顔から笑みが溢れています。
今までかりんはちみつの話を断片的にしか聞いたことがありませんでしたが、インタビューの際にゆっくりと話を聞いて思ったことがあります。
それは、傍目には独自のように思える世界観は、当人にとっての日常であるということです。
私がかりんはちみつの「世界観」だと思っていたものが、彼女にとっては「日常」であり、彼女はその中を生きているのです。


漫画から飛び出してきたロリポップマイマイ

なんでもやってみたい!手を動かしたい!かりんはちみつ


かりんはちみつの自由さを示すエピソードは枚挙にいとまがありません。
お母さんは彼女のことを「気になることはなんでもやってみたい!とにかく手を動かしたい!言われた通りにやるより、まずは自分のやり方でやってみたいタイプです」と説明します。
そんなかりんはちみつの性格から、実践探究は彼女にぴったりの場所だと考えたと言います。
かりんはちみつは、実践探究の開始からずっと通っている生徒の1人です。

そんなかりんはちみつは、実践探究で取り組む姿からも自由さを感じます。
毎回違ったぬいぐるみや人形を持ってきて、作業環境に配置し、自分だけの世界でものづくりをしています。ぬいぐるみや人形のひとりひとりに名前、性格、そして生き方があります。


実践探究にやってきたマリアちゃん・マルタちゃん姉妹。二人はいつも口喧嘩をしているらしい。
(ワッキーによって名前がなぜか「きしだちゃん」「そうりちゃん」に…!!!)

また、つい最近触れたアート作品から影響を受けて、作風を真似て自分なりに絵を描いたり、シルバニアファミリーのお家を改造したり、発想力と創造性の豊かさを感じます。
かりんはちみつの「やってみたい!」から、「やる」までのスピードの早さには度々驚かされます。

かりんはちみつ作品美術館

ここからは、写真を通して、かりんはちみつが実践探究の内外を問わず自由気ままに過ごしている様子を一緒に見ていきましょう。

「わたし展」(2022年)で展示したドールハウス

事前に「箱根ドールハウス美術館」を視察
シルバニアファミリーの家に色を塗るかりんはちみつ
そしてドールハウスが完成!
卵が産まれている、、!
粘土やレジンでミニチュア食器作り
紫陽花やかすみ草を使って作られた、かりんはちみつの原型のミツバチたち

「探究美術館」(2022年)で展示した人形劇

粘土と針金で一から人形づくり
舞台裏からBGMを決めている
当日

「探究美術館」(2023年)で展示したキャッスル

石粉粘土で石壁をつくる様子
ぬいぐるみや作った粘土キャラクターが集まれるお城に!
お城の屋根は四季のドレスをイメージ(手前は冬、奥は秋)

ドラえもんのように、押し入れで暮らす様子

「ハウルの動く城」に登場するソフィーの帽子屋さんに憧れて、造花で作ってみた帽子

こんなふうに、自由でのびやかなかりんはちみつの様子を見て、
「うちの子にそっくりだな」なんて思う読者もいるのではないでしょうか。

親子で培ってきた信頼関係


楽しそうに日常の話を語ってくれるかりんはちみつですが、インタビュアーの我々が置いていかれることも少なくありませんでした。
その度に「〇〇はかりんのクラスメイトです」とにこやかに解説を入れてくれたのが、かりんはちみつのお母さんでした。
そんなお母さんの関わりからは、1つ目の問いである「独自の世界観を生きる子どもたちと、私たちはどう関われば良いのか?」について考える2つのヒントが得られました。
1つは、「子どもの世界観に入り込むこと」です。
かりんはちみつのお母さんのお話や、二人のやりとりを見て聞いて感じたのは、「二人はひとつの世界観を共有していて、その中で話をしている」ということです。
先に紹介したような、かりんはちみつの日常生活で起こる事件を、「裁判があったんだよね」というようにそのまま受け取り、言葉を交わしているのです。
時間的な制約があったり、気持ちに十分な余裕がなかったりすると、子どもから客観的な事実を聞き出し、一般的な言語で整理するコミュニケーションをとってしまうことがあります。
つまり、こちら側が「翻訳」をするわけです。しかし、私たち大人の言葉で「翻訳」された瞬間、目の前の子どもの世界をそのまま受け取ることは困難になります。
だから、翻訳せず、子どもの言葉を使って表現される世界観の中に入り込んでみるのはいかがでしょうか。
常に世界観にアクセスした状態で、日々話の続きを聞くと良いかもしれません。

2つ目は、「信頼すること」です。なんでも自分が納得した方法でやりたいかりんはちみつに、例えば宿題のことで口を出してしまいたくなる瞬間があるそうです。
しかし、日々の模索と経験から、「かりんなら任せても大丈夫」と信頼し、できるだけじっと見守るスタイルを心がけてきたと言います。
そんなお母さんの関わりがあってか、かりんはちみつはものづくりと同じような温度感で勉強にも楽しんで取り組んでいます。信頼関係が築かれているからこそ、かりんはちみつが自分の「やってみたい」を表明できるのだなと納得しました。
子どもの個性や気持ちを「信頼すること」は、最も基礎的で重要なことですね。


漫画を描くかりんはちみつ

子どもの気持ちが芽生える「時」に備え、待つ


最後に2つ目の問い「自由さや創造性といった、子どもの個性を『伸ばす』には?」に対する答えを考えていきましょう。
かりんはちみつのお家には、絵の具、画用紙、粘土、造花、布など、何かを作る際に必要な基礎的な材料を常にストックしているそうです。
「今は百均になんでも売っているので」と、いつでも作品作りに取り組めるように、在庫がある状況を維持しているようです。
お母さんはその理由を「アイデアが浮かび、『作りたい』『やってみたい』という意欲がわいた時を大事にしたいんです。その『時』は、ふとしたきっかけでやってきます。ガサガサと箱の中を探して『(希望の材料が)あった!』と言いながら楽しそうに作る姿を見るのは嬉しいです。もちろん、無ければ無いで別のアイデアが浮かぶのもよいのですが。まぁ、家はものすごい散らかるんですけど。笑 リビングも作品だらけで」と、笑いながら話してくれました。
ここで最初の問いに立ち返ると、まずは「『伸ばす』という思考から自由になる」ことが重要だと言えそうです。
かりんはちみつのお母さんは、かりんはちみつの個性や、それを伸ばすことではなく、彼女の気持ちが芽生えた「時」を大事にしていました。
子どもの「個性」は、伸ばすべき「長所」のように見えることがあります。
ただ、個性は伸ばそうとしたからといって必ずしも伸びるものではありませんし、逆に伸ばそうとしなかったからといって伸びないものでもありません。
本人が自分の個性を長所だと自覚し、伸ばしたいという意思が表明された時には、サポートできると良いと思います。
しかし、これはかなり先のステップであるように思います。
まずは、子どもの気持ちが芽生える「時」を待ってみるのはいかがでしょうか。
その上で、具体的なアクションを考えるなら、「本人の気持ちが芽生えた時、すぐに手に取ることのできる環境を整えておく」ことが大事なのではないでしょうか。
その際、日頃の本人の生活や活動から「こういうものが必要になるだろう」と見立てを立てることが必要だと思います。
「こういうことをやってくれないかな、向いてるんじゃないかな」という期待から材料を用意すると、本人の視界にすら入らず、なかなか「やりたい」気持ちも起こらないものです。そんな様子を見ると、「やりたい気持ちが全然起きない…せっかく用意したのに」と、なんだかソワソワしてしまいますよね。
日頃お子さんが何をしていて、どんなことに心を動かされているのかを観察し、その観察結果から本人の周りに散りばめておく材料を考えると良いのかもしれません。
観察して、見立てて、用意して、そして用意した材料と子どもとの関係をまた観察して…というような終わりのない試行錯誤の過程で、お子さんとの相互的な理解や関係性の構築が進んでいくのではないでしょうか。


かりんはちみつの漫画

編集後記


この記事は、かりんはちみつとお母さんからいろんな提案を受け、言葉や表現の選び直しを重ねて完成に至りました。
ゆえに、記事にはかりんはちみつらしさが散りばめられています。例えば、冒頭の「ガヤガヤ」という表現は、最初に私が書いていた「てんやわんや」に対して、かりんはちみつから変更の提案を受けたものです。記事のトップ画像のポーズを考えたのもかりんはちみつ自身です。
また、お母さんから受け取った提案は、この記事を優しくやわらかい方向に運んでくれています。
少し仰々しい問いを立て、やや実践的なことも書いた今回の記事(なんだか説教くさく感じられる部分もあるかもしれません)ですが、子どもと親が結ぶ関係は個別的で唯一無二のものです。かりんはちみつと彼女のお母さんとの関係から学んだ1つの暫定的な「答え」から、この記事を読んでいる誰かがまたオリジナルの「答え」を見つけられることを願っています。
それに、信頼することや「時」を待つことの大切さは、親と子の関係に限定されるものではないはずです。ひとりの人間に伴走したり、一緒に何かに取り組んだりするとき、私自身も思い出したいなと思うことです。

編集・執筆:ちひろ
今は実践探究でメンターをしたり、文章を書いたりしています。
感動したことや葛藤したこと。感じたことを言葉にすることで認識できる自分の世界は広がると信じて、子どもたちの心の中を言葉にするお手伝いに努めています。

校正・写真選び:かりんはちみつ、かりんはちみつのお母さん

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子どもたちの「好き!」「やってみたい!」は千差万別です。
何が正解なのか、成功なのかは誰にもわかりません。
子どもたちとご家族とメンターが、関わりの中で一歩ずつステップを上り、積み上げ、作っていく。そのプロセスが豊かで、尊いものであるということこそ、わたしたちが「実践探究」を通して伝えていきたいことです。

実践探究は現在試行錯誤しながら、探究学舎三鷹教室にて運営しています。
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practice@tanqgakusha.jp(担当:宮脇)

※実践探究は2023年8月をもってサービスを終了いたしました。今までありがとうございました。
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