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マスクしてると人の顔って分からないよね

ちょっと前の話だ。
会社の健康診断で、朝っぱらから地元の健診センターへ向かった。
もちろんマスク必須である。

朝の8時半。小学生達が学校で朝の会を始める時間に、
大人のお姉さまたちが健診センターへ集まり受付を待っている。
(この日は女性専門日だった)

誰か知ってる人来てるかな、なんて淡い期待を持ったりもしたけれど、
そんな淡い期待はあくまでも淡いままで終わるのだ。

マスクもしてるし、顔で判別できるのは目だけ。
「目は口程に物を言う」とは言うけれど、
皆様こぞってこんな時のお友達はスマホか文庫本と決まっているので
全く誰かも分からないし、そもそも誰も目を合わせようとしない。

普段行き慣れない場所、ましてや知り合いもいない場所。
緊張感を伴うものだ。
何か聞きたくとも答えるのは自分自身のみ。
我が心の声を聞け(そんなに?)。


いつ名前を呼ばれるのかしら
どこに座ってればいいのかしら
私の順番、抜かされてないかしら
あのご婦人、呼ばれてるっぽいけど気づいてない


こんなソワソワ、ハラハラした気持ちを抱えているのは私だけなのだろうか。

私の心が全く落ち着かないのと裏腹に、皆様落ち着いて自分の名前が呼ばれるのを待っているように見える。

結果として、私の順番は抜かされることもなく、
呼ばれていることに気づいていないご婦人は受付の女性に改めて名前を呼ばれ、あらゆることにホッとしつつ、
受付から健診着に着替えるべく、移動することになった。


更衣室へ向かっているときに、まさにそれは起こった。
誰も目を合わせるような場所ではないからこそ、とても異質な光を放った。


「お疲れ〜!今から?私、めっちゃ早く並んでもう終わったんだ。
また今度ね!じゃぁね!」

急に声を掛けられて、「あ!」と思った私も、明るく返事をした。

うん、うん、そうなの、今から。ありがとう!」


彼女は嬉しそうに、またね、と笑顔で去って行った。
マスクをしていても分かる。めっちゃ笑顔。
「目は口程に物を言う」とはまさに今この瞬間のためにある言葉だと感動して・・・

いや、待て。
「あ!」じゃない。「目は口程に物を言う」とかじゃない。

申し訳ない、私は貴女の事を全く存じ上げない。

あんな明るくて可憐でステキな年下女子。
マスクで顔がはっきりと分からないけど、私には分かる。分かるのだ。
朝の8時半という時間にふさわしい、爽やかな「そよ風」のような女性だった。

お互いマスクしてるから、
もしかしたらそのマスクの下を見たら分かるかも
もしかしたら知ってる人かも
もしかしたら、もしかしたら


などという「もしかしたら」が私の中でエンドレス状態でループしていたけれど、
壮大な人違いをされている事は間違いなかった。

私も私で、
良いのか悪いのか、その場をとり繕う微妙な才能には長けているので、

はぁ?人違いですけど〜
え?どなた?

みたいな雰囲気など1ミリも1ナノも出さなかったため、
ただただ平和で爽やかなやり取りだったわけだ。

お互い前日の夜から断食して早起きしてここまで来たわけなので、
人違いとは言え、素敵な笑顔で挨拶してくれたステキ女子に心からお礼を言いたくなった。

でも後日、そのステキ女子が勘違いされた当人との会話で、

「健康診断で会ったね!」

「え?・・・会ってないよ、あんた完全に人違いしたでしょ。やばー、やばー。マジやばいわー。」

とか言われてめっちゃ笑われてたら申し訳ないな。ごめんね。


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