第1回「現在完了形とは何か」

〈登場人物〉

ワカル(以下ワ)……英語を学び直そうと思っているが、分からないことだらけ。勉強が思うように進まず困っている。英語で躓いた時は、いつも楽解に助けてもらっている。

楽解(以下楽)……語学の勉強が趣味。知りたいことが多く、いつも学習が横道に逸れてしまうが、言語への興味は尽きない。ワカル君に英語を教える際、自説を勝手に展開し、たまに指摘を受けてしまうこともある。

①現在完了?継続?経験?


ワ:「現在完了形がさっぱり分からん」
  「なんでこいつら3種類もあんだよ」
  「何か日本語の意味も全部違うし」
  「こんなのが同じ文法とかどういう事だよ」

楽:「どうしたんだいワカル君?」

ワ:「おう楽解か、聞いてくれよ」
  「英語がふざけたことを言ってるんだ」
  「今、現在完了形を勉強してるんだけどさ」
  「いきなり3種類出てきたんだ」

楽:「わぁホントだ!これは大変だね。」

ワ:「だろ?haveに過去分詞が付く?のとかだってよく分かんないのに、日本語の意味まで違うもんだから、お手上げなんだよ!」

楽:「なるほどー。さっぱり分からないと。」

ワ:「ちょっと助けてくれよー。頼むよ」

楽:「丁度暇だったから、良ければ手伝うよ。」

ワ:「最初の方から教えてくれるとありがたいよ」

楽:「OK。じゃあ、最初から順番に解説するね。」

②現在完了はhave+過去分詞の形をとる

楽:「まずはこの英文からいくね。」

  “ I have finished my homework. “

  「これは、『私は宿題を終えたところだ。』という意味です。完了用法と言われる表現だね。」

ワ:「あぁ、何度もみたやつだな」

楽:「次はこれ。」

  “ I have lived in Japan for ten years. “

  「これは、『私は10年間日本に住んでいる。』という意味です。これは継続用法です。」

ワ:「あぁもう意味わかんないわ」
  「同じ文法とは思えん」

楽:「まあまあ、そう言わずに。で、次が最後ね。」

  “ I have visited India three times. “

  「これは、『私はインドに3回訪れたことがある。』という意味です。これは経験用法です。」

ワ:「その3つがなんで “have+過去分詞“  でまとめられてんだよ」
  「日本語の訳、3つとも全然違ってんじゃねえかよ」

楽:「確かに。君がそう言うのも無理はないよ。」

ワ:「そもそも最初のやつは “過去形“  でも表せられるんじゃないのか」
  「『た』で終わっているぞ」

楽:「それは、君の言う通りだね。」

ワ:「過去形で言えば終わる話のはずなのに、なんでいきなり聞いたこともない現在完了形なんてのが出てくるんだよ!」
  「そんなん日本語にないだろうが!」

楽:「OK、じゃあここでちょっと僕とクイズ対決をしてみないかい?」

ワ:「クイズ?まぁいいけど」

楽:「その名も『絶対に勝てない究極の二択クイズ〜!!』」

ワ:「面白そうじゃん。絶対に勝ってやるよ」
  「俺が勝ったら昼飯奢れよな」

③それは昔のこと?今のこと?

楽:「第1問、デデン!」
  『俺、先週チャリの鍵なくしたさ』

  「さて、俺くんの鍵はもう見つかった?それともまだ見つかってない?」
  「さあどっちだ!」

ワ:「うーん、見つかった」

楽:「ブッブー!残念!」
  「正解は、『まだ見つかっていない』でした!」

ワ:「お前、何かずるくねぇか?」

楽:「まぁまぁ。続いて第2問。」
  『私お昼ご飯さ、遅い時間帯に食べたんだ。』

  「さて、私さんが食べたいと思っている夕飯の量は少なめ?それともいつも通り?』

ワ:「少なめ」

楽:「ブッブー!残念!」
  「正解は、『いつも通り』でした!」

ワ:「お前バカにしてんのか」

楽:「してないしてない!じゃあ第3問。これが最後ね。」
  『わしは昔、英語を習っていたんじゃ』

  「さて、このおじいさんは英語を話せる?それとも話せない?」

ワ:「もう騙されないぞ。話せない。」

楽:「ブッブー!残念!」
  「正解は、『話せる』でした!」

ワ:「ふざけんなや、お前」

楽:「ごめんごめん!」
  「実はこのクイズはさ、絶対に正解できないように出来ているんだよ。」
  「今からそれを説明するね。」

④答えがごっちゃになる日本語

楽:「第1問はチャリの鍵をなくした場面だね。」

ワ:「何となく見つかったのかなって思ってさ」

楽:「なるほど。でもこの一文だけだと正直言って、どっちの意味かはっきりしなくない?」

ワ:「まぁ確かにな」

楽:「このクイズは、先に答えをきいて、後からもう一方を正しい答えにしておけば、必ず相手を不正解にできるんだ。」

ワ:「だから『絶対に勝てない』のか」
  「性格悪いな」

楽:「フフフ(笑)では、第2問はどうだろうか。」

ワ:「これはそんなに腹減ってないだろうから」
  「少なめじゃないのかって思った」

楽:「確かにそう言えそうではあるんだけれども、これが夕飯の支度しているお家の人とのやりとりでも、やっぱりこの一言だけでは今お腹空いていないのかどうかまでは分からないんだ。」

ワ:「何となく腹減ってない気がしたんだけどな」

楽:「じゃあ、第3問にいくね。」

ワ:「おじいさんなら無理だろうと思った」

楽:「なるほどね(笑)。実は、これも状況によって答えは分かれるんだよね。」
  「例えばさ、おじいさんから若い頃、全く役に立たなかった勉強の話を聞いていて、その流れの中でこの話が出てきたとしたなら、おそらく話せないって事になるんだろうけど、もしこれがさ、家族旅行の観光地とかで外国の人に話しかけられて、家族みんな返答ができなくて困っている時に、おじいさんがこう言ったとしたら、おじいさんはおそらく英語を話せると思うんだ。家族の期待を背負ってね。」

ワ:「おい!やっぱりこのクイズはズルいぞ!」

楽:「でも不思議だよね。」
  「日本語を話す人達はみんなどっちの意味なのか日常ではきちんと区別できているはずだから、それで会話が行き違うなんてこともそんなにないんだよね。」

ワ:「言われてみれば確かにそうだわ」
  「困った記憶はあまりないな」

楽:「ここに現在完了形と過去形の意味の違いがあると僕は思うんだ。」

〈次回〉現在完了形と過去形はなぜ別々に必要なのか?

楽:「今回は一旦ここまでにするね。」
  「では、今日のまとめ。」
  「同じ昔の話でも、日本語だと同じ表現で2通りの意味が生じてしまう。だけど、日本語を話す人達はみんなその都度どっちの意味なのかちゃんと理解している。」
  「そして、英語を話す人達はこうした問題をどう解決しているのか?というのが次回以降のテーマだね。」

ワ:「現在完了形は分からない事だらけだし、用法が3種類も出てくるのだって意味不明だし、まだまだ教えて欲しい事だらけだよ」

楽:「OK、大丈夫。一つずつ理解していけば、ちゃんとできるようになるよ。」

ワ:「それにしても、この話は長くなりそうだから、なるべく飽きが来ないように頼むよ」

楽:「了解したよ。」
  「じゃあ、次回もよろしくね。」

ワ:「今日は教えてもらったお礼に、昼飯は俺が奢ってやるよ。何食べたい?」

〈続く〉

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