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鈍痛

令和3年正月、オレンジ色というか、赤に近い尿が出た。
胃の上辺りに鈍痛も感じるし「これは只事ではない」と自分でも思った。
正月明け、近所のクリニックで胃カメラを飲む。
馴染みのクリニックの先生は、
「胃の中は綺麗、薬を三日分出すから様子見て」
という見立てだったが、薬を飲んでも一向によくならない。
この痛みの原因は「胃」ではなさそうだ。
それよりも、オシッコがシャーッと勢いよく出ないのが気になる。
紹介状を書いてもらい、大きな病院の泌尿器科へかかった。
尿検査を済ませると、泌尿器科のベテラン風看護師さんが、
「尿検査の数値が振り切れている!」
「あなた「黄疸」が出ているわよ!すぐに内科へ行って!」
と血相を変えて飛んできた。
「黄疸?」
「俺、死が近いの?」
血液検査も正常値の数百倍…と即入院レベルというか重症⁉︎
…MRI、CT、エコー…
朝一番で来たのに、全ての検査が終わったのは夕方だった。
すっかり患者もいなくなった内科の診察室に呼ばれ、
若き優秀そうな医師がPC画面を見ながら項垂れていた。
「総胆管の出口の部分が極端に狭くなっている」
「胆汁が流れず、黄疸が出ている」
「総胆管を狭めているのは癌かもしれない」
と淡々と結果を告げていく。
「総胆管の癌は見つかりにくく、見つかった時にはステージⅣ」
「早く見つかったし、他への転移もなさそうだ」
「ラッキーでしたね」
など、喋り倒されるが、何も頭に入って来ない。
若き優秀な内科医は、顔が黄色くなった五十路のおっさんに、
一通り説明すると急に黙った。
「胆嚢に石がいくつかあるので、結石というのも考えられますが…」
「総胆管結石(または胆管癌)と胆嚢結石です。」
「胆嚢に石があるのは胆嚢摘出が第一選択肢です。」
黙ったと思えば、次々恐ろしいことを言う。
血液検査の数値は、間違いなく「重症レベル」。
医師の後ろで看護師が記録しているカリカリ音が、真冬の診察室に響いていた。

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