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不登校だった少年が、22歳で牧場の経営者になるまで。

探究型スクールに行った子どもたちは、その後にどんな進路を選択するのだろう?どんな大人になり、どんな人生を歩んでいるのだろう? 今回の「探究育ち」では、ラーンネット・グローバルスクール卒業生の大澤然さんにお話を聞きました。

ラーンネット入学前に通っていた公立中学では、周りのみんなと同じように学ぶのが苦手だったという然さん。今は、7haの牧場で約180頭の牛を育てています。これまでの経緯や今の仕事のことをたっぷり語っていただきました。


公立がしんどくなって、中学生でラーンネットへ

—— 然くんは、中学2年生からラーンネットに入学したよね。ラーンネットに行き着いた経緯を聞かせて欲しいです。

ラーンネットに入学するまでは公立の中学校に通っていました。でも、学びのスタイルが僕には合わなくて。最初の1年くらいは学校に通っていたんですけど、途中からしんどくなってきて。それで、学校に行かなくなっちゃったんです。

小学校の頃から、同級生と足並みを揃えて学ぶスタイルが自分に合っていないな…という感覚がありました。

ラーンネットを知ったのは、妹が小学1年生からラーンネットに通っていたから。中学生のコースもあると教えてもらったとき「楽しそう!」と思って。それで、ラーンネットに入学することになったんです。

うちはひとり親なんですが、母は僕がやりたいと言ったことをいつも後押ししてくれていて、ラーンネットに通うことにも賛成してくれました。

—— 中学校からラーンネットに入ってみて、どうだった?

印象に残っているのは、自分でひとつテーマを決めて、調べたことを発表する授業。自分の興味のあることや知りたいことを勉強できたのは大きかったです。興味のあることだから、どんどん調べていける。それが、すごく楽しかったです。

調べることも好きだったんですけど、僕は発表も楽しかったんですよね。「どうしたら調べたことが相手に伝わるか」「どんな話し方をしたら楽しく聞いてもらえるか」を考えるのが好きで。自分の知っていることを伝える経験ができたことが印象深いですね。

ラーンネットを卒業してからも、自分で決めたことを発表する時間などが学校でありましたが、中学生の段階からその経験ができたのは大きかったです。

—— ラーンネットでは、子どもの学びをサポートする立場の人を「先生」ではなく「ナビゲータ」と呼んでいるよね。ナビゲータとの関わりで印象に残っていることはある?

僕はラーンネットに行ってからもいろいろと大変だったので、担任のナビゲータ・たけやんがずっと気にかけて面倒を見てくれました。

たくさん話しかけてくれたのを覚えています。公立学校での学びが合わなくてラーンネットに来ましたが、「これから先は自分で楽しさを見つけていく必要がある」と教えてくれたのはたけやんです。当時を振り返ると、ありがたかったですね。

牧場に住める山村留学を、ナビゲータが教えてくれた

—— 今は牧場の経営をしているんだよね。どうして酪農に興味を持ったの?

子どもの頃って「ケーキ屋さんになりたい」とか「サッカー選手になりたい」みたいに話すじゃないですか。それと同じ感覚で、僕は「牧場の経営者になりたい」と思ったんです。

小さい頃から、近所の牧場に遊びに行っていたことが大きかったですね。何となく抱いた夢でしたが、大人になるまで変わることはなかったです。

—— 子どもの頃からの夢を叶えられてすごいね。民間企業に就職した後に好きなことを始める人は多いけど、ラーンネットの卒業生は最初から自分の好きなことを仕事にしている人が多い印象があります。どんな進路を選んで夢を叶えていったの?

ラーンネット在学中に、ナビゲータから「岩手県葛巻町で山村留学生を募集し始めているみたいだよ」と教えてもらいました。牧場に住みながら普通科の高校に通えるプログラムで、「牧場に住めるなら!」と思って応募して、3年間通いました。葛巻では、初の山村留学生だったみたいです。

ナビゲータにそのきっかけをもらえたことは、自分の人生にとって、とても大きかったですね。あのとき岩手に行っていなかったら、今は別のことをしていたんじゃないかな。

地元から離れた場所で、家族以外の人と生活するのは初めてでした。でも、全国から集まった同級生と楽しい毎日を過ごしましたね。牧場に住みながら勉強に励み、休みの日は牧場の手伝いもしていました。

牧場のほかにも、焼肉屋さんで働いたり椎茸をつくったり、様々なアルバイトをしていましたね。いろんなことを経験できて良かったです。

その生活をしていたときに出会ったのが、その後進学することになる農業大学校の卒業生でした。「北海道の本別町に酪農や畜産を実践的に学べる学校がある」と教えてもらい、高校卒業後は北海道立農業大学校に進学しました。

右も左もわからないまま入学しましたが、経験豊富な先生に囲まれて現場に即したスキルを教えてもらいましたね。本別町は酪農や畜産が盛んなので、休みの日は搾乳のアルバイトもしていました。

「預託」に特化した牧場を、家族とともに経営

—— 今は、然くんがこの牧場の代表なんだよね。学校を出てから、牧場の経営者になるまではどんな感じだったの?

いまは北海道の本別町で、搾乳牛になる前の牛を預かる「預託」の牧場を経営しています。搾乳屋さんで生まれた仔牛を預かって約1年ほど育てて搾乳屋さんに返す育成農場です。

農業で起業したいなという夢はあったのですが、僕も預託という仕事があることは最初は知らなくて。農業大学校に通っているときに預託について教えてもらい、いろんな話を聞きに行っているうちにやってみたいなと思って。

農業大学校に通いながらインターンしていた農家さんが、年齢などもあるし離農して町に引っ越すということで、譲ってもらったのがこの牧場なんです。僕は本別で2人目の若手就農者なんですが、農業を始める人向けの無利子のローンなどもあって。今は働きながら、そのローンを返しているところです。

—— 牧場というと、牛乳の搾乳をやっているイメージがあるけれど、どうして「預託」の分野に特化することにしたの?

みんなが飲んでいる牛乳って、妊娠して出産した後の牛が出せるものなんですよね。子牛をそこまで育てるのって大変なことなので、今は大きい牧場では搾乳だけをやり、牛の育成やエサの収穫は外部に委託していることが多いんです。

僕が預託を始めたのも、規模が大きくなって牛の育成にまで手が回らない牧場が増えてきているから需要があるんじゃないかな、と考えたからです。ここにいる子たちは全員メスで、こちらで人工授精をして、妊娠して出産が近づくともとの農場に帰っていきます。うちで妊娠して生まれた子どもが、農場に来てくれることもあります。

—— 家族とも、一緒に働かれているんですよね。

今は180頭くらいの牛を預かっていますが、自分だけでは大変だし、もっと牧場も広くしていきたい。神戸に住んでいた母も呼び寄せて、手伝ってもらっています。農業用の大型特殊免許も、昨年とってくれました。「こっちに来てから食べ物もおいしいし、体を動かして働いて、毎日幸せ」と言ってくれています。高校生の妹も、夏休みはバイトで手伝いに来てくれます。

—— 生き物を相手にするし、結構忙しいのかな。

僕は働きたくて働いているので、休みは月に1度くらいですね。でも、もともとやりたかった仕事につけて、サイコーです。パートナーと母には週に3〜4日働いてもらっています。牛を育てている人に余裕がないと、やっぱり牛をしっかり見てあげられないので。余裕を持てるように、休みを入れながら働いてもらっています。

いい牛の育成を積み重ねて、事業を大きくしたい

—— 仕事をする上で、どんな工夫をしていますか?

いい牛を育てることで、搾乳屋さんと信頼関係を積み重ねていくことが大切ですね。

人もそうですが、子どもを産むのは牛にも負担がかかることだし、中には出産で死んでしまう牛もいるんです。分娩時の事故が少なく、牛乳を絞っても元気でいるような牛を育てることが、搾乳屋さんにいい牛を返せるということです。

今、この牧場に仔牛を預けてくださっているのは、大学生の頃にアルバイトさせてもらっていた搾乳屋さんなんです。起業することを話したら「仔牛を預かってほしい」と言っていただけて、ありがたかったです。

—— 牛ってあまり近くで見たことがなかったけれど、ここの牛は人なつっこくて可愛いよね。いい牛を育てるって、具体的にはどんなことをするの?

しっかり牛を見ることですね。例えば、種付けをするにしてもタイミングがあって、牛の行動や体型、状態をしっかり見極めていないといけない。餌の量がちゃんと合っているか、怪我をしていたらすぐ治してあげられているかなど、見ておかないといけないことはたくさんあります。

預かる段階では、状態がいい牛もいれば悪い牛もいるんです。でも、うまく飼えていると搾乳屋さんに牛を返すときには、みんな同じようないい状態の牛になっているんですよね。いい牛を返せているときは、すごく達成感があります。

—— 北海道ってあまり来たことがなかったけれど、とても楽しそうに働いているのが見れて嬉しくなりました。

牛の育成は良い牛を育てれば育てるほど、高い値段で売ることができる。それで、預けてもらう仔牛の数を増やしてもらえることもあります。そうやって、自分の頑張りで売り上げを伸ばせる仕事なんですよね。だからやりがいがありますね。

—— 今後はどんな展開を考えているの?

10年後には牛の数を今の3倍にしたいです。預かっている牛をいい牛にしてちゃんと搾乳屋さんに返すことを積み重ねて、事業を大きくしていきたいですね。パートナーが妊娠中でこれから子どもが生まれることもあって、新しくスタッフも1人雇うことになりました。

あとは、7haの敷地内に山や川もあるんです。切り拓いて整備したらキャンプ場がつくれそうだねとか、夏休みなどに牧場体験してみたい人たちを受け入れられたらいいねとか、妹ともアイデアをあれこれ話しているところです。今すごく楽しいので、これからも頑張っていきたいですね。

—— たくさん案内してくれてありがとう!今後の活躍も楽しみにしています。

(文:田中美奈)


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