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中学3年生で小学校設立メンバーに。子どもたちが「通いたい」と思える学校を全国につくりたい

鹿児島県姶良市(あいらし)の中山間地域にある旧新留小学校の小さな木造校舎。2007年に閉校してから17年の月日が流れた今、この場所を私立新留小学校として蘇らせようという動きがあります。

発起人は、広島叡智学園中学校3年生(2024年3月取材時)の古川瑞樹さん、鹿児島で保育園を運営する古川理沙さん、秋田で教育やまちづくりを手掛ける丑田俊輔さんの3人。一般財団法人私立新留小学校設立準備財団として、小学校づくりを進めています。

立ち上げメンバーの1人である古川瑞樹さんは、小学校を卒業した後に地元鹿児島を離れ、全寮制の公立中高一貫校に進学。この春、高校生になる瑞樹さんに、これまでの学校生活とプロジェクトに込めた思いを聞きました。

学習指導要領を踏まえながらでも、面白い授業はできる

—— 瑞樹さんは小学校を卒業したあとに地元を離れ、広島叡智学園中学校に進学したそうですね。どのような中学校なのでしょうか?

もともとは母が広島叡智学園の関係者の方と知り合いで、それをきっかけに知りました。小学校は鹿児島の小中一貫校に通っていたので、卒業後はそのまま中学校に進学するんだろうなと思っていたのですが、広島叡智学園を見学してみるとすごく面白そうな学校だとわかって。自分が学びたいと思ったことについて、時間をかけて学べる環境だと思いました。それで、受験することにしたんです。

広島叡智学園は国際バカロレアの認定校で、全寮制の学校です。県立学校なのですが、留学生や県外から通っている生徒も多く在籍しています。授業は1コマ90分。先生が前に出て講義をするのは長くても最初の10分くらいだけで、あとは生徒が中心となって学んでいきます。先生は議論が行き詰まったときにサポートしてくれるナビゲーターのような存在ですね。

私は数学がすごく好きなので、放課後は毎日のように職員室に行って数学の先生に質問しています。いつも時間を取ってもらって申し訳ないなと思うのですが…(笑)学ぶ意欲があれば、先生も全力で応えてくれるような学校です。学校は大好きな場所ですし、学ぶことの楽しさも感じています。ただ、中学校で過ごす中で、小学校時代に受けてきた教育とのギャップを感じるようにもなりました。

※ 国際バカロレア:国際バカロレア機構(本部ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラム。多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的としている。(引用元:IB教育推進コンソーシアム

—— どのようなギャップがあったのでしょう?

小学生のときも、友達と遊んだり先生としゃべったりすることは好きでした。けれど、授業が楽しいと感じたことはあまりなかったような気がするんです

そもそも授業の記憶がほとんど残っていなくて。先生が言ったことを黒板に書いてくれて、それを自分のノートに写す。それを繰り返すような授業だったので、中学校で感じるような学ぶことに対するワクワクした気持ちはほとんどありませんでした。

決して悪い授業だったわけではありませんし、小学校は大好きな場所でした。それでも、学ぶことの楽しさは中学校に進学してからの方がより強く感じるようになったんです。

私が3年間通った中学校は、公立学校でありながら先進的な学びを展開しています。それなら、学習指導要領を踏まえながらでももっと面白い授業は全国の学校でもできるんじゃないかと思って、教育に興味を持つようになりました。

母から声をかけられ、中3で小学校設立メンバーに

—— 現在は、学校に通いながら新留小学校の立ち上げメンバーとしても活動されていますね。どのような経緯があったのでしょう?

共同代表をしている母と理事の勝眞一郎さんがたまたま鹿児島県姶良市の山道を通ったときに、2007年に閉校になった小学校(旧新留小学校)の校舎を見つけたそうです。校舎に設置してあった「競争入札」の看板を見て、母が経営している保育園の運営メンバーや、母が普段から日本の教育やコミュニティについて話す機会の多かった丑田俊輔さんとで相談し、買うことを決めた事が始まりです。今は、2026年4月の開校を目指して準備を進めています。

母は以前から小学校をつくりたいと言っていましたし、すでにいくつかの保育園も経営していたので、小学校を設立する話を聞いたときはそこまで驚きませんでした。共同代表として一緒に活動しないかと声をかけてもらったのは、私が中学3年生の秋くらいのときです。

—— 話を聞いたときは、どのように感じましたか?

中学3年生のうちから小学校の設立に関われる機会はなかなかないですし、話を聞いたときは「やりたい!」と思いましたが、正直悩む部分もありました。高校生になってからは学校での勉強が忙しくなるし、どこまでこのプロジェクトに時間をかけられるかわからないなと思って。

けれど、将来やってみたいことにも繋がるし、やってみたい気持ちの方が強かったのでチャレンジしてみることにしました。最後はもう勢いで決めたような感じです(笑)

—— プロジェクトがスタートしてから、約4ヶ月が経ちましたね。これまでにどのような変化がありましたか?

新留小学校の名前をそのまま残して私立学校として開校することを地域の方に伝えると、皆さん喜んでくれました。本当に愛されていた学校だったんだなと。「まだ校歌を歌えるぞ」と言って、校歌を歌ってくれたおじさんもいます(笑)

そして、いろんなご縁も繋がっていきました。閉校になったときの最後の卒業生や担任の先生とも連絡が取れたんです。当時の関係者の方とはほとんど連絡が取れて、17年ぶりに小学校に集まることができました。ちょうど今日は、ドキュメンタリー動画の撮影をしています。

地域の方の反応を見ていると、学校は地域のハブとも言えるような場所なんだなと思います。そんな場所で再び小学校を開校する瞬間に自分が立ち会えると思うと、すごく嬉しいなと思います。立ち上げメンバーに入るか迷ったけれど、あのとき決断してよかったです。これから高校生活がスタートするので、学校でのこともプロジェクトも、どちらも頑張りたいと思っています。

子どもたちが「通いたい!」と思える“ふつう”の小学校を

—— 2026年4月に開校する予定の私立新留小学校は、どんな場所にしていきたいですか?

日本の教育レベルは高いと思いますし、制度も整っています。けれど、柔軟性がないところが課題ではないかなと。今までの教育のいいところを残しつつ、人間の根本の部分を大切にできるような学校にしていきたいと思っています。

キーワードは、「食」と「ことば」です。コミュニティをつくって子育てをしたり、食べ物を分け合って食べたりすることは、人間である私たちだけが行う行為であり、そんな環境とともに生きてきたそうです。けれど、時代の変化によってコミュニケーションが減ったり、スマホやPCの画面上だけでやり取りしたりするようになりました。

手を動かして料理をして、みんなで分け合って食べ、感想を共有する。小学校ではそんな時間を大切にしていきたいと思っています。特別な実践をすることよりも、学校に関わる人や地域の人たちが戸惑いなく馴染んでいけるような場所であることも大切にしたいので、私たちが目指す学校は「ふつうの学校」なんです。

—— 「ふつうの学校」とは、どのようなイメージなのでしょう?

どんな地域でも、その土地に暮らす人や風土を活かして心地よい学校がつくれる。そんな状態を目指しているので、特別な方法論や一握りのプレイヤーに依存しすぎない方がいいと思っています。もちろんその良さもありますが、最終的には理想的な学校の運営方法や教育実践を全国に広げていきたいと思っているので、「普(あまねく=広く)通ること」という意味で「ふつう」と言っています。

新留小学校の設立を通して、「ふつうの学校」を広げていくために必要なエッセンスを言語化したいと思っています。

—— 立ち上げメンバーの中でも、瑞樹さんは最年少ですよね。自身の役割については、どのように考えていますか?

大人よりも小学生との年齢が近い立場なので、「こんなのがあったらワクワクしそう!」という自分の感覚を生かしていきたいと思っています。私が通っている広島叡智学園は特色のある学校なので、そこでの経験で私が感じたこともヒントになりそうです。

また、中高生や未就学の子どもたちの声も取り入れたいと思っていて、先日は学校の先輩や後輩、同級生40人くらいにアンケートを取りました。「小学校でももっと主体的な学びができたらよかった」という声は多かったですね。

新留小学校の近くにある保育園では、子どもたちに「小学校では何したい?」と聞いてみました。すると「お友達をつくりたい」「体育がしたい」「プールに入りたい」など、それぞれが思い描いている小学校のイメージを話してくれました。当事者の声を聞きながら、実際に小学校に通う子どもたちが「こんな学校に行きたい!」と思えるような学校を実際につくれたらいいなと思っています。

全国に理想的な学校をつくっていきたい

—— 瑞樹さん自身は、この春から高校に進学しますね。これからの進路については、どのように考えていますか?

将来的には、中学校や高校と関わる仕事ができたらいいなと思っています。中学校や高校は先生一人ひとりに専門分野があるので、その教科の楽しさを知っているし、熱意を持って教えてくれる先生が多いなと思っています。私が数学を好きになったのも、数学の先生に出会ったことがきっかけでした。

今は小学校の設立に関わっていますが、今後は理想的な中学校や高校も全国につくっていきたいと思っています。とは言え、教育を変えていく立場に立つ前に、学校現場で働いてみたい気持ちもあります。私自身、先生のことはとても尊敬していますし、憧れもあります。なので、大学を卒業した後の10年間くらいは、中学校か高校の教員として働きたいなと思っています。

そのためにも、まずは今関わっている小学校の立ち上げを成功させたいですね。小学校をつくるためには総額7億円を集めないといけないので、クラウドファンディングやふるさと納税などの仕組みを使って資金を調達していく予定です。運営資金のことはもちろん、理想的な学校を全国に広げていくために、これからもっとスピード感を持っていろんな人にこのプロジェクトのことを伝えていきたいです。

—— 瑞樹さん、ありがとうございました!

(文:建石尚子、写真:田村真菜、本人提供)

私立新留小学校は、開校のためのクラウドファンディングにチャレンジしています(2024/6/20締切)。ぜひ、こちらのページもご覧ください。


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