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「香港陥落」読んでみた

好きな作家松浦寿輝さんの新刊、雑誌掲載から注目していました。
香港は昔も今もなんとも言えない独特の魅力を持つ場所。そしてここ数年誰もが知っているように悲しい事が起こり、また姿を変えさせられようとしている。
1941年日本軍の侵攻前夜の香港。人には言えぬ影を持つ日英中の3人の男がペニンシュラホテルで酒を飲み、広東料理を食べ、語り合う。時にはストレートに、時にはシェークスピアのセリフになぞって。友人なのか、敵になるのか。会話の中には読んでいてもいろんな感情が読み取れる。
そして日本軍によってこの後3年8ヶ月香港は日本統治下で悪夢の地となるそのまさに直前の会食は、たがいに明日には敵国の者になるが、友情か祖国を守るのか。そしてある女性も関わる。
話にも人にも必ず裏表がある。サイドbは同じ時間だが英国人リーランドを中心に話が回る。謎の上海から来た2人の商人との食事。敵か味方か心の探り合い。そして戦争が終わり英国へ戻った彼は、苦しい収容所生活も心の傷に残しながら香港での生活の思い出が薄らいでいくが。突然届いた手紙から再び香港を訪れることになり、その女性と中国商人とテーブルを囲み飲み、食べ、語り合う。

戦争前後を中心にした作品だが、ほとんどが酒と料理と会話で作られていて、それだけでそれぞれの複雑な感情や香港の特別な場所(英国に占領され、日本に占領されそしてこの先中国本土に翻弄される)をしっかり伝えている。

印象に残ったのは
「人間性を奪われた人間は、一方で非情な機会となり、他方で凶暴な動物になる」戦争は何があってもやってはいけないと強く心に刻みました。

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