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UFOラインに行きたかった親子の話

タイトル画像が全てなので、まあそういうオチなのだと思って読んでもらえたら幸いだ。

ことの発端はよくわからない呟きからだった。

 それは9月1日に夕方。私は唐突に、父に言った。
「なんかスピリチュアルな所に行きたい」
 なんだよ、なんかスピリチュアルな所って。もっと具体的な話はできねえのか。そう言いたいところだが、かの優しい父は真面目に答えた。
「そんじゃあ、一回行ってみたかったし、UFOラインにでも行ってみるか」

 そこがスピリチュアルな場所かどうかはさておき、UFOラインとは四国の霊峰石鎚山を横断する、つまり山脈のてっぺんを走り抜ける端的に言ってやべー道路。
 私は存じ上げませんでしたが、CMでも使われているらしい。

 参考までに、観光協会のHP。確かにこの景色が見れたら最高だろう。走っている側からどう見えるのか楽しみだ。


 「いいじゃん、いつ行く?」と尋ねると、「明日」と返事。この親子、そういうところある。
 ということで、我々は次の日にこの場所を目指すことになったのだ。



 見事な天候

 翌9月2日。朝起きた瞬間から空は厚い雲に覆われて、今にも雨が降り出しそうな様相だった。天気予報を見ても、本日の予報は雨。こりゃ無理だなと思った。
 朝ご飯をのんびり食べて、「今日どうする?」と尋ねると、父は「行くぞ」と即答した。
「えー、だってすごい曇りだよ、この様子じゃ山の上はもっと……」
「それはそれで楽しそうだろ」
 60を超えてこの冒険心、良くも悪くも得難い素質。しかしこの旅は無謀なのではあるまいか。
 そうは思いつつも、我々は旅立った。遥かな山の頂を目指して。

 我々は特に何も調べず、何の準備もせず車に乗り込んだ。
 まさかのこのタイミングで父のスマホのGPSがご臨終。地図は私が見ることとなったが、目指す深い山の中は電波が怪しい。私はあらかじめ目的地までの地図をスクショすることになった。もう我が家には地図帳とかは無い。

 色々ルートの選択肢は有ったけれど、我々が選んだのは面河渓を経由するルート。面河渓には何度か行ったことが有る。愛媛県では有名な避暑地というか、渓流遊びを楽しんだりするところだ。秋には紅葉も綺麗らしい。今回のルートでは、その入り口の分岐で石鎚スカイラインへと突入するらしい。


 行けども行けども空は暗い。雲はますます黒さを増して、ぽたぽたと小雨が降り始める。中継地点の石鎚スカイラインの入口には、夜は通行できないとか、雨量何ミリを超えると通行止めになるとかいっぱい注意書きが書いてある。こんなノリで来た奴が進んで大丈夫なのか。
 父の車は止まらない。父は「この車は二駆だぞ!」というセリフを言うのが好きだ。千が千尋がなんとやらの暴走パパのセリフのパロディである。きっとそんな感じの父なのだろう。

 すれ違う車さえいない山道を、二駆の軽ワゴンが進む。エンジンは文句を言うように音を荒げながらも、遥か天空を目指す。しばらく車を進めると、何やら展望台に辿り着いた。

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 一体何を展望する為に設置されているのだろう。厚いと思わしき真っ白な雲なのだか霧なのだかわからないものに包まれた山の中、100円で使えるらしい双眼鏡は虚空を見つめている。ホラーか?

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 そして双眼鏡の反対側は、我々がこれまで登って来た道と山を見下ろす。雲は定規で引いたように真っ直ぐ横に、山の頂を覆っていた。これからこの雲の中に突入するのか? 絶対無理じゃないか?

 更に我々は気付いた。なんかクソ寒いということに。
 山を舐めくさっている二人は半袖Tシャツ一枚だった。なんだかビュウビュウ風が吹いているのだけれど、その風は水を纏っているように湿っぽくて、肌に当たるとえらく冷たい。凍えそうだ。このまま登ってもいいのか? 

 近くに滝が有ると書いてあったけれど、草まみれで進んでたら滝以外のものも見つけられそうで諦めた。

 しかし父の車は止まらない。まだ諦める段階ではないようだ。人間諦めも肝心やと思うでと言ったけど、これはこれで楽しいと踏むアクセルは止まらない。
 道路はすぐに霧の中に入った。薄く白で染め上げられた視界は狭く、車でスピードを出すのは難しい。ただ強い風で霧が流されているようで、まだ前は見えた。

 そんな我々の目の前に、なにかデカいものが現れた。それは車道のど真ん中でモゾモゾと動いていた。
「ひ、ヒキガエルだ!」
 私が叫ぶと父は車を止めた。どうやら我々は、車道のど真ん中にヒキガエルがもぞついている世界線に来てしまったようだ。

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 そいつがコレ。カエルが苦手な人はごめん。

 てのひらほどのヒキガエルは大人しかった。すごい寒いから動けないのかもしれない。こんなところで貴重なヒキガエルがぺしゃんこになるのもかわいそうだ。父は車のぞうきんでヒキガエルを包んで、道路のそばの茂みに運んだ。ヒキガエルは素手で触っちゃダメ、絶対。

 もう野生のヒキガエルなんて珍しいものも見たし、お土産はできた。適当なところで諦めて引き返そう。
 ようやく父が諦め始めたきっかけがコレだ。

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 前が見えねえ。
 写真を見せた知人には「サイレントヒルに行ってんの?」と言われた。
 お気付きだろうか? 道路の先に車が一台見える。何か有るようだ、と思った。この頃私はクトゥルフTRPGにハマっており、このままでは時空を超えてしまうような気がしていた(気のせい)
 目星で車を見つけた私は、「なんかあるっぽい」と先に進む。そこにはカフェが有った。
 こんなところにカフェ!? 二度見した。
 しかもこんな場所なのに立派で綺麗な建物だ。車もこんな場所なのに5台ぐらいは泊まっている。どうなってるんだ一体。しばらく辺りを散策してようやくわかった。ここは、登山道の入口なのだ。

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 登山者達はここから遥かな旅に向かうらしい。見れば私達以外の人たちはちゃんとウィンドブレーカーというか、あの派手な登山服を身に着けている。Tシャツにデニムの親子(はたから見ると夫婦である)は大変場違いだ。そんでめちゃくちゃ寒い。

 おまけに父は何故かこんな旅なのに、車にガソリンを入れなかった。もうゲージが2しかないんだが。どう考えても、UFOラインを通過できたとしてその先で給油できなかったら終了だ。
 これはきっと「なんかスピリチュアルなとこ行きたい」みたいな意味わからん理由で神聖な霊峰にくんなという事だろう。とりあえずすぐそばにあった神社にお参りをして、出直してまいりますと頭を下げて帰ることにした。


 旅の終わりに

 我々はしょもしょもと登って来た道を下る。途中に土産物屋を見つけて、何か食べようと思ってオレオ的な食べ物を買い貪った。食事も用意してないぐらいの行き当たりばったりの旅だ。覚悟が甘かった。

 ただ、紅葉は綺麗そうだし、きっと晴れていたら素晴らしい景色が見られるに違いないとは思った。絶対にまた来よう、今度はちゃんと準備して、とフラグを立てつつ帰路についていた。

 今回の旅の土産はヒキガエルと、なんか神社の境内で見つけた穴を掘るハチだった。もしかしたら、ちゃんとUFOラインに辿り着けた記事が書けるかもしれない、そのうち。

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