【読書メモ】医療の外れでー看護師のわたしが考えたマイノリティと差別のことー
だまされた
ジャケ買い…という死語があるけど、本書はまさにそんな感じだった。
本書の表紙には、
若手看護師が描く、医療と社会の現実。(本書帯より)
医療に携わる人間は、こうした社会や医療から排除されやすい人々と対峙するとき、どのようなケア的態度で臨むべきなのか。(本書表紙裏)
…と紹介されている通り、「看護師が、職業人として日々接する患者を通じて感じ、考えた社会的排除の話」…ではない。全然ない。
びっくりするほど全然違う。
たしかにそういう側面もあるのだけど、どちらかというと筆者本人の“自分語り”を通じ、排除される人々を見つめる話だ。その“自分語り”の流れの中に、職業人としての看護師の視点が入る感じ。発売直後から、SNSの、主に医療関係者から絶賛される本書なので、内容が素晴らしいのはホントその通りなのだけど、わたしの感動はまたズレていて、「こういう“自分語り”もアリなのか‼️」というところに感動してしまった。
本筋とズレまくっていることは重々わかった上で、それでもこの点に感動してしまうのは、わたしの“自分語り”は、感動ポルノとして消費されるか、逆に“持つ者”扱いされて言いたいことが正確に伝わらない気がして、意識的に避けてきたところがあるからだ。難病とはいえ、弁護士の資格を取った時点でまったく一般化できず、当事者に勇気を…与える気がしないし、関係ない人には感動を消費されそうだし、なかなか食指が向かない。でも、私だから見えているものもあるのではないかという気はなんとなくしていて、この本はそんな私の「なんとなく」に1つのモデルを見せてくれたような気がする。筆者の看護師としての専門性が、筆者のさまざまなマイノリティ性と合わさった結果、SNSにたゆたう医療関係者たちが気づかなかった、医療から排除されてしまう人たち、その理由を示すことができているように思う。
これは“基本的人権”の話
この本で取り扱っているテーマは、
セクシュアルマイノリティ
性風俗産業
患者からの暴力
児童虐待・DV
医療不信
生活保護
依存症
性暴力
新型コロナウイルス感染症
である。それぞれのテーマで、社会から排除されるとはどういうことかということについて、上っ面を撫でない“告発”が続く。
私は、それぞれを読む中で、「ああ〜、これぞ“基本的人権”って感じがする〜」としみじみしながら読んでいた。筆者は、生活保護を取り扱った章でのみ、生存権(憲法25条1項)を引いていたけど、これすべて紛れもなく基本的人権の話だ。すべての人が個人として尊重されているかどうか(憲法13条)を私たちにつきつけている。思いやりでなく、人が人であるだけで無条件に保障されるべき権利が基本的人権だ。「それちょっと人としてどうよ」と思われる場合でも、人である以上保障されないといけない。つまり、「思いやり」「やさしさ」「みんななかよく」といった世間の最大公約数の場面で啓蒙される「じんけん」よりも、「こんなどうしようもないやつはあっち行け」と言いたくなる場面において、基本的人権は本来持っている威力を最大限に発揮する。世間が思うほど、綺麗で美しいものではない。あ、誰ですか、「権利を享受したければ最低限の義務も果たさないと」とか言ってるの。法律上、権利と義務がバーターになってるのって民法の双務契約(売買、賃貸借、委任などなど)くらいで、憲法にはそんなこと書いてませんよ。
本書はそんな「こんなやつあっち行け」と言われ、思われ、排除されて医療に流れ着いた人たちの話。