ステイホームしている間に勉強しよう、考えよう。1:力学の問題

 世の中は大変なことになっています。人々が病気にかかって亡くなってしまうのは悲しいことですし、そういった事態を避けるために奮闘している人たちがたくさんいますし、いろいろな不便や損害を余儀なくされている方たちもたくさんいます。一方で小中高校・大学などに通えずに、不安を抱えている若い人たちもたくさんいると思います。
 私の名前は谷村省吾といいます。名古屋大学の教授です。私は大学で物理を教えている者ですが、とくに4月・5月の連休中、じっと家にいて退屈している生徒・学生に向けて数学や物理の問題を出して、彼らに考えてもらうのはいいんじゃないかと思いました。別に数学や物理の問題に限らず、また学校の先生に限らず、いろいろな方がいろいろな問題を出してくれればよいと思います。できるだけ一人で家で考えられるような問題がよいと思います。
 そこで私からまず物理の問題を1問出します。高校レベルの単純な物理の問題ですが、じっくり考えるといろいろな発展の可能性があります。

問題

 2つの物体が同一直線に沿って運動しているとします。一方の物体が他方の物体に衝突して合体したとします。さて、合体後の物体の速さはいくらでしょうか?

衝突の図1

物理法則を復習しよう

 この問題を考える上で基本となる物理法則が3つあります。質量・運動量・エネルギーの保存則です。

衝突の数式1

これらの法則は、物理を学んだことのある人ならおなじみのものだと思います。以下、話を簡単にするために、衝突前には、1番目の物体は等速度運動していて、2番目の物体は静止していたとします。衝突し合体して一塊りになった物体は、1番目の物体よりはいくらか遅い速さで動きそうでしょう。その速さはいくらか?というのが問題です。
 この問題を2通りのやり方で解いてみましょう。

一:運動量保存則を基本に考える

 一つ目の解き方です。質量保存則と運動量保存則を使って計算するとこうなります:

衝突の数式2

二:エネルギー保存則を基本に考える

 二つ目の解き方です。質量保存則とエネルギー保存則を使って計算するとこうなるでしょう:

衝突の数式3

あれ? 一と二は違う答えになりましたね。どちらが正しいのでしょうか?
 じつは

衝突の数式4

という大小関係があります。つまり、一の予測速度は必ず二の予測速度よりも遅いと言えます。例えば1番の動いている物体質量が 1 kg、2番の静止している物体質量が 9 kg だったとしたら、一の運動量保存説によれば、衝突後の速さは 0.1 倍になるはずですが、二のエネルギー保存説によれば、衝突後の速さは元の速さの  0.316 倍になるはずです。

もう一度問題を言います

 さて、一と二の答えは一致しないので、少なくとも一方は間違っているはずです。ひょっとすると両方とも間違っているかもしれません。
 では、もう一度、問題を言います:
 同一直線上を等速度運動する質量m1、速度v1の物体と 質量m2、速度v2の物体が衝突・合体したら、衝突後の速度Vはどんな式で表されるでしょうか? また、どの保存則が正しく成り立ち、どの保存則が成り立っていないのでしょうか?
 高校生ならいかにも高校生らしい答えを出すでしょうし、大学院生なら大学院生らしい答えを出せると思います。私の答えは 2020年5月11日に公開する予定です。

あとがき

 この問題を出したすぐ後、ステイホーム勉強用の問題を2問追加しました:
問2:量子力学の観測問題 https://note.com/tani6s/n/n7537ba17ffb8
問3:力学系の対称性の問題 https://note.com/tani6s/n/nbfe8536960c4

 そして、これらの問題の答えたい人はどうやって答えたらよいでしょうか。解答方法を私は定めていませんでした。これは競争で解く問題ではないので、各人が答えを考えてくださればよいのですが、それだけでは出題者は言いっぱなしになってしまうし、せっかく見つけてくださった答えがもったいないことになるので、皆さんの解答は私のツイートへの返信の形で書いていただくか、ご自分の解答をツイッターかブログか note などに書いてブログなどへの案内を「#ステイホーム勉強の答え」のようなハッシュタグを付けてツイートしていただくかするとよいと思います。

この問題に関するツイート:
https://twitter.com/tani6s/status/1253631882211627009


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