せっぷん?

70年代の1位が「また逢う日まで」で、80年代は「ルビーの指輪」だ。何かというと、ミュージックマガジンが発表した年代ごとのJPOPベスト100である。
その90年代版が先日発表された。1位は「接吻」である。
は? せ、せっぷん? 何それ。
お答えしましょう、OriginalLoveが93年に発表した歌であります。

続いて2位が「Automatic」、3位が「ロビンソン」、4位「スウィート・ソウル・レヴュー」、5位「今夜はブギー・バック」。
うーむ、5位はわからん。以下100位までを眺めると3分の1くらいは知らない曲が並ぶ。
9位SMAP「SHAKE」は意外だが嬉しい。この曲、かなりの名曲だと思うのだ。7位「LOVEマシーン」、10位「アジアの純真」あたりは納得だが、「少年時代」(25位)、「さよなら人類」(26位)あたりは低すぎないか。97位「夜桜お七」、100位「おどるポンポコリン」で90年代JPOPは締めくくりである。
1位がなんだこの曲というのに始まり、これだけ知らない曲が並ぶということは、要するに例の「国民誰もが歌える歌がなくなった」という嘆きが大きくなったのがこの頃だと推測できそうだ。
“誰もが知ってる歌”なんてものがそもそもおかしいのだから、ある意味で健全な結果といっていいかもしれない。

面白いのは、毎回のことだが、偏屈ものの選者たちのコメントだ。
「ライブハウスが増え、交通インフラが充実したことでツアーをベースにした活動がしやすくなった」と、バンド多様化の背景を社会的に分析する選者もいれば、「バブル崩壊の『LOVEマシーン』みたいなやけくそ気味に振り切ったパワーの曲が目立った」と解析するものもいる。
「当時親が“最近の曲はメロディが複雑すぎ”と言っていたが、今聴くとむしろ素朴」との見事な突っ込みで最近の曲のやり過ぎ感を諫めるコメントもある。
一方で「私にとって『ふにゃちん天国』を抜きに90年代を語ることは『ハートブレイク太陽族』を語らずして80年代を語ることに等しいのである」というまったく意味不明のコメントを寄せるものもいる。なんのこっちゃ。
ビーイング系やミスチル、trfが意外なほど低く、その代わり「H Jungle with t」が上位にいるあたりが実にミュージックマガジンらしいと、この媒体そのものの偏屈ぶりを指摘する声もあった。

70年代、80年代、90年代ときたのだから次は00年代ということになるのだろうか。ますますオレには知らない曲ばかりのランキングになりそうだ。こうして振り返ると、やはり70年代ランキングが一番共感できるというか、嬉しい内容だ。おっさんだからなあ、オレも。

そんなことを考えながら有楽町で酒を飲む。何年ぶりかで訪れた店だ。
名物の客引きのじいさんがよたよたとしている。よく見れば左半身が不自由なようだ。大きな病気をやったに違いない。帰り際、どうしたおっさん、病気したのかと聞いたら「もう血圧が高くて」としょぼしょぼ答えていた。体に気を付けろよなと言い置いて立ち去る。

家に帰って、今日は音楽が聴きたいなあと思い、パソコンを立ち上げる。もはやオレはCDプレーヤーを持っていないから、CDで音楽は聴けないのだ。YouTubeが音楽プレーヤー。
山下達郎の「クリスマスイブ」を聴く。J-POP史上最も重要な曲だ。「君は天然色」が時代を変えたというような言い方をされることが多いが、オレは「クリスマスイブ」こそ革命だったと思う。とにかくこの音の作り方が30年たった今でも完璧。これほど耳に心地よいマスタリングをオレは知らない。

続いてのんの「星くずの町」を見る。最高だ。控えめに言って最高だ。
ワンピースにポニーテールの女の子が歌って踊るオールディーズ昭和感。年を取ったせいか、古きよきアメリカの音楽がとても心地よいのだ。オレは。
その流れで「明日があるさ」を見る。これも控えめに言って最高だ。
のんが抜群に可愛い。恐るべきレベルのかわいさだ。もはや神である。控えめに言っても神だ。
その神の後ろが誰かと思ったら、小泉キョンではないか。真っ赤な女の子が今や真っ赤なばばあ。隣には尾美としのりもいる。
そしておや、あれは渡辺えり。このおばちゃん、びっくりするぐらい歌がうまい。このグルーブ感や発声は、もしやジャズをやっていたのではないか、昔。素晴らしいボーカルだ。
驚いたのは、キャンディーズの藤村美樹の娘が歌っていることだ。これも実に伸びやかで素晴らしいボーカルである。「この世界の片隅で」のつながりで参加したそうだ。
何よりも素晴らしいのが、演奏である。アレンジは「あまちゃん」の大友なんちゃら。このアレンジが素晴らしく、それに応えるビッグバンドの演奏がこれまだ最高で、控えめに言って神である。 酔っ払った頭でオレは何度もこの動画を見返した。

明日がある、明日がある、明日があーるーさー。

実にクオリティの高い、控えめに言って神の動画で、コロナの日本に必要なのはこれだったんだとオレは膝をポンと打ち、そして秋の澄んだ空気に浮かぶ三日月を眺めつつ、さらに飲んで、酔い潰れて寝るのだった。(2022.9.30)

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